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白砂のシャハラ~ハレムの千夜怪奇の物語~  作者: 狭山ひびき


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したたか娘、嫁(ハレム)に行く 5

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

本日五回目の更新です。

次は明日更新します。


 非常に慌ただしく準備が進められて、午後。


 使用人たちが恐怖と疲労でぐったりしている中、シャハラは一足先にハレムへ向かった。

 荷物はあとから届けられるらしい。

 着飾って髪を結い化粧を施したシャハラに、ハレムの入り口まで同行するらしいアブダラは満足そうだ。


「そうしていると悪くはないな。化粧でずいぶんと大人びるものだ。うむ、さすがは母子だな、詩夏によく似ている」


 途中で飽きて放置はしていたが、一目惚れをして異国から詩夏を連れ去ったアブダラは、シャハラの顔を見て懐かしそうに目を細めた。


 シャハラは「はあ」と適当な返事をして馬車の窓から外を見る。

 アブダラのように金持ちの家は大理石が用いられてとても豪華な作りだが、それ以外は基本、砂色の壁と屋根の家がこの国では主流だ。


 王宮の近くは道が広く整備されているけれど、下町に向かえば細い道が迷路のように入り組んでいる。

 風が吹けば砂ぼこりが舞うのは、町の周囲が砂漠に囲まれているから。


 空気は基本的に乾いており、日中は暑く、夜は寒い。

 それでも、一応の四季はあった。短い冬と短い春、そして雨期を挟んで長い夏、短い秋。

 今はその、短い春の季節だ。それでも暑いのだが。


(家の外に出るのは久しぶりね)


 母が生きていた頃は年に何度かは外に出た。放置はされていたが、母には生活費が与えられており、それでシャハラのためにお菓子や小物などを買ってくれたのだ。


 けれど母が死に、シャハラは外に出なくなった。別に閉じ込められていたわけではないので、出かけようと思えば出かけられただろう。けれど、シャハラを恐れている使用人たちは誰も護衛になんてついてくれない。さすがに、女一人でふらふらと出歩くのは危険だった。首都アワティフは、カディール国で一番の大都市だが、治安はあまりよくない。特に、下町のあたりは。


「そういえば、そなたが自分で用意した荷物は箱一つ分だけだったが、本当にあれだけでよかったのか?」

「物はあまり持っていませんから。お母様の形見と、あとわたし自身が気に入っているものを集めたらあの程度ですよ。部屋に残して来た物は処分していいです。まあ、ほとんど何も残っていないですけど」

「うむ、そうか。そなたは詩夏と同じでつつましやかな生活を好んでいたからな」


(別に好んでないけど?)


 邸に商人が来ても呼ばれないし、母が死んでからは外に買い物にも出なくなったので、必然的に新しいものが手に入りにくくなっただけだ。

 服などは小さくなったりくたびれたりしたら、適当な使用人を捕まえて用意してもらった。

 シャハラを見たら怯えて逃げる使用人たちだが、直接、使用人たちの休憩部屋に乗り込めば逃げ場はない。どうしても必要な時は使用人の休憩部屋に乗り込んで、必要なものを書き記した紙を渡して用意してもらった。


 シャハラだって、欲しいものはあるのだ。

 たとえば甘いお菓子とか、できれば毎日食べたかった。

 けれどさすがに毎日使用人部屋に乗り込むのも可哀想だったので、何かのついでがあるときしか頼めなかったが。


(ハレムに入ったら、お菓子は毎日出るのかしら? もしお菓子が好きなだけ食べられるなら、少しだけ楽しみになって来たわ)


 カディール国のお菓子は、砂糖がたくさん使われていて基本甘い。詩夏は甘すぎると眉をひそめていたが、この地で生まれ育ったシャハラはその甘さにすっかり虜になっていた。口に入れた時にガツンと広がる暴力的な甘みがいいのだ。


 シロップ漬けの甘いケーキ、バスブーサ。

 糖蜜をたっぷりかけて食べる揚げ菓子、ルカイマット。

 クルミやピスタチオなどの砕いたナッツとシロップたっぷりのバクラヴァも外せない。


 想像すると口の中に唾液が溜まって来た。シャハラがまだ知らないお菓子もあるだろう。ハレムは王の妃妾が暮らす派手な場所だ。きっとたくさんのお菓子があるに違いない。


(って、ハレムに持って行くものにお菓子を用意してもらえばよかったわ)


 シャハラは少し考え、この際だからアブダラにたかることにした。


「お父様、わたし、お菓子が欲しいです。あとから届く荷物に混ぜておいてくれませんか?」

「菓子だと? まあ構わないが、そんなものを持って行ってどうするんだ」


 もちろん自分で食べるためだが、お菓子を重要視しないアブダラから大量のお菓子を巻き上げるにはどうしたらいいだろう。

 考えたシャハラ、内心でにやりと笑った。


「ハレムの妃妾たちと仲良くなるのに使います。お菓子を差し入れたりお茶会をしたりするのに。ほら、怪異の原因を探るには情報収集も必要でしょう?」


 もちろん真っ赤な嘘で、手に入れたお菓子は自分だけでいただくつもりだが、アブダラはシャハラの嘘にころっと騙された。


「なるほど、一理ある」

「よろしくお願いしますねお父様。他のお妃様にも配るんですもの、大臣であるお父様が恥をかかないようなものをお願いします」

「任せておけ。国で一番有名で高級な店の菓子を買い占めてやろう」

「わ、さすがですお父様」


 これだけおだてれば、アブダラは機嫌よく他の荷物と一緒に美味しいお菓子を届けてくれるだろう。プライドの高い父は、さぞかし美味しくて高い菓子を用意してくれるに違いない。

 滅多に会わない父だが、非常にわかりやすい性格で助かった。


(どんな妖怪か幽鬼かしらないけど、簡単に出て言ってくれればいいなぁ。そうしたら、美味しいお菓子と食事に囲まれて食っちゃ寝生活が送れるのに。というか送りたい)


 ハレムに入れば基本的には外に出られない。

 ならば、いかにその中で平穏で幸せで楽ちんな生活を送るか。シャハラはそのために腐心することにした。とっとと怪異を片付けて、王の寵の取り合いには参加せず、ひっそりと、けれども苦労のない生活を送るのだ。

 そんな怠惰なことを考えるシャハラに、アブダラは急に真面目な顔を作っていった。


「シャハラよ、まるで期待はしておらぬが、もしも陛下がそなたに興味を示すことがあれば、よろしくやるのだぞ。なにせ、まだ陛下にはお子がおられぬのだから」


 期待はしていないと言う割には野心的なことである。

 もちろんシャハラは、心の中でべーっと舌を出しつつ微笑んだ。


「ええ。もしも、そんな日が来れば」


(王の夜食に眠り薬でも盛ってやり過ごすわよ)


 シャハラはもう一つ必要なものがあったなと、アブダラに言った。


「最初は緊張して寝付けないかもしれないので、睡眠薬も他の荷物と一緒に届けてくださいませ」





面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、

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