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白砂のシャハラ~ハレムの千夜怪奇の物語~  作者: 狭山ひびき


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したたか娘、嫁(ハレム)に行く 4

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本日四回目の更新です!

 とまあ、父アブダラとそんなやりとりがあって――翌日。


 昨日の今日で、アブダラはかなり頑張ったようだ。

 朝起きて、欠伸をかみ殺しながら邸の玄関へ向かうと、荷馬車二つ分の大量の荷物が用意されていた。


 理由が理由でも、娘をハレムに入れるのだ。見栄っ張りなアブダラは、周囲から嗤われないだけの準備をたった一日ですませたらしい。使用人たちはさぞ大変だったろう。

 荷馬車の中を確認して、高級な家具や寝具、服に香、茶葉が収められた木箱、楽器までもが積み込まれているのを見たシャハラは、ずいぶんお金を使ったものだと思ったが、宝石をじゃらじゃらと毎日ぶら下げている義母や異母兄弟姉妹たちのことを考えるとたいしたことはないのかもしれない。


 ちなみに、着飾るための宝石類もあったが、見覚えのあるデザインのものがいくつかあった。一から準備するのが間に合わなかったために、義母や異母姉妹たちのものを奪い取ったのだろう。玄関にアブダラと共に立っている義母や異母姉妹たちが恨めしそうな顔をしている。


「シャハラ、なんだその格好は!」

「なんだって、なにがです?」

「そんな普段着で、化粧もしていないじゃないか!」


 何を言い出すと思えば。


「服なんて普段着しか持っていませんし、化粧道具もありませんよ。今まで買い与えられたことは一度もありませんから。知らなかったんですか?」

「な――」


 アブダラの視線が正妻へと向いた。

 彼女はさっと表情を強張らせて視線を背ける。

 アブダラが真っ赤な顔で怒鳴った。


「シャハラのことは、そなたに任せていたはずだ! いったい何をしていた‼」


(はい、お父様お得意の、自分のことは棚上げ、ってね)


 正妻に任せていたとしても、食事の席に常にシャハラがいないのだから、気づかなかったとは言わせない。おかしいと思った時点で確認を入れれば、とっくの昔に判明していたことだ。

 シャハラがハレムに入ることが決まったために、アブダラの中で急に放置していた娘の価値が上がったのだろうが、それで手のひらを返して他を責めるのはあんまりだろう。まあ、シャハラは義母たちにも異母兄弟姉妹にも何の情もないから、どうでもいいことではあるが。


「すぐに着替えさせて化粧をしろ!」


 怒鳴られた義母と使用人が青ざめて慌てだす。

 荷馬車の中から服を一着取り出すと、使用人の一人が困ったように眉尻を下げた。


「旦那様」

「なんだ!」

「その、大変言いにくいのですが……。シャハラ様は、とても小柄でいらっしゃるので、服が……」


 荷馬車から取り出した服は、どう見てもサイズが違う。

 シャハラは唖然とし、アブダラはあんぐりと口開けた。


「誰だ! 使えないものを用意したのは‼」

「そ、その……急なお仕度でしたので、奥様方やお嬢様方の衣服でまだ袖を通していなかったものをかき集めまして……」

「そんなものを用意したところで、こんな幼児体型のシャハラに着こなせられるか‼」


(よ、幼児体型……)


 これにはシャハラの頬が引きつったが、アブダラは頭を掻きむしって怒鳴る。


「どうするのだ‼ 昼過ぎにはハレムに入ると陛下にお伝えしているのだぞ‼ 針子をかき集めて、シャハラが着られる服を大至急用意しろ‼ 最低でも十着は必要だ! できなければ全員鞭打ちにしてやるから覚悟しろ‼」


 鞭打ちと聞いて使用人どころか義母たちも真っ青になった。

 悲鳴を上げながら、まるで肉食獣に追い立てられた子ウサギのように右に左に走り回る。

 アブダラが我が家の恥だと騒いでいるが、シャハラに言わせれば、ハレムに入る前に準備期間をもらえばよかっただけの話である。


(お父様って、よくこれで大臣が務まっているわね)


 だが、怒り狂っている父に余計なことを言えば、その怒りがシャハラにまで飛び火しかねない。


 シャハラは賢く黙って成り行きを見守ることにした。





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