シャイターナ 5
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ユエを散々詰った後で、シャハラはハタと気が付いた。
アドナナは片付いたが、ナジャーフたちはまだ気を失ったままで、書庫はひどい惨状だ。
ナジャーフたちはそのうち目を覚ますとしても、書庫はどうしよう。これ、怒られたりしないだろうか。
「ユエ、書庫を直すの手伝ってよ」
「なんで俺様が」
「だって、さすがにこのままはまずいと思うのよ」
ナジャーフたちが目を覚ましても、書庫のあまりの惨状にまた恐怖を覚えて気絶するかもしれない。何故なら書庫の中はめちゃくちゃで、明らかに何かとんでもないものが暴れたあとだとわかるからだ。
いったい何をどう暴れたのか、大理石の壁にも床にも巨大な獣が爪でひっかいたような跡が残っているし、本棚のいくつかはバラバラに破壊されている。
この状況でよく窓ガラスだけが無事だったなと、シャハラはどうでもいい感心をしてしまった。
ユエは面倒くさそうに舌打ちした。
「それならファイサルに何とかしてもらえよ。精霊ってのはおかしなもんで、恩を受けたら恩を返すんだとよ。俺様も以前こいつに恩を返してもらったことがある。ランプの封印を解いてやったんだから、ファイサルに頼めば恩返しで何とかしてくれるだろうよ。こいつら精霊はなんでもできるからな」
「なんでも?」
「おう。さすがに死んだ人間を生き返らせろとか言うのは無理だろうが、不治の病を治すくらいはわけない。こんな部屋なんてちょちょいのちょいだろ」
シャハラはファイサルを見た。
彼は微苦笑を浮かべて「一つだけ何か願いを聞いてあげるよ」という。
「この部屋を元に戻すのでいいのかな?」
シャハラはぱあっと笑った。
だが、「お願いします」と言いかけた時、ふと、気を失っているナジャーフの姿が目に入った。
不治の病を治すことくらいわけない、とユエは言った。ならばもしかして――
「ナジャーフ様を、子供を望める体に戻してあげることはできますか?」
ユエは眉を跳ね上げ、ファイサルがきょとんと目をしばたたいた。
「できるけど、それは君のための願いではないだろう? 人のために使って、本当にいいの?」
「おいシャハラ、せっかくなんだから自分のために使え。部屋を直すのに使えって言ったのは冗談だ。精霊っつーのはな、恩返しっつー条件下ではほとんど何でも叶えられるんだぞ。なんでもだ。なんならお前のその貧相な胸元をばいーんにすることだってなあ」
「貧相で悪かったわね‼」
シャハラは反射的に怒鳴り返した。少しだけ……ほんのすこーしだけ、ユエの言葉に揺れてしまった自分が悔しい。だが、シャハラの小さな身長に華奢な体でナジャーフのような豊満な胸だけくっつけられても、それはそれで不格好なことになるだろう。シャハラはこの体型でいい。
ファイサルがやれやれと肩をすくめる。
「だからユエは、もう少し女性に対する言葉遣いを学ぶべきだね」
大いにその通りだ。
大きく頷くと、ユエが仏頂面になった。
「勝手にしろ」
ぷいっとそっぽを向いたユエに笑いつつ、シャハラはファイサルに向き直る。胸云々はともかく、ユエの、せっかくだからシャハラが自分のために願い事を使えという優しさはありがたいけれど、たぶんシャハラは、ここでファイサルの力をナジャーフに使わなければ後悔する気がした。今を逃せば、彼女の体を元に戻してあげることはできないだろう。
「お願いします。ナジャーフ様の体を、元に……子供が望める体に戻してあげてください」
彼女が、悲しい顔をしなくてすむように。
カリムの一番(王妃)になる可能性を、取り戻してあげてほしい。
ファイサルが笑う。
「わかった。……部屋の片づけは、僕も手伝ってあげるよ。特別にね」
ファイサルがナジャーフに向かって手を伸ばす。
ナジャーフの体が金色の光に包まれるのを、シャハラは言葉にできない感動と共に静かに見つめていた。
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