シャイターナ 4
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まさかこんな単純に封印が解けるなんて、とシャハラは半ば茫然としていた。
光り輝いたランプから金色の煙が立ち上ったかと思うと、それは見る見るうちに人の姿になった。否――男の精霊の姿になった。
褐色の肌に長い銀色の髪。髪と同じ色の瞳。
シャハラが知るどの男性よりも背が高いのに、繊細な感じがするのは、彼がそれほど横に大きくないからだろう。程よい筋肉の隆起は見られるが、筋肉質というほどでもない。
シャハラは固唾を飲んでその男を見上げた。
彼が、ファイサルでいいのだろうか。
このランプにはファイサルが封印されているかもしれないとは思ったが、それが正しいのかどうかはわからなかった。もし、現れた精霊がファイサルではなく別の――たとえば悪魔であったなら、絶体絶命というやつかもしれない。だが、ユエが封印を解けと言ったのだから、きっと彼には勝算があるのだろう。そう信じる。
男の精霊は、ばさりと髪をかき上げた。
「ユエ、君はもう少し僕を丁寧に扱うべきだと思うよ。浴槽に沈められた時は危うく窒息するかと思った」
「どうせ死なねえじゃねーか!」
ユエが犬歯を見せてにかっと笑った。
シャハラは彼がファイサルなのだと確認し、ホッと胸をなでおろす。
「それで、これはどういう状況?」
「どうもこうもねえ、このケバい悪魔女が俺様のもんにマーキングしやがったからしつけてやってる最中だ。そのランプよこしな!」
「手を貸そうか?」
「いや、いい。案外小物そうだからな」
ファイサルがランプを掴むと無造作にユエに向かって放り投げる。
あのランプをどうするつもりなのだろう。
ランプを受け取ったユエが、実に凶悪な笑みを浮かべた。
「目ん玉かっぴらいて御覧じろ! ユエ様がとっておきの仙術を見せてやる!」
何かを感じ取ったのだろう。アドナナがさっと表情を変えて書庫の扉から逃げようとした。
けれども、アドナナがどれだけ引っ張っても扉は開かない。ユエの仕業だ。シャハラは直感した。
何がはじまるのだろうか。
気になるような怖いような、そんな複雑な気持ちで見つめていると、ユエがランプの蓋を外してアドナナへ向けた。
「俺様のもんに手を出したこと、それから俺様をただの獣扱いしたこと、永劫の時で悔やむんだな。俺様の術を、その辺の貧弱な聖職者の封印と一緒にすんなよ!」
「や、やめ――」
アドナナの悲鳴が聞こえた。
だが、すべてを言い終わる前に、アドナナの姿がどんどんと小さくなっていく。
ランプの中に納まるまで小さくなったアドナナは、吸い込まれるようにしてランプの中に消えた。
「ほい、完了!」
ユエがランプの蓋を閉じる。
それを、ぽんとシャハラに向かって放り投げた。
「わわ!」
シャハラは両手を伸ばして、何とかランプを受け取る。
ユエがシャハラとファイサルに近づきながら、くっくっと喉を鳴らして笑った。
「壊そうが沈めようがこすろうが、そいつはもう二度とそっから出てこれねえぜ。シャハラ、そのランプをそのまま王に渡してやんな。ランプが転がってるのを見つけて、ついでに悪魔も見つけたらから封じておいたとでも言えばいい。聖職者が見れば何かが入ってるのには気づくだろうから、疑われることはないだろ」
「そ、そうかな……」
そんな報告をしたら、これから先も何かが起こるたびにシャハラに厄介事の後片付けを命じられそうな気がして嫌だが、とはいえ、ランプをこのままにもしておけないだろう。ここはユエの言う通り、諦めてカリムに渡しておこう。
じーっとランプを見つめていると、何を思ったかユエがつかつかとシャハラのすぐ目の前まで歩いてきて止まる。
どうしたのだろうかと見上げると、数秒考えこむように首を傾げたユエが、シャハラの顔に手を伸ばした。
一瞬後、シャハラの唇に熱いものが触れる。
シャハラが口づけられたと気づいたのは、ユエの唇が離れていったあとだった。
「な……何するのよ‼」
「いや、あのケバ女が美味いって言うから、本当に美味いのかと思って。まあまあの味だな」
ぺろり、とユエが舌を伸ばして唇を舐める。
シャハラは思わず、手に持っていたランプをユエに向かって投げつけた。
ファイサルがあきれ顔で一言。
「ユエ、君は昔から、女性の扱いがなってない」
ファイサルのその声に続けて、シャハラは叫んだ。
「はじめてだったのに、ばかあああああああああああ‼」
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