シャイターナ 3
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「ユエ!」
シャハラは思わず叫んだ。
ユエによって蹴とばされたアドナナな本棚に激突し、その衝撃で本棚が倒れて彼女の上に落ちて来る。
ナジャーフが悲鳴を上げて、彼女の女官のうちの半分があまりの恐怖に気を失って倒れた。
ユエは怒りのためか、尻尾を大きく膨らませて、本棚の下敷きになっているアドナナを睨んでいる。
シャハラが茫然としていると、ユエはシャハラをちらりと見て、手に持っていたものをポーンと放り投げた。
それは、ランプだった。封印のランプだ。
「おいシャハラ、俺様がこの女の相手をしてるうちに、何とかしてファイサルの封印を解け。精霊は滅びない。俺様でも、この女をぶっ殺すのは無理だ」
(そんな簡単に言わないでよ!)
これまであれこれ試しても解けなかった封印を、今この場で解けなんて、無茶にもほどがある。
けれど、やるしかないのだろう。
ユエ一人でどうにかなるのならば、彼もこんな無茶な頼みをしてこないはずだ。
「ね、ねえ、シャハラ。いったい何が起きたの……? そのランプはいったい……」
ナジャーフが震えながらシャハラの腕をつかんだ。
ユエがそれを見て軽く手を振る。その途端、ナジャーフとかろうじて気絶せずに残っていた他の女官たちが、意識を失ってその場に倒れた。
「ユエ!」
「ぎゃいぎゃい騒がれたら気が散る。あと。たぶん気を失ってる方が幸せだ」
「そうかもしれないけど……」
シャハラは心の中でナジャーフたちに謝ると、ランプをぎゅっと抱きかかえて、目の前にある本を片っ端から読んでいく。どこかに、ランプの封印を解く方法がないだろうか、と。
本に集中するシャハラの耳に、本棚の下から這い出したアドナナと、ユエの声が聞こえて来た。
「ずいぶん無粋な獣ね」
「俺様をただの獣扱いするな、ケバ女が。くっさいにおいプンプンさせやがって。お前か、シャハラに勝手にマーキングしたやつは。あいつは俺様のものだ、勝手に手垢をつけてんじゃねーよ」
「あら、あなたもあの子を狙っていたの。美味しそうだものね。でも、あたくしは自分の獲物を他の誰かに取られるのが大嫌いなの。だから、あなたには消えてもらわないと」
なんだか、シャハラにとってはあまり好ましくない会話をされているのは気のせいだろうか。いや、集中しろ。今はそれどころではない。
会話の合間に、バタンとかドスンとか大きな音がしている。
ついそちらに視線を向けたくなるが、シャハラは必死で耐えた。大丈夫だ。ユエならばシャハラにアドナナの爪先を触れさせることはない。そう信じている。だからシャハラは、ユエに頼まれたことに集中するのだ。
ぱらぱらとページをめくる。これは星の本だ。違う。次!
長椅子の周りにある本に目を通し終えると、次は床に散らばっている本をかき集めて持ってくる。
ユエとアドナナがやり合っているため、書庫の中はめちゃくちゃだ。本は全部床に落ち、本棚は傾いたり倒れたりしている。
これだけ騒いで人がやって来ないのは、恐らくアドナナかユエのどちらかが術を使っているのだろうと思われた。
さっきまで恐怖で気づかなかったが、書庫の管理をしている女官も倒れている。あちらはユエが来る前から静かだったので、アドナナが入ってきたときに何かしたのだろうと思われた。死んでいないと信じたい。
ランプを抱えて本のページをめくり続けていると、突然、カタカタと腕の中のランプが揺れた。
まるで何かを訴えているようだ。
シャハラがランプから手を離すと、ランプはカタカタと揺れながら少しずつ動く。そして、ある一冊の、黒い表紙の本の上で止まった。
(この本?)
わからない。だけど、きっとランプの中のファイサルが何かを訴えているのだ。そう直感したシャハラは、今読んでいた本を置いて黒い本に手を伸ばした。
ランプを抱え直し、本を開く。
それは、物語の本だった。
遥か昔の、精霊と人の物語。
地下に閉じ込められた少年が、ランプに封じられた精霊を呼び出し、やがて王になる物語だ。
こくり、とシャハラは喉を鳴らしてランプを抱え直した。
金色のランプの表には、複雑な模様が描かれている。
シャハラはそっとその模様を撫でるように、何度かこすった。
そのときだった。
ランプが光り輝き、シャハラはぎゅっと目を閉じる。
シャハラの耳に「やればできるじゃねーか‼」と、喜色に満ちたユエの声が聞こえて来た。
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