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なんちゃって妃は怪異解決がお仕事です ~したたか娘と自堕落天狐の千夜主従物語~  作者: 狭山ひびき


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封印のランプ 7

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 風呂から上がると、ユエはシャハラが持ち帰った砂を眺めていた。

 浴槽に沈められていたランプは、脱衣所に置いておいた。カディール国の空気は乾燥しているので、あのまま置いておけばすぐに乾くだろう。


「おい」

「なに?」

「この砂、そのラーイダという女の口から吐き出されたものなんだよな?」


 ユエは何やら難しい顔をしていた。


「そうだけど、何かわかった?」

「いや……。くさいのはだからか」


 また「くさい」。シャハラにはわからないが、ユエの嗅覚が反応する臭いがその砂からしているのだろうか。

 ユエは汚いものに蓋をするように砂の入った袋の口をぎゅうっと縛ると、バルコニーに続く掃き出し窓を開けたポンとそれを放り出した。一時的に桃源郷との接続を切ってバルコニーに捨てるあたり、よほど気に入らない臭いなのだろうが、それをされて困るのはシャハラだ。


「ちょっと! それ、調べ終えたら返さなきゃいけないんだから!」

「ならとっとと返して来い」

「まだ駄目よ。何も調べてないじゃない」

「調べた。くさい。以上だ」

「何が以上よ!」

「じゃあ逆に訊くが、それ以外の何を調べるって言うんだ」


 シャハラは困った。


「それは……」

「それは?」

「た、例えば、どこの砂か、とか? ほら、砂漠の砂なのか、中庭の砂なのか、それとも別のところの砂なのか、とかね?」

「それで何かわかるのか?」

「……知らないけど」


 シャハラだって、砂がどこから来たものなのかを探っても、解決の糸口にならないだろうなということは薄々わかっている。

 これが悪魔の起こした怪異ならば、砂の出どころを探ったって無駄だ。

 人が起こしたものでも、砂の出どころがわかっても、それで犯人が特定できるわけでもないだろう。というか、十中八九、人の手によるものではないはずだ。百歩譲って砂を飲ませることができたとしても、たった一夜でその遺体が干からびるはずがない。


(ラーイダ様が何かを目撃していたら簡単だったんだけど、何も知らなかったし)


 残る手掛かりは、シャハラが思いつく限りこの砂しかないのだ。


「ねえ、砂から精霊の匂いとかわからないの? 精霊の仕業だっていう証拠があれば、陛下が聖職者を呼んでくれるって言うんだけど」

「前も言っただろ。精霊の気配は探りにくいし、匂いで判別なんかつくか。わかるのは、俺が会ったことある精霊、つまりファイサルの匂いだけだ。あとな、あんま言いたかないけど、砂から精霊の匂いがしましたと報告して、それが証拠になるのか? 人間は精霊の匂いがわかるのか?」


 正論である。

 たとえ何かしらの匂いが砂からしていたとしても、「これが精霊の匂いです!」などと言って、果たして誰が信じるだろう。そんな匂い、誰も知らないのに。


「ねえユエ。精霊の証拠って捏造できないかしら? 証拠さえあれば聖職者が来るのよ。うまく封印の仕方や解除について聞き出せたら、ファイサルの封印も解けるかもしれないわよ?」


 そしてシャハラは、この面倒ごとから早く解放されたい。聖職者を呼びさえすれば、彼等が責任をもって精霊を見つけて封印するだろう。早いところ、全部を聖職者に丸投げしたい。


「お前もなかなか姑息なことを考えるな」

「だって、仕方ないじゃないのよ! 証拠を見つけろって陛下に言われたけど、そんなもんどこにあるのかわかんないじゃないの!」

「そりゃそうだ」

「まったくもう、陛下も陛下よ。幽鬼が見えるなら怪異も解決もできるなんて、とんでもない勘違いをしないでほしいわ。まあ、もとはと言えばお父様のせいだけど」


 父アブダラがシャハラをハレムに押し込んだからこんな目にあっているのだ。

まあ、アブダラの邸であのまま暮らすのとハレムで暮らすのの、どちらが幸せかと訊かれたら悩むところだが。実際、ハレムでこの傍若無人な居候と過ごすのは、案外いいものかもしれないと思いはじめているシャハラである。


 ユエは我儘だが、それなりに面白い経験もさせてもらっている。

 王に面倒ごとを押し付けられるのはいただけないが、アブダラの邸でひとりで退屈に過ごすよりはよほど楽しい。美味しいものも食べられるし、ナジャーフはいい人だ。


「わたしはハレムで食っちゃ寝の怠惰生活を送る予定だったのよ。こんなはずじゃなかったの。なんでこんなに忙しいのよ」

「ハレムに入ってごろごろすることを目標にする女は、お前くらいなものだろうな。女として終わってるんじゃないか?」

「大きなお世話よ!」


 とにかく、この面倒ごとを早く片付けなければシャハラに平穏は訪れない。

 せめてファイサルが封印されている可能性のあるランプの封印が解ければいいのだが、精霊に関する知識はシャハラにはないし――


「そうよ! 書庫よ! まだ全部調べてなかったわ! そこに何か手掛かりがあるかも!」


 残りの本を調べてみよう。もしかしたら、精霊に関する知識が得られるかもしれない。

 ユエはつまらなそうに欠伸をして、言った。


「まあ、頑張れや。最悪、隙をついて聖職者の一人を拉致ってボコって吐かせるって方法もあるな」

「それ、新しい怪異騒ぎになるやつだから、絶対にやめてちょうだい」


 そんなことになれば、またカリムから面倒ごとを押し付けられる気がする。

 シャハラは平穏が欲しいのだ。

 新たな怪異騒ぎなんて、まっぴらごめんなのである。





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