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なんちゃって妃は怪異解決がお仕事です ~したたか娘と自堕落天狐の千夜主従物語~  作者: 狭山ひびき


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封印のランプ 4

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 午後になって、シャハラはワルダの部屋へ向かった。

 部屋にはすでにカリムがいて、ナジャーフと並んで座っている。

 カリムは機嫌が悪そうだった。眉間にくっきりと深いしわが刻まれている。

 だからだろう。隣のナジャーフの方は困った顔をしていた。


 シャハラがカリムとナジャーフの対面の長椅子に通されると、カリムは足を高く組んで単刀直入に言った。


「昨晩、リシャーフ・マスジドから精霊を封じたランプが盗み出された」


 シャハラは内心ぎくりとしたが、それをおくびにも出さずに困惑顔で首を傾げてみせた。間違っても、シャハラが盗んだと気づかれてはならない。


「見つかったんですか?」

「まだだ。聖職者たちが総力を挙げて探していると言うが、見つからない。……というか、ランプが盗まれたのが本当に昨晩かどうかも怪しいらしい」

「どういうことですか?」


 シャハラは目をしばたたいた。盗んだのは間違いなく昨晩だ。それなのに昨晩かどうかわからないというのは、どういう意味だろう。

 カリムは嘆息した。


「昨晩、リシャーフ・マスジドに何者か……というか、異形が侵入したのは間違いないらしい。巨大な金色の犬の幻が現れて、モスクの中を駆けまわったそうだ。それが幻だと気づいた聖職者たちが嫌な予感を覚えて精霊の封印を確認しに行ったところ、封印のランプが消えていたらしい」


(ユエが聞いたら「狐だ!」って怒りそうね……)


 やはり聖職者たちには犬と認識されていたようだ。ユエの仏頂面が目に浮かぶようである。


「だったら、盗まれたのは昨晩でいいんじゃないですか?」

「それがそう単純な話ではないんだ。詳細は省くが、封印のランプが置かれていた部屋には鍵がかかっていて、その部屋へは普段何人も立ち入らないようにしていたらしい。部屋の中を確認するのは、三月に一度、清掃の日のみだったという。そして最後の清掃の日が今から二月ほど前だった。つまり二月前から昨晩まで、誰もそこにランプが存在しているかどうかを確認していないんだ」


 なるほど、だから「昨晩かどうかわからない」ということか。

 シャハラが頷きながら聞いていたら、カリムの眉間の皺が深くなった。


「何を能天気な顔をしている。いいか、シャハラ。もしもだ。ランプが紛失したのが昨晩ではなくずっと前だったとして、封印がすでに解かれているのだとしたら、砂を吐いて死んだラーイダはその精霊に殺された可能性があるということだ」

「え⁉」


 とんでもないところに話が飛躍して、シャハラはギョッとした。

 シャハラが思わずナジャーフを見れば、彼女は頬に手を当てて眉尻を下げる。


「ラーイダの亡くなり方は、明らかに異常でしょう? 怪異だと思うわ。だとすると、犯人が精霊である可能性が高いでしょう? あのような恐ろしい真似、人には不可能だわ。もしかしたら、陛下や宦官が中庭や廊下などで寝ていた件も関係しているのかも……」


(いえ、そっちはユエの仕業ですけどね)


 などとは言えないので、シャハラは神妙な顔で頷いた。

 カリムたちが中庭や廊下で寝ていた件はともかく、ラーイダの死が精霊の仕業かもしれないという点においては否定しない。だが、ランプに封印されている精霊は犯人ではない。ランプはシャハラの部屋にあるからだ。封印はまだ解かれていない。


 しかし、それを知らないカリムやナジャーフは、盗まれたランプに封印されていた精霊こそが犯人だと疑っているようだった。というか、ほとんどそうだと確信している顔である。


「つまりな、シャハラ。私のハレムに、精霊が侵入していると言うことだ。これは断じて容認できる話ではない」

「は、はい」


 カリムの気迫に気圧されてシャハラが返事をすると、カリムは厳しい表情のまま続けた。


「ラーイダの死は、精霊の手によるものだ。私はそう発表する。そして、私は私の威信にかけて、私の妃を殺害した精霊を野放しに知ることはできない。わかるな?」


 わかりたくないが、わかってしまった。

 私の威信だとかなんとか言っているが、結局のところ、この話が行きつく先は――


「シャハラよ、急いで精霊を見つけろ! お前の母は特別な目を持っていて、お前もそうだと聞いた。お前ならば精霊を見つけることも容易だろう。精霊を見つけ、再び封じるのだ。わかったな!」


(封じるのだと言われても……)


 簡単に言ってくれるが、精霊の封じ方なんてシャハラは知らない。

 とはいえ、王の命令を拒否するのは不可能だ。さてどうしようかと考えたシャハラは、そこでハッとした。これは案外、今のシャハラにとってはいい流れかもしれない。


「陛下、精霊を封じろとおっしゃられても、わたしは封じ方を存じません。まずは精霊の封印について誰かからご教授いただきたいのですが?」


 精霊の封印についてわかれば、部屋にあるランプの封印が解けるかもしれない。

 カリムの命令を拒否するのでもなく、加えてほしい情報が手に入るのだ。ある意味、天はシャハラに味方をした。まあ、もし味方してくれるのなら、怪異なんて起きないでほしかったが。


「封印についてか……。それを知っているのは聖職者だけだな。私も知らない。だが、封じ方がわからなければそなたに精霊を封じることはできないな」

「陛下、そうは言っても、ハレムに聖職者はいらっしゃらないのでは?」

「そうだな。あいつらはハレムを不浄の場所だとかなんとか抜かしているからな、特例を出しても来たがらないだろう。……仕方がない。シャハラ、まずはハレムに精霊がいるという証拠を集めろ。証拠さえあれば、封印のランプの紛失の責任を追及し、聖職者たちに責任を持ってハレムの精霊を封じるように私から命じる。ハレムを嫌おうとも、自分たちの尻ぬぐいくらいはするはずだ」


 途中までうまく行きかけたが、ダメだった。やはり精霊の封印の仕方はそう簡単に教えてくれそうもない。


(別の手を考えるしかなさそうね)


 ここで食い下がっても怪しまれる。


 シャハラは余計なことは言わず「かしこまりました」と頭を下げた。





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