封印のランプ 3
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翌日。
シャハラが朝食を取りに厨房へ向かうと、そこに宦官が二人待ち構えていた。
シャハラに向かって恭しく頭を下げると、端的に言う。
「午後から、陛下がワルダの間にいらっしゃいますようにと仰せです」
ワルダの間とは、ナジャーフの部屋である。
シャハラは顔が引きつりそうになった。十中八九、あのランプのことのような気がした。聖職者たちが騒いでいたので、カリムの耳にも入ったはずだ。また厄介事を押し付けられたらどうしよう。
昨日リシャーフ・マスジドから盗んだランプは、もちろんシャハラの部屋――アズラクの間にある。
アズラクの間では、昨日の夜から現在進行形で、ユエがランプの前に仁王立ちして難しい顔で唸っていた。ランプを盗んだまではよかったが、どうやって封印を解いていいのかわからないのだ。
王の命令だ。シャハラは是以外の答えは持ち合わせていない。
シャハラは宦官に了解した旨を伝えると、厨房で朝食を受け取ってとぼとぼとアズラクの間へ戻った。
「……何してるの?」
部屋に戻ったシャハラは唖然とした。
ユエがランプを逆さまにしてぶんぶんと振り回していたからだ。
「おぅ、おかえり。いやな、振ったら中からファイサルが出てこないかと思ってよ」
「水じゃないんだから……。というか、そんな小さなものの中に、本当に精霊が入ってるの」
「それは間違いないと思うぜ。封印がかかってるのは本当みたいだからな。くそっ、やっぱ出て来ねえか。いっそぶっ壊してみるかな」
「そんなことして、二度と封印が解けなくなったらどうするの?」
「そうだよなあ」
ユエがイライラしながらランプをぽーんと寝台に放り投げる。
ランプは寝台の上を二度、三度と跳ねて静止した。
「お友達が入っているかもしれないんだから、あんまり乱暴に扱わない方がいいんじゃない?」
「いや、ファイサルがキレて自力で出てこないかと思ってな」
「残念ながら、出てこなかったわね」
ランプはうんともすんとも言わない。
シャハラが運んで来た朝食をテーブルの上に置くと、ユエは「まずは腹ごしらえが先か」とぺろりと唇を舐めた。
肉の葡萄酒煮を皿ごと分捕って行こうとしたユエの手を、シャハラははしっと掴む。
「半分こでしょ!」
「俺様は昨日働いてとても疲れた。ご主人様を少しは労ってくれてもいいと思わないか?」
「いつからあんたがわたしのご主人様になったのよ!」
「かわりにそっちの野菜を全部やるからこれをよこせ」
暴君は、何が何でもその皿の中身を全部食べたいらしい。
シャハラはやれやれと嘆息した。
まあ、昨日の夜の散歩は楽しかった。そのお礼というのは釈然としないものがあるけれど、ランプの封印が解けなくてイライラしているみたいだし、今朝だけ大目に見てやろうか。
「今日だけだからね」
「おう! あ、そっちのデーツもよこせ」
「……あんた、そのうち殴るわよ」
シャハラはデーツの入った皿をユエの前に押しやり、じろりと睨んだ。デーツの代わりに、あとで桃源郷に行って美味しそうな果物でも取ってこよう。
ユエは肉を前にして少し機嫌が直ったようだ。
尻尾をゆらゆらと左右に揺らしながら、満足そうな顔で肉を頬張っている。
シャハラも朝食を取りつつ、ちらりと寝台の上に転がっているランプを見た。
リシャーフ・マスジドから盗み出せても、中身を取り出せなければ意味がない。
(方法を知っている人、いないのかしら?)
単純に考えれば、知っているのは聖職者だ。だが、彼等に直接訊ねることはできない。そもそもハレムに聖職者はいないし、もし会う機会があっても、精霊の封印の解き方など訊ねたら不審がられるのがオチだ。
(せっかく封印したんだもの、簡単に解けるようにはしていないわよねえ)
シャハラはやれやれと肩を落として、ユエがいらないといった野菜料理を口に入れた。
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