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なんちゃって妃は怪異解決がお仕事です ~したたか娘と自堕落天狐の千夜主従物語~  作者: 狭山ひびき


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砂に溺れた女 4

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 次の日。

 ユエが準備を整えている間、シャハラは少しでも情報を集めようと、ハレムの書庫へ向かった。


 そもそも、シャハラは精霊について詳しく知らない。

 この国には昔から精霊と呼ばれる存在がいて、神格化されていたり、または危険な存在として恐れられていたりする。


 その精霊は、本来は人の前に姿を現すことはない。

 姿を現すときはたいてい人に害を及ぼすときだと言われており、害を及ぼす精霊は悪魔(シャイターン)と呼ばれ、聖職者によって封じられる。


 ゆえに、単純に考えれば、ファイサルという精霊が封印されているのならば、それは聖職者によって悪魔と定められたからだろう。何か、人に害を及ぼしたはずだ。


 そんなファイサルの封印を解いていいものか、シャハラはまったく悩まなかったわけではない。だが、ユエがいるから――なんとなく、そう悪いことにもならないのではないかと思っただけだ。

 どうしてあの傲岸不遜な同居人がいれば大丈夫だと思ったのかは、自分でもよくわからないけれど。


(ええっと、精霊に関する本はどこかしら?)


 書庫にはシャハラ以外は管理人の女官しかいなかった。

 カディール国は識字率が低く、特に女性はその傾向が強い。


 というのも、政治参入を認められていない女性は、そもそも学ぶ機会が少ないのだ。

 親から教師をつけられても、親は勉学よりも芸事を学ばせる方を優先する。アブダラもそうだった。とはいえ、シャハラに教師が付けられたことはないが。


 シャハラが文字の読み書きができるのは、ひとえに母詩夏のおかげだ。

 母の生まれた燦の国とカディール国の文字は違う。けれど、母の生家は燦の国ではそこそこ裕福で、また法師だったので、詩夏は文字に触れる機会が多かったそうだ。

 文字が読めて書くことができれば世界が広がると詩夏は言っていた。だから詩夏はカディール国に連れてこられた時に言葉を覚えるのと同時に文字を覚えたと言う。そして、それをシャハラに教えてくれた。だからシャハラは文字が読めるし書くこともできる。


 だが、ハレムで暮らす妃妾全員が文字の読み書きができるはずがないから、恐らく書庫を使う人間は多くないのだろう。

 書庫に並べてある本も、整理されているとは言い難い状況だった。

 どこに何があるのかまったくわからない。たとえば昔の物語がかかれた本の隣に、植物について書かれた本がある。かと思えば、怪しげな民間療法の本の隣には、歴史書が置かれていた。適当に並べているとしか思えない。


 書庫はそれほど広くなく、蔵書も百冊もないだろうと言うほどだ。

 なので全部中身を確認していくことも不可能ではないが、時間はかかるだろう。

 母は整理整頓が得意だったので、だいたいどこに何があるのかはすぐにわかったのに。シャハラは今更ながらに母の偉大さを知った。


(仕方ない。左から順番に中身を確認していこうかな)


 結局この日、シャハラは五冊の本の中身を確認するだけで一日を費やした。最後に開いた五冊目の本が物語で、下半身が石にされた王子の話が書いてあった。それが面白くて、ついつい読みふけってしまったのだ。


 次は物語を見つけても読み耽らないようにしようと決め、その翌日。

 シャハラは、今度は書庫の本の三分の一まで中身を確認することに成功した。ところどころ気になったところをじっくり読んでしまったが、初日よりはましだった。


 そして、精霊について書かれた本にはまだ出合えないまま、リシャーフ・マスジドにある精霊の封印を確かめに行く日になってしまった。





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