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なんちゃって妃は怪異解決がお仕事です ~したたか娘と自堕落天狐の千夜主従物語~  作者: 狭山ひびき


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ユエの目的 3

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 長椅子に腰かけて朝食を食べていると、ユエが実に艶々した顔で戻って来た。何かいいことでもあったのだろうか。


「おかえり」

「おう! 俺の飯は?」

「取り分けてあるわよ」


 半分こした朝食は、別の器に取り分けて置いてある。この器は桃源郷の家から拝借したものだ。最近では食べる前にちゃんと各自の分を分けるようにしているのである。

 ユエがシャハラの隣に座って朝食に手を付ける。

 一足先に食事を終えると、シャハラは肉を頬張っているユエを見た。


「今日の夜ね、悪いんだけどユエは桃源郷に行くか、外にいてくれない?」

「なんで?」

「なんでって、陛下が来るからよ!」


 来ると言ったカリムを止める術をシャハラは持たない。

 睡眠薬を盛るつもりではあるが、あれからしっかり考えて大量摂取させるのは危険だと判断したため、一回の分量を超えない量を酒に混ぜるつもりだ。だから、すぐに熟睡してくれる可能性は低い。

 ものすごく困るが、ハレムに入った以上、こうなる可能性は念頭には置いていた。睡眠薬作戦がうまくいかないのならば仕方がない。犬にかまれたと思って諦めよう。ナジャーフのような豊満美女を相手にしているカリムなら、シャハラには一晩で飽きるだろう。


 すると、ユエはぺっと骨付き肉の骨を吐き出し、言った。


「ここは俺の縄張りだ。他のオスを入れるかよ」

「だから、ハレムは陛下のものだってば!」

「ともかく、他のオスにマーキングなんてさせるか。まあ任せとけ。何とかしてやる」

「……何とか?」

「何とか」


 すごく嫌な予感がするけれど、カリムの相手をするよりはいい。シャハラは詳しく聞くのをやめて、少し肩の力を抜いた。ユエが何とかすると言うのなら大丈夫な気がしてきたからだ。


「あ、そうだ。ねえ、ちょっと見せたいものがあるんだけど」


 シャハラは立ち上がり、宝石類を収めている箱を持って戻る。箱を開けて、中からルビーの耳飾りを取り出した。


「これ、昨日の酒宴で陛下にもらったの。女の精霊(ジンニーヤ)の持ち物だったんだって。なんかいわくがありそうでちょっと怖いんだけど、これ、安全?」


 物には霊魂が宿るのだと母詩夏(しーし)から聞いたことがある。

 持ち主が大切にしていたもの、乱暴に扱われたもの、特別な力を持つ人間が所有していたもの、そして、幽鬼や妖怪の持ち物。

 霊魂の宿った物は、受け継いだものを守護することもあるが、害することもあるそうだ。

 このルビーの耳飾りには霊魂が宿っているのだろうか。宿っているのならば、もらったシャハラを守護してくれるのか、それとも傷つけるのか。


(危険なものなら手元に置いておきたくないのよね)


 とはいえ、王から下賜されたものをおいそれと処分できない。ならばユエに見せて、問題がありそうならどうにかしてもらおうとシャハラは考えた。


「女の精霊の持ち物?」


 ユエがぴくりと眉を動かす。


「それは女の精霊で間違いないのか? 男の精霊(ジンニー)じゃなくて」

「わたしにはよくわかんないわよ。精霊に詳しくないし。ただ、そう言い伝えられているらしいわよ。あと、その女の精霊が今どこでどうしているのかはわからないんだって」


 ユエは残りの朝食を急いでかき込むと、シャハラから耳飾りの片割れを受け取った。

 涙型のルビーが輝く見事な耳飾りだ。ルビーも血のように赤く透明度が高い。相当な値打ちものだろう。

 ユエが金色の目を細めてじーっと耳飾りを見る。


「確かに精霊(ジン)の気配は残っているが、違うな。俺の知ってるやつの気配じゃない」

「ユエ、精霊に知り合いがいるの?」

「あー、言ってなかったか」


 ユエはシャハラに「呪われたものじゃねーから大丈夫だ」と耳飾りを返して、がしがしと頭をかいた。一対のふわふわな耳が小さく揺れる。

 ユエは何事かを考えているようだった。

 しばらく黙って、視線を虚空に向け、それから「まあ、いっか」と笑う。


「確かに俺には精霊の知り合いがいる。というか、この国にはそいつを頼って来たんだ。いろいろあって、今はここを住処にしているけどな」

「待って、話が長くなりそうならお茶を淹れるわ。食後で喉乾いたし。あと、食器を片付けなきゃ」


 食器は廊下に出しておけば誰かが回収してくれる。アズラクの間は恐れられているので、部屋の扉から少し離れたところに置いておくのがコツだ。扉の前だとなかなか回収されるまでに時間がかかるが、離れたところに置いておくとすぐに回収されるのは経験して知っている。

 食器を外に出し、シャハラは茶葉をポットに入れてユエに湯を頼む。程よく蒸らして、カップに注ぐと、一つをユエの前に置いた。市で仕入れたマーモウル(クッキー)も出してやる。


 最初の頃は苦いだなんだとケチをつけていたユエだが、彼の舌が慣れたのか、それともシャハラのお茶を淹れる腕が上達したのか、彼は文句を言わずにカップに口をつけた。


「んじゃまあ、俺様がどうしてこの国に来たのか、特別に教えてやろう」


 ユエは偉そうに言って、語り出した。





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