第九話 球技大会 宮坂陸
六月。
梅雨入り前。
空だけが、
やたら青かった。
そして校庭には。
「球技大会開幕でぇぇぇす!!」
体育教師の怒鳴り声。
歓声。
拍手。
ざわめき。
一年で一番。
運動できる奴が目立つ日だった。
二年三組の空気は、
割と終わっていた。
「バスケ無理」
「サッカーとか体育でしかやらん」
「卓球に逃げたい」
江口は開会式前から疲れている。
河野は日陰を探している。
御影はトーナメント表を見ていた。
そんな中。
一人だけ。
異様にテンションが高い男がいた。
「っしゃあああ!!」
「球技大会ぃぃぃ!!」
宮坂陸。
朝から叫んでいた。
陽介は笑う。
「元気だなぁ」
北見が呆れる。
「犬みたい」
「分かる」
開会式が終わる。
宮坂だけ元気だった。
陽介が聞く。
「そういやお前何部?」
宮坂は即答した。
「運動部!」
「だから何部だよ」
「運動部!」
「会話しろ」
周囲が笑う。
宮坂は本気で不思議そうだった。
「いや、全部好きだし」
「入ってないの?」
「入ってない」
「なんで?」
宮坂は少し考えた。
「入りたい部活なかった」
「は?」
「なんかギスギスしてたし」
あっさり言う。
「勝ちたいのは分かるんだけどさ」
「うん」
「もっと楽しくやりたかった」
そう言って笑う。
「だから今日好き」
意味が分からない。
でも本人は本気だった。
試合が始まる。
そして。
二年三組は驚くことになる。
宮坂が異常だった。
早いドリブル。
正確なシュート。
堅実な守備。
取る。
走る。
速い。
全部できた。
「は?」
「え?」
「何あれ」
クラスがざわつく。
江口が呟く。
「チートじゃん」
西野も頷いた。
「バケモンだろ」
宮坂は楽しそうだった。
「ナイス!!」
「ドンマイ!!」
「次行こうぜ!!」
ずっと声を出している。
陽介はコート脇で見ていた。
「良いなぁ」
御影が呆れる。
「アンタ出たくならないの?」
「なる」
「なるんだ」
「でも今日はアイツの日だろ」
コートを見る。
宮坂が笑っている。
本当に楽しそうだった。
試合終盤。
相手は強豪クラス。
点差は僅差。
空気が張り詰める。
その時。
柳下麟太郎にボールが回った。
固まる。
焦る。
周囲がざわつく。
「打て!」
「パス!」
柳下は迷う。
そして。
ミスした。
ボールを奪われる。
相手が走る。
空気が凍る。
だが次の瞬間。
宮坂が走っていた。
速い。
異常に速い。
追いつく。
奪う。
そのまま。
シュート。
ネットが揺れた。
歓声が爆発する。
「うおおおお!!」
「やっば!!」
「エース!!」
クラスが騒ぐ。
だが。
宮坂はガッツポーズをしなかった。
真っ先に柳下のところへ向かう。
肩を叩く。
「ナイスチャレンジ!!」
柳下が顔を上げる。
「え……」
「次も回すからな!!」
笑顔だった。
本当に。
当たり前みたいに。
試合再開。
クラスの空気が変わっていた。
柳下が前を見る。
安西が立ち上がる。
「いけーーー!!」
江口も叫ぶ。
「ナイス!!」
西野まで声を出す。
「走れぇぇぇ!!」
完全にクラス戦になった。
そして最後。
宮坂が決勝点を決める。
ブザー。
歓声。
二年三組が飛び跳ねた。
試合後。
ベンチ。
スポーツドリンク。
汗だくの宮坂が笑っていた。
陽介が隣に座る。
「ヒーローじゃん」
「だろ!?」
即答だった。
陽介は吹き出す。
「いやぁ」
「こういうバカ好きだわ」
宮坂も笑う。
しばらくして。
柳下が近付いてきた。
少し申し訳なさそうな顔。
「……ごめん」
宮坂が首を傾げる。
「何が?」
「ミスしたし」
数秒。
宮坂は本気で考えていた。
それから。
「でも出てくれたじゃん」
柳下が固まる。
「え?」
「俺、一人じゃ試合できねぇし」
当たり前みたいに言う。
「柳下が出てくれなかったら参加すらできなかった」
柳下は何も言えなかった。
宮坂は笑う。
空を見上げる。
青かった。
六月の空。
汗。
歓声。
まだ残る熱気。
宮坂は満足そうに言った。
「楽しかったなぁ」
その顔を見て。
陽介は少しだけ目を細める。
ああ。
こいつ。
スポーツが好きなんじゃない。
みんなでやるのが好きなんだ。
かっこいいな。
宮坂は遠くで騒いでいるクラスメイト達に向かって手を振った。
二年三組も手を振り返す。
陽介は小さく笑う。
六月の空は、
まだ青かった。




