表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/8

第六話 キャンプ 大山博道


ゴールデンウィーク前のホームルーム。

担任が黒板を軽く叩いた。


「この高校は毎年、GW中にクラス親睦イベントをやります」


教室がざわつく。


「マジ?」


「自由参加?」


「だるそう」


プリントが回ってくる。


『内容:クラスごとに自由決定』


陽介は思わず笑った。


「面白ぇ学校」


隣の男子が引く。


「何がだよ」


陽介は教室を見回した。


ギャル。

オタク。

ガリ勉。

ヤンキー。


まだ全然まとまってない。


でも。

少しずつ輪郭は見え始めていた。


「絶対面白くなるだろ」


「お前だけだよそんなこと言うの」



ホームルーム終了後。

会議は案の定まとまらなかった。


「遊園地!」

「カラオケ!」

「ボウリング!」

「BBQ!」


好き勝手な案が飛び交う。


だが。

担任が手を挙げた。


「却下」


「早っ!?」


教室がざわつく。

担任はプリントを振った。


「GWだぞ」

「今更予約取れません」

「あと予算」

「あと引率一人」

「現実見てください」


夢がどんどん潰されていく。


「じゃあどこ行けばいいんだよ……」


誰かが机に突っ伏した。

会議が止まる。

皆が黙る。


その時だった。

後ろの方から小さな声がした。


「……キャンプ場なら」


一瞬。

教室が静かになる。


皆が振り向く。

大山博道おおやまひろみちだった。


本人も、こんなに注目されると思っていなかったらしい。

少し困った顔になる。


「えっと……」

「叔父が管理人やってる場所があって」

「人数も入れるし」

「川もあるし」

「予約も多分大丈夫」


教室がざわつく。


「マジ?」

「川あんの?」

「BBQできる?」


大山は小さく頷く。


「できる」


担任が初めて興味を示した。


「トイレは?」


「あります」


「炊事場は?」


「あります」


「車入れる?」


「入れます」


担任は少し考えた。

それから頷く。


「優秀」


「先生が褒めた」

「初めて見た」


教室が少し笑う。

大山は居心地悪そうに目を逸らした。

陽介はその様子を見ていた。


さっきまで何も言わなかったのに。

自分の知っていることになった瞬間だけ。

ちゃんと喋った。


「へぇ」


陽介は少し笑う。

面白そうな奴だと思った。



そしてGW。


山。

川。

青空。


風が気持ちいい。


「よーし!」

「遊ぶぞー!」


テンションの高い連中が走っていく。


だが。

開始一時間で問題が発生した。


「火つかねぇ!!」


煙だけが上がる。


「目痛ぇ!」


「何で燃えないんだよ!」


別の場所では。


「テント崩れた!」


「また!?」


「説明書どこ!?」


完全に地獄だった。


少し離れた場所。

担任は折り畳み椅子に座っていた。

缶コーヒーを飲んでいる。


「先生!」


「助けてください!」


「頑張れー」


「他人事!?」


完全に見守りモードだった。


その時。

大山が小さく呟いた。


「……逆だ」


誰も聞いていない。


だが。

近くにいた陽介だけは聞いていた。


「ん?」


大山はテントを見る。


「骨組み」

「逆」


陽介が振り返る。


「分かるの?」


大山は少し困った顔をした。


「まぁ」


「じゃあ教えてくれ」


「え」


「頼む」


大山は渋々前へ出た。


「まずこれ」


骨組みを外す。

組み直す。

順番を変える。

迷いがない。


カチッ。

カチッ。


数分後。

綺麗にテントが立った。

周囲が静かになる。


「え」


「すげ」


「何で分かるの?」


大山は少し視線を逸らした。


「慣れてるから」


火起こしも同じだった。

薪を見る。

枝を選ぶ。

組み方を変える。

風向きを見る。


パチッ。

小さな火。

そこから炎が広がる。


「おおおお!」


歓声。

安西が拍手する。


「すご!」

「職人じゃん!」


大山は居心地悪そうに頭を掻いた。


「別に」


昼過ぎ。

食事の準備をしている時だった。

大山が立ち上がる。


「山菜取ってくる」


陽介が顔を上げる。


「一人で?」


「慣れてる」


当然みたいに言う。


「待て待て」


陽介が止める。


「山だぞ?」


「山だけど」


「危なくないの?」


大山は首を傾げた。

本気で意味が分からないらしい。


「道あるし」

「その辺の草とか」

「普通に毒あるだろ」

「分かるから」


陽介が固まる。


「分かるの?」


「まぁ」


大山は本当に普通の顔だった

陽介は思わず笑う。


「何なんだお前」


結局、何人かで付いていくことになった。


川辺。

林。

木漏れ日。

大山は迷いなく歩いていく。

途中でしゃがむ。


「これ」


葉を指差す。


「食える」


「へぇ」


「こっちはダメ」


「違い分からん」


「似てるけど違う」


御影まで真面目に聞いていた。

江口はスマホにメモしている。

大山は少し困った顔をした。

今まで、こんなに人に話を聞かれることなんてなかったから。


しばらくして。

大山が川辺でしゃがんだ。


枝。

糸。

石。


手際よく何かを組み始める。

陽介が覗き込む。


「何それ」


「ヤマメ用」


当然みたいに答える。

陽介は数秒止まった。


そして。


「待って待って待って」


大山が顔を上げる。


「?」


「それで魚取るの?」


「取れるよ」


「マジで?」


「うん」


あまりにも普通に言う。

だから余計に信じられない。


数分後。

バシャッ!


「うおっ!?」


本当に魚がかかった。

クラス中が大騒ぎになる。


「マジで取れた!」


「すげぇ!」


「何そのスキル!?」


大山は少し困ったように笑った。


「いる場所分かれば簡単だし」


「簡単じゃねぇよ!」


陽介が即座に突っ込む。


「俺もやりたい!」


「どうやるの!?」


「貸して貸して!」


気付けば。

大山の周りに人が集まっていた。

大山は戸惑った顔で周囲を見る。


「だから……」


言いかけて。

少しだけ笑う。

川のせせらぎ。

クラスメイトの騒ぎ声。


そして。

人生で初めてかもしれないくらい、

大勢の人間が自分の話を聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ