外伝 河野優と大山博道(後編)
数日後。
休日。
河野と弟は、大きな買い物袋を持って大山の家を訪れていた。
庭には焚き火台。
折りたたみテーブル。
網やダッチオーブン。
キャンプ用品がきれいに並べられている。
庭に立つだけで、本当にキャンプ場へ来たような気分になる。
弟は思わず目を輝かせた。
「すげぇ……。」
大山は少し照れくさそうに笑う。
「やってみよう。」
三人は手分けして準備を始めた。
炭を起こす。
道具を並べる。
食材を取り出す。
河野は食材を確認しながら段取りを考える。
大山は火の様子を見ながら、必要な道具を静かに並べていく。
弟も教わりながら一つひとつ手を動かしていく。
最初はぎこちなかった手つきも、少しずつ慣れてきた。
「そのくらい。」
「うん。」
「いい感じ。」
大山は必要な時だけ短く声を掛ける。
あとは弟が自分で考える。
失敗しそうになっても、すぐには手を出さない。
自分で気付けるように見守っていた。
火加減を見ながら肉を焼く。
スープを温める。
燻製も試してみる。
庭いっぱいに、美味しそうな香りが広がっていく。
河野も料理を仕上げながら笑う。
「本番と同じ流れで出来るね。」
弟も嬉しそうに頷いた。
「これならイメージしやすい。」
料理は一品。
また一品と完成していく。
焼き上がった肉。
湯気の立つスープ。
燻製の香り。
少しずつテーブルの上が賑やかになっていく。
気付けば。
折りたたみテーブルいっぱいにキャンプ飯が並んでいた。
「……作りすぎた。」
河野が苦笑いする。
大山も周りを見渡した。
「食べきれないな。」
弟も思わず笑ってしまう。
「完全に作りすぎだね。」
河野はスマホを取り出した。
御影連絡スレを開く。
『SOS。』
『試作作りすぎた。』
『誰か食べに来て。』
送信する。
しばらくして返信が届いた。
紬。
『行く。』
『妹も行きます。』
他のみんなは予定があり来られなかった。
「助かった。」
河野がほっと笑う。
しばらくして。
紬と雫が大山の家へやって来た。
庭に並んだキャンプ用品を見る。
「本格的。」
紬が感心する。
焚き火台。
テーブル。
並べられた料理。
本当にキャンプをしているような景色だった。
雫も嬉しそうに笑った。
「いただきます。」
五人で試作品を食べ始める。
どの料理も美味しい。
自然と笑顔になる。
それでも雫はゆっくり考えながら食べていた。
一口食べて。
少し考える。
また一口。
味を確かめる。
「これ。」
「味変したら。」
「倍楽しめそうですね。」
河野が顔を上げる。
「味変?」
「はい。」
「チーズ。」
「黒こしょう。」
「七味。」
「途中で味を変えられたら。」
「最後まで飽きないと思います。」
河野はすぐにメモを取った。
「なるほど。」
「それいいね。」
弟も横からメモを覗き込む。
「確かに。」
「それなら好みも分かれないね。」
雫は今度はコンソメスープを見る。
「あと。」
「このスープ。」
「いっぱい作って。」
「半分はスープ。」
「半分はカレーにしちゃえば。」
河野と大山が顔を見合わせる。
「……それ。」
「良いね。」
弟も笑った。
「一回で二回楽しめる。」
河野はまたメモを書き足す。
少しの工夫で。
もっと楽しくなる。
そんなアイデアが次々と増えていった。
その日、試作は続いた。
作って。
食べて。
直して。
また作る。
火加減を変える。
味付けを変える。
持ち運びやすさも考える。
何度も繰り返すうちに、料理だけではなく段取りまで自然と身についていく。
少しずつ。
少しずつ。
キャンプ飯が完成していった。
そして。
ゴールデンウィーク当日。
朝早く。
大きなリュックを背負った弟が玄関に立つ。
少し緊張した表情。
でも、その顔はどこか楽しそうだった。
「行ってきます。」
河野は笑った。
「楽しんでおいで。」
大山も頷く。
「困ったら。」
「みんなで考えれば大丈夫。」
弟は大きく頷く。
「うん!」
「師匠。」
「姉ちゃん。」
「ありがとう。」
元気よく走って行く。
その背中を。
河野と大山は並んで見送った。
遠ざかっていくリュックが小さくなっていく。
終わり




