外伝 河野優と大山博道(前編)
ゴールデンウィーク前。
河野の弟も高校二年生になった。
今年はクラスでキャンプへ行くらしい。
休日。
弟が家へ帰ってくると、リビングでは河野と大山がお茶を飲みながら話をしていた。
「おかえり。」
河野が笑顔で迎える。
弟は二人を見ると、そのままテーブルへ向かった。
「師匠。」
「キャンプでかっこいいとこ見せたい。」
「どうしたら良い?」
大山は少し考えた。
すぐに答えは言わない。
弟が何をしたいのか。
まずはそこから考えようとした。
「キャンプで何がしたい?」
弟も少し考える。
大山は静かに続けた。
「まず。」
「できる事と。」
「出来ない事考えてみて。」
弟は指を折りながら数え始める。
「テントは張れる。」
「火も起こせる。」
大山が尋ねる。
「料理は?」
弟は苦笑いした。
「食べる専門。」
その答えに、大山も少し笑う。
少しだけ考えてから口を開いた。
「一人で。」
「頑張るより。」
「みんなが。」
「楽しめる事考えよう。」
弟は頷く。
「うん。」
「せっかくなら。」
「みんなで楽しみたい。」
その言葉を聞いた河野も微笑んだ。
弟はふと思い出した。
「師匠たちがキャンプやった時。」
「何が一番楽しかった?」
河野と大山は顔を見合わせる。
あの日のことを思い出すように、自然と笑みがこぼれた。
「ご飯かな。」
河野が笑う。
「あの時ね。」
「みんなに。」
『キャンプ飯の概念壊れた。』
「って言われたの。」
「びっくりした。」
少し照れくさそうに笑う。
「家では普通だったから。」
「そんなに喜んでもらえると思わなかった。」
弟は身を乗り出して聞いている。
大山も静かに頷いた。
「ヤマメも。」
「山菜も。」
「みんな一番興奮してた瞬間だよね。」
「そうだね。」
河野も笑顔で頷く。
弟は嬉しそうに笑った。
「じゃあ。」
「俺も。」
「みんなと美味いキャンプ飯食べたい。」
「ヤマメも山菜も。」
「まだ良くわからないけど。」
「どうしたら良い?」
河野は優しく微笑んだ。
「大事なのは。」
「事前準備だよ。」
そう言って立ち上がり、引き出しからメモ帳とペンを取り出した。
弟の前にメモ帳を開く。
「一緒に考えよう。」
弟も真剣な表情で頷いた。
河野は一つずつ整理しながら書いていく。
「荷物は少ない方が良い。」
「食材も。」
「まとめられるものが良い。」
「潰れたり。」
「汁が出たりしないもの。」
弟も自分のスマホを取り出し、一緒にメモを始める。
「調理器具は現地で借りる。」
少し考え込む。
「必要最低限で。」
「最高の料理を。」
「しかも簡単に。」
河野は思わず苦笑いした。
「……かなり難しい。」
そう言って大山を見る。
「博くん。」
「キャンプって。」
「実際どんな感じなの?」
大山は少し考えた。
頭の中で、いつものキャンプを思い浮かべながら答える。
「調味料は。」
「必要最低限。」
「ある程度調理したものを。」
「袋に入れて持って行くと楽。」
「現地では焼くだけ。」
河野は頷きながらメモを書き足していく。
「冷蔵庫の中の。」
「タッパーのイメージ。」
「あと。」
「缶詰は便利。」
弟は驚いたように顔を上げた。
「缶詰?」
大山は頷く。
「肉料理は。」
「テンション上がる。」
「焼くだけで美味いから。」
「そこは心配いらない。」
弟も笑う。
「それなら俺にも出来そう。」
河野も笑顔になる。
「あと。」
「ダンボールと網持って行って。」
「燻製やるのも面白い。」
「放置だから失敗も少ない。」
「荷物も軽い。」
弟の目が輝く。
「燻製!」
「それやってみたい!」
大山も頷く。
「クズ野菜。」
「捨てないで。」
「スープにすると。」
「夜あったまる。」
「コンソメあると楽。」
弟は何度も頷きながらメモを取る。
河野はふと思いついたように口を開いた。
「魚の缶詰。」
「蓋開けて。」
「そのまま火にかけて。」
「チーズ乗せるとか美味しそうだね。」
大山も頷く。
「そうだね。」
河野は少し考えた。
「鯖の味噌煮と。」
「チーズ合いそう。」
二人は笑う。
「やけどだけ注意ね。」
河野はメモを閉じた。
「下準備が大事だね。」
大山も頷く。
「うん。」
「家で出来ることは。」
「家で終わらせる。」
「現地では。」
「みんなで楽しむ。」
弟は何度も頷いた。
最初は、自分がかっこよく活躍することばかり考えていた。
でも今は違う。
みんなが楽しめるキャンプを作る。
そのために、自分に出来ることをやろう。
そんな気持ちに変わっていた。
河野は弟を見る。
「持っていけそうなもの。」
「考えてみるね。」
弟は嬉しそうに笑う。
「メモ出来たら。」
「一回試作してみようか。」
河野も笑顔で頷いた。
「うん。」
「実際に作ってみないと分からないもんね。」
弟は深く頭を下げた。
「師匠。」
「姉ちゃん。」
「ありがとう。」
河野と大山は笑顔で頷いた。




