第三十三話 クリスマスの違和感
冬休み。
クリスマス当日。
駅前。
「メリークリスマース!」
宮坂の元気な声が響いた。
今年最後の大イベント。
二年三組、十一人。
今日はカラオケに集まった。
「予約してあるぞ!」
宮坂を先頭に店へ入る。
部屋の扉が開く。
女子はサンタ。
男子は思い思いの格好。
江口だけはトナカイだった。
全員が席に着く。
一瞬だけ静かになる。
そして。
江口が女子を見渡して一言。
「……エロっ。」
沈黙。
誰も反応しない。
江口が首を傾げる。
「……誰かツッコめよ。」
その一言で全員が吹き出した。
「自分で言うな!」
「最低!」
「第一声それ!?」
「トナカイのくせに!」
笑い声が部屋いっぱいに広がる。
その輪の中で。
陽介だけ少し遅れて笑った。
(先生。)
(もっと仲間と話してみろ。)
(今日はちゃんと話そう。)
そう決めていた。
ケーキが運ばれる。
ジュースを配る。
乾杯。
歌が始まる。
宮坂が盛り上げる。
安西が笑う。
北見は写真を撮る。
江口はマイクを握る。
いつもの二年三組。
でも。
陽介だけ少し違った。
(何か話さないと。)
江口の隣へ座る。
「江口。」
「ん?」
「……。」
話題が浮かばない。
「その……。」
「トナカイ似合うな。」
江口が笑う。
「今さら?」
会話が終わる。
陽介は苦笑いした。
(違う。)
(こんなんじゃない。)
次は宮坂。
「宮坂。」
「ん?」
「……。」
また止まる。
「楽しんでる?」
宮坂は笑った。
「見れば分かるだろ。」
「そうだな。」
終わる。
「今日のお前。」
「何か変だぞ。」
宮坂は首を傾げた。
その後も。
天野。
北見。
柳下。
大山。
誰に話しかけても。
何となく続かない。
いつもの陽介じゃない。
みんな少しだけ違和感を覚えていた。
西野だけは笑っていた。
(何だ今日のあいつ……)
(面白ぇ。)
理由は分からない。
でも。
何か変だった。
御影だけは違う。
(先生。)
(何か言われたんだ。)
そこまでは分かる。
でも。
(何て言語化するのが正解なんだろう。)
また答えが出ない。
パーティーも終盤。
プレゼント交換も終わる。
ケーキも食べた。
歌も歌った。
楽しかった。
でも。
陽介だけが少し引っ掛かっていた。
御影のところへ歩いて行く。
「御影。」
「ん?」
「こないだ。」
「怒らせてごめん。」
御影は目を丸くした。
陽介は頭をかく。
「でもさ。」
「俺。」
「何が悪かったのか、まだ分からなくて。」
少し困ったように笑う。
「教えてもらえると助かる。」
御影は固まった。
(やっぱり。)
(先生だ。)
でも。
違う。
そうじゃない。
そうじゃないんだけど。
(何て言語化するのが正解なんだろう。)
答えにならない。
思わず口から出た。
「鈍感!」
陽介は固まる。
「え?」
御影は顔を赤くしてそっぽを向く。
「……もう知らない。」
その様子を見ていた宮坂が笑う。
「また怒らせた!」
江口も笑う。
「二回目!」
柳下も笑う。
「参上、何したんだよ。」
西野は肩を震わせる。
「やっぱ今日おかしい。」
陽介だけが困っていた。
「だから。」
「何なんだよ……。」
みんなは笑う。
陽介だけ笑えなかった。
パーティーは終わる。
駅前。
イルミネーションが冬の夜を照らしていた。
「また初詣!」
「良いお年を!」
「じゃあな!」
それぞれ帰っていく。
陽介は一人。
夜空を見上げた。
(先生。)
(もっと仲間と話すって。)
少し考える。
(何を話せば良いんだよ……。)
答えは出なかった。
クリスマスの夜は。
少しだけ。
いつもより静かだった。




