第三十一話 器用貧乏と面談と仲間
放課後。
夕日が差し込む教室。
担任は出席簿を閉じ、最後の名前を見た。
「参上。」
「はい。」
陽介は少し照れくさそうに椅子へ座る。
担任は笑う。
「文化祭の写真はどうだった?」
陽介は嬉しそうに笑った。
「良い写真撮れました。」
「みんなに見せるのが楽しみです。」
「そうか。」
少し沈黙。
担任は出席簿を開いた。
「進路は?」
「……まだ決めてません。」
「進学か?」
「たぶん。」
「やりたいことは?」
陽介は黙る。
「……ないです。」
担任は少し意外そうな顔をした。
「意外だな。」
陽介は苦笑する。
「先生。」
「なんで先生になったんですか?」
担任は少し昔を思い出した。
「うちは両親が教師だった。」
「生徒に慕われてる姿を見て育った。」
「かっこよかった。」
「だから自然と教育の道に来た。」
陽介は静かに頷く。
「いいですね。」
少し笑う。
「俺。」
「二十五歳の時。」
「普通の会社員なんだろうな。」
担任はその言葉を深く考えず、
「二十五歳になったら」という意味だと思った。
「普通でも悪くないぞ。」
陽介は首を横に振る。
「先生。」
「日本一高い山って知ってますか?」
「富士山だろ。」
「じゃあ。」
「二番目は?」
担任は少し考える。
「……知らないな。」
陽介は小さく笑った。
「そういうことです。」
少し間。
「俺。」
「なんでも出来るんです。」
「でも。」
「オールマイティじゃなくて。」
「器用貧乏。」
「俺の仲間は。」
「みんな一番なんです。」
「勉強。」
「運動。」
「ゲーム。」
「料理。」
「メイク。」
「服。」
「みんな。」
「ちゃんと好きなものがある。」
俯く。
「みんなが羨ましいです。」
「でも。」
「俺には何もなくて。」
教室が静かになる。
担任はしばらく何も言わなかった。
夕日だけが教室を赤く染めている。
やがて担任は出席簿を閉じた。
「参上。」
「はい。」
「もっと仲間と話をしてみろ。」
陽介は首を傾げる。
「仲間……ですか?」
「ああ。」
「以上だ。」
面談は終わった。
陽介は少し不思議そうな顔で立ち上がる。
「ありがとうございました。」
教室を出る。
廊下を歩きながら。
「仲間と話す……か。」
その意味は。
まだ陽介には分からなかった。
数日後。
放課後。
「御影。」
「はい。」
職員室に呼ばれた御影は、少し不思議そうな顔で椅子に座る。
担任はコーヒーを一口飲んだ。
「教員志望だったな。」
「はい。」
「一つ聞きたい。」
御影は姿勢を正す。
「参上の良いところ。」
「一言で言語化できるか?」
御影は目を丸くした。
少し考える。
長い沈黙。
やがて困ったように笑った。
「難しいですね。」
「良いところ……ありすぎて。」
担任は苦笑する。
「そうか。」
少し間を置く。
「頼む。」
「言語化できるようになってくれ。」
御影は首を傾げる。
「どうしてですか?」
担任は立ち上がり、窓の外を見る。
「理由は聞くな。」
「教師の宿題だ。」
御影はまだ納得していない表情だった。
それでも小さく頷く。
「……わかりました。」
職員室を出る御影。
廊下を歩きながら、小さく呟く。
「参上くんの良いところ……。」
「言葉にできるかな。」




