第二十七話 ミスコン 安西ひまり
文化祭二日目。
夕方。
ミスコン会場の裏。
安西は深呼吸を繰り返していた。
「緊張する」
北見が頷く。
「するよ」
天野も頷いた。
「私もしてる」
安西が吹き出した。
「なんで二人が緊張してんの」
「衣装作ったから」
天野が即答する。
「メイクしたから」
北見も負けていない。
三人で笑った。
その時。
江口が顔を出した。
「客席満員」
安西の顔が引きつる。
「言わなくて良くない!?」
「事実だから」
江口は平然としていた。
そして。
少しだけ笑う。
「大丈夫」
安西を見る。
「最高だから」
安西は少し驚く。
そして笑った。
「ありがと」
呼び出しのアナウンスが流れる。
出番だ。
安西は立ち上がる。
北見。
天野。
江口。
三人を見る。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
三人が答えた。
ステージ。
スポットライト。
歓声。
会場には人が溢れていた。
客席。
西野がいる。
御影がいる。
河野がいる。
大山がいる。
柳下がいる。
宮坂がいる。
陽介がいる。
二年三組がいる。
安西は自然と笑った。
緊張はしている。
でも。
それ以上に楽しかった。
北見がメイクしてくれた。
天野が衣装を作ってくれた。
江口が演出を考えてくれた。
みんなが応援してくれた。
だから。
今は楽しい。
それだけだった。
ミスコンは進む。
歓声。
拍手。
笑顔。
そして。
アピールタイム。
司会者がマイクを向けた。
「安西さん!」
「最後に一言お願いします!」
マイクを受け取る。
安西は客席を見た。
人。
人。
人。
そして。
二年三組。
北見。
天野。
江口。
みんな見つける。
少し笑った。
そして。
「みんなーー!!」
会場が反応する。
「ここから見る景色はマジで最高ーー!!」
歓声。
拍手。
安西はさらに叫ぶ。
「ありがとーー!!」
会場が揺れた。
笑顔。
拍手。
歓声。
安西も笑っていた。
心の底から。
楽しかった。
陽介はその姿を見ていた。
かわいい。
綺麗。
そんな言葉じゃない。
ただ。
すげぇ。
そう思った。
大勢の人の前で。
緊張していたはずなのに。
思い切り楽しんでいる。
その姿が。
かっこよかった。
結果発表。
会場が静かになる。
司会者が封筒を開く。
そして。
優勝者の名前を読み上げた。
「優勝――安西ひまりさん!」
一瞬。
安西は動かなかった。
理解が追いつかない。
次の瞬間。
歓声が爆発した。
拍手。
歓声。
二年三組も立ち上がる。
「やったぁぁぁ!!」
宮坂が叫ぶ。
「当然だ!!」
江口も叫ぶ。
御影が笑う。
河野が拍手する。
西野も満足そうだった。
安西は呆然としたまま頭を下げる。
そして。
舞台袖へ戻った。
北見がいた。
天野がいた。
安西は二人を見る。
言葉が出ない。
北見はもう泣いていた。
天野も泣いていた。
そして。
三人は抱き合った。
「やったぁ……」
「うん……」
「良かった……」
泣きながら。
笑いながら。
抱き合う。
最高の顔だった。
少し離れた場所で。
江口が目を押さえていた。
「実在した……」
「うるさい」
誰かが笑う。
その時だった。
陽介はそっとスマホを向ける。
パシャ。
誰も気付かない。
安西。
北見。
天野。
三人が抱き合う。
最高の瞬間。
陽介は画面を見る。
笑ってしまう。
良い写真だった。
でも。
それだけじゃない。
胸の奥が少し熱かった。
気持ち良かった。
なぜだか分からない。
ただ。
消えてほしくないと思った。
この瞬間を。
この笑顔を。
この文化祭を。
二年三組を。
陽介はもう一度写真を見る。
理由は分からない。
でも。
確かにそこにあった。
胸の奥に眠っていた熱量。
陽介はまだ理解していなかった。
だが。
その存在を知ってしまった。




