第二十六話 2日目の応援
文化祭一日目は大成功だった。
応援喫茶。
予想以上の来客。
予想以上の売上。
そして。
予想以上の盛り上がり。
閉店後。
教室には達成感が漂っていた。
「売上目標達成」
御影が集計表を見ながら言う。
教室が沸いた。
「マジ!?」
「一日で!?」
「すげぇ!!」
宮坂が飛び上がる。
柳下も喜んでいる。
河野はほっとしたように笑った。
西野は椅子にもたれ掛かる。
「疲れた」
「団長が一番働いてたからな」
陽介が笑う。
「俺は叫んでただけだ」
「それが仕事だろ」
江口が言う。
「お前の叫びで客増えてたぞ」
「知らねぇよ」
教室は笑いに包まれた。
その中で。
陽介だけは気付いていた。
安西が少し静かなことに。
明日。
ミスコン本番。
緊張しているのだろう。
でも。
陽介は声を掛けなかった。
大丈夫。
根拠はない。
でも信頼はあった。
北見がいる
天野がいる。
江口もいる。
そして。
安西自身も頑張ってきた。
だから大丈夫だと思った。
その時。
大山が紙コップを配り始めた。
「お疲れ様」
香りが広がる。
「コーヒー?」
河野が笑う。
大山は頷いた。
「今日はみんな頑張ったから」
紙コップが配られていく。
一口飲む。
温かかった。
「うまっ」
宮坂が声を上げる。
「だろ?」
珍しく大山が少しだけ嬉しそうに笑った。
しばらくして。
宮坂がぽつりと言った。
「明日のミスコン嫌だな」
全員が宮坂を見る。
安西も顔を上げた。
「なんで?」
御影が聞く。
宮坂は真面目な顔だった。
「あの綺麗な安西をみんなが見る」
教室が静かになる。
宮坂は続けた。
「悔しい」
さらに静かになる。
「秘密にしたい」
陽介が即座に言う。
「独占欲」
教室が爆笑した。
「そうなのか?」
宮坂は本気で首を傾げる。
さらに爆笑。
安西も吹き出した。
さっきまでの緊張が少しだけ消えていた。
文化祭二日目。
応援喫茶は今日も盛況だった。
「行けぇぇぇぇ!!」
団長の声が響く。
拍手。
歓声。
笑顔。
客は途切れない。
ミスコン開始まであと少し。
夕方には閉店予定だった。
そのせいか。
駆け込み客が急増していた。
「団長列最後尾はこちらでーす!」
柳下が叫ぶ。
「まだまだ入れまーす!」
宮坂も負けていない。
西野の前には相変わらず長蛇の列。
陽介は店内を見回した。
接客。
会計。
案内。
片付け。
足りない所へ動く。
「陽介!」
御影が呼ぶ。
「手伝って!」
「了解」
陽介はすぐに向かう。
応援は西野に任せた。
団長の方が人気だ。
それで良い。
「俺は空いてる所埋めてるだけだからな」
誰に聞かせるでもなく呟く。
そして。
次の仕事へ向かった。
その時だった。
一人の女子生徒が店に入ってくる。
真っ直ぐ。
団長席へ向かった。
西野の前に座る。
緊張している。
西野が首を傾げた。
「相談か?」
女子生徒は首を振った。
「違います」
少し間。
そして。
「好きです」
店内が静かになった。
近くにいた河野も。
御影も。
思わず動きを止める。
女子生徒は続けた。
「ずっと前から好きでした」
震える声だった。
勇気を振り絞ったのが分かる。
西野は黙る。
少し考える。
そして。
「すまない」
静かに言った。
「俺には惚れた人がいる」
女子生徒の肩が少しだけ震えた。
それでも最後まで聞いている。
「だから応えられない」
西野は逃げなかった。
誤魔化さなかった。
女子生徒は小さく頷いた。
「そっか」
少し涙が浮かんでいた。
それでも笑おうとしていた。
西野は頭をかいた。
そして言う。
「でも」
女子生徒が顔を上げる。
「君のこれからが良いものになるように」
少し間。
「応援は出来る」
店内が静かになる。
「それでも良いか?」
女子生徒は涙を拭いた。
そして笑う。
「お願いします」
西野は立ち上がった。
大きく息を吸う。
店中が注目していた。
そして。
「前ぇぇぇ向けぇぇぇぇ!!」
店が揺れた。
「お前は勇気を出した!!」
「それはすげぇ事だ!!」
「だから胸張れぇぇぇぇ!!」
「次も行ける!!」
「絶対行ける!!」
「幸せになれぇぇぇぇ!!」
店中から拍手が起こる。
女子生徒は泣きながら笑っていた。
「ありがとうございます」
西野は照れ臭そうに頭をかく。
「おう」
応援喫茶は。
最後まで応援喫茶だった。




