第二十五話 応援喫茶
文化祭初日。
開門と同時に二年三組は驚いていた。
人が来る。
思った以上に来る。
「次の方どうぞー」
河野が案内する。
「団長列はこちらです」
御影が列を整理している。
そして。
西野の前には長蛇の列が出来ていた。
「なんでこんな並んでんだよ」
本人が一番困っていた。
江口が腕を組む。
「当然だ」
「体育祭の団長だぞ」
「知らねぇよ」
西野はため息をつく。
その時。
女子生徒が席に座った。
少し緊張している。
「好きな人に告白しようと思ってて……」
西野が聞く。
「好きなんだな?」
「はい」
「本気か?」
「はい!」
西野は立ち上がった。
「じゃあ行けぇぇぇぇ!!」
店内に響く。
女子生徒がびくっとする。
「やれば出来る!!」
「失敗してから後悔しろ!!」
「うおおおおおお!!」
周りの客から歓声が上がった。
女子生徒も思わず笑う。
「行ってきます!」
「行けぇぇぇぇ!!」
拍手。
次の客が座る。
男子生徒だった。
「進路が決まらなくて……」
西野が聞く。
「やりたい事あるのか?」
「あります」
「じゃあ行け!!」
「え?」
「叶う!!」
「信じろ!!」
「迷うな!!」
「行けぇぇぇぇ!!」
男子生徒は吹き出した。
「はい!」
「よし!!」
また拍手。
また歓声。
応援喫茶は異様な盛り上がりを見せていた。
「団長怖い」
江口がダメ出しする。
「うるせぇ」
「もっと笑顔」
「嫌だ」
「でも声量はそのまま」
「意味分かんねぇ」
列は減らない。
むしろ増えていた。
体育祭で見た。
あの団長。
「下を向くんじゃねぇぇぇ!!」
あの姿を覚えている生徒達が集まってきているのだ。
その隣。
陽介の前にも列が出来ていた。
団長ほどではない。
でも確かに並んでいる。
「次の方どうぞ」
陽介は椅子に座る。
「何か悩み?」
客が話し始める。
陽介は聞く。
そして整理する。
最後に背中を押す。
団長みたいな迫力はない。
でも。
客は笑顔になって席を立つ。
応援を受けた客は席へ案内される。
河野がコーヒーを運ぶ。
「どうぞ」
香りが広がる。
客は一口飲んだ。
「美味しい」
さっきまでの緊張が少しだけほぐれる。
友達も笑う。
店の空気はとても良かった。
店の外では宮坂と柳下が呼び込みをしていた。
「応援喫茶やってまーす!!」
「団長います!!」
「本人です!!」
元気だけは誰にも負けない。
だから客も増える。
店内では御影が会計をしながら全体を見ている。
江口は店を見回る。
問題がないか確認する。
総監督だからだ。
一方その頃。
空き教室では。
安西。
北見。
天野。
三人が明日のミスコンへ向けて最後の打ち合わせをしていた。
文化祭は始まった。
でも。
まだ本番じゃない。
しばらくして。
陽介の列が途切れた。
ふと店内を見回す。
河野が接客している。
御影が会計をしている。
宮坂と柳下は呼び込み。
西野の前には相変わらず長蛇の列。
陽介は立ち上がった。
空いたカップを回収する。
列整理を手伝う。
足りないところへ自然と動く。
「みんな役割があるな」
ぽつりと呟いた。
河野が聞き返す。
「陽介もでしょ?」
陽介は首を振る。
「俺は空いてる所埋めてるだけ」
そう言って笑った。
次は会計の補助。
その次は呼び込み。
特別な事は何もしていない。
いつも通りだった。
その時。
店の奥から歓声が上がる。
「行けぇぇぇぇ!!」
団長だった。
客も笑っている。
西野も叫んでいる。
陽介は思わず笑った。
「団長人気だなぁ」
少し眩しそうに。
「やっぱすげぇ」
その言葉を聞いた西野は。
「だから俺は見せ物じゃねぇぞ!!」
と叫んだ。
店内は爆笑だった。




