第二十三話 かわいいと黒髪
放課後。
北見の机にラフが広がっていた。
天野は布の見本を並べている。
江口は腕を組んでいた。
安西は椅子に座りながらそれを見ている。
文化祭。
ミスコン。
その準備だった。
「ひまりちゃん」
北見がラフを見せる。
「今回こんな感じ」
安西が覗き込む。
可愛い。
素直にそう思った。
でも。
「あれ?」
北見が首を傾げる。
「どうしたの?」
安西はラフを指差した。
「この子」
「黒髪だよね」
江口が頷く。
「黒髪」
「高級メイドだから」
安西は自分の髪を触る。
金髪。
見慣れた髪色。
少し考えた。
「ゲームではどんなシチュエーションなの?」
江口は少し考えた。
「お金持ちにメイドのお披露目をするシーン」
「パーティ会場みたいな場所」
「そこで選ばれる」
安西が頷く。
「ミスコンみたいな感じか」
「そんな感じ」
江口は続ける。
「選択肢もある」
「媚びて選んでもらうか」
「媚びずに自分を貫くか」
北見が顔を上げる。
天野も手を止めた。
「どっち選ぶの?」
安西が聞く。
江口は即答した。
「媚びない」
真顔だった。
「俺の中のヒロインは媚びない」
教室が少し静かになる。
「主人公が努力して」
「ヒロインを迎えに行く話だから」
「ヒロインが自分を曲げる必要はない」
少し間。
「だから俺はそのルートしかやらない」
陽介が笑う。
「重いな」
「重くない」
江口は即答した。
「正しい」
御影が呆れた顔をする。
「オタクって面倒ね」
「褒め言葉だな」
江口は満足そうだった。
その時。
天野が布を持ち上げる。
「衣装なんだけど」
全員が見る。
「これ、布サンプル」
江口が顔を上げる。
布を広げる。
繊細な模様が浮かび上がる。
「黒無地も良いけど、こっちの方が映る」
江口はしばらく考えた。
ラフを見る。
布を見る。
そして。
「これで行こう」
天野は頷いた。
「ありがとう、原作超えるから!」
即答だった。
陽介が吹き出す。
「強気だな」
「作るからには」
天野は当然みたいに言った。
江口も頷く。
「よし」
そして北見を見る。
「北見」
「ん?」
「安西のメイク頼む」
北見が固まる。
「私?」
「そう」
江口は頷く。
「今のメイクじゃシーンが台無し」
安西が眉をひそめた。
「言い方が雑」
「ムカつく」
教室が笑う。
北見は安西を見る。
「ひまりちゃん」
「ギャルメイクじゃないけど抵抗ある?」
「全然」
即答だった。
「かわいくなるなら問題なし」
北見が少し驚く。
「学校ですっぴん……大丈夫?」
安西は首を傾げた。
「ん?」
「化粧落とさなきゃメイク出来ないっしょ」
教室が静かになる。
「え?」
「マジ?」
「良いんだ……」
安西は気にしない。
「ギャルになる前は毎日すっぴんだったし」
陽介が驚く。
「ギャルにこだわりはないのか」
安西は即答した。
「あるよ」
「かわいいの好きだから」
誰も茶化さない。
安西は続ける。
「服も」
「髪も」
「アクセも」
「メイクも」
「ギャルさいこー」
安西はラフを見る。
布を見る。
鏡を見る。
そして笑った。
「ギャルを超えてね」
北見が頷く。
そして、江口が頷きながら
「なら一つだけ」
安西を見る。
真剣な顔だった。
「絶対に媚びるな」
教室が静かになる。
「選ばれるために自分を変えるな」
安西は少しだけ笑った。
「うん」
その返事だけで十分だった。
文化祭はまだ先。
でも。
安西ひまりの戦いはもう始まっていた。




