第二十二話 応援喫茶と総監督
ホームルーム。
文化祭の出し物を決める日だった。
担任が黒板の前に立つ。
「意見ありますか」
すぐに手が上がった。
「お化け屋敷!」
「演劇!」
「脱出ゲーム!」
「映画!」
次々に案が出る。
黒板が埋まっていく。
でも。
決め手がない。
少し沈黙が流れた。
その時。
陽介が手を上げた。
「喫茶店で良くない?」
何人かが振り返る。
「普通じゃね?」
宮坂が言う。
陽介は笑った。
「キャンプの時の」
視線が大山へ向く。
「大山のコーヒーがまた飲みたい」
教室が少し静かになる。
「あー」
「確かに」
「美味かったな」
大山は少し困った顔をした。
「裏方で良いなら淹れるよ」
その瞬間。
空気が変わった。
「それ良いじゃん」
「飲みたい」
「喫茶店ありだな」
河野も頷く。
「接客もやりやすいと思う」
御影も続く。
「準備も比較的楽そうね」
少しずつ案がまとまり始める。
その時。
江口が立ち上がった。
「俺はミスコンに力を入れたい」
教室が静かになる。
江口は続けた。
「衣装作る」
「メイクもやる」
「中途半端は嫌だ」
北見が頷く。
天野も頷いた。
かなり本気だ。
陽介が言う。
「だから喫茶店なんだよ」
全員が見る。
「ミスコン班はミスコンに集中」
「喫茶店は残りのみんなで回す」
宮坂が笑った。
「それだ」
西野も頷く。
「呼び込みは俺らがやる」
柳下が笑う。
「俺ら?」
「俺とお前と宮坂」
「任せろ」
宮坂が胸を叩いた。
河野が手を上げる。
「接客は私かな」
御影も頷く。
「私もそっちね」
大山が言う。
「じゃあコーヒー担当で」
「決まりだな」
教室の空気がまとまり始める。
担任が黒板へ書く。
喫茶店
その文字を見ながら江口が言った。
「でも普通の喫茶店じゃ、つまらない」
嫌な予感がした。
陽介が呟く。
「始まった」
江口は構わず続ける。
「応援喫茶だ!」
教室が静かになる。
「応援喫茶?」
安西が首を傾げる。
江口は立ち上がった。
「悩みを聞く」
「背中を押す」
「そして団長が応援する」
全員。
西野を見る。
西野は嫌そうな顔をした。
「なんで俺だよ」
陽介が笑う。
「団長だから」
柳下も頷く。
「団長だし」
宮坂も頷く。
「団長だからな」
「お前らなぁ……」
西野は頭をかいた。
でも少しだけ笑っていた。
陽介が言う。
「迷うな、行け」
西野を見る。
「それだけで客来るぞ」
教室が爆笑した。
「来るかそんなもん」
「絶対来る」
安西が言った。
「アタシ行きたいもん」
さらに笑いが起きる。
その時。
陽介が言った。
「北見」
「ん?」
「ミスコン班よろしく」
北見が頷く。
「任せて」
「天野も」
「うん」
天野も頷いた。
そして。
「江口」
「なんだ」
陽介は笑った。
「お前、総監督な」
教室が静かになる。
江口が固まった。
「俺?」
「お前だろ」
陽介は当然みたいに言った。
「衣装」
「メイク」
「ミスコン」
「応援喫茶」
「全部口出してるし」
江口は少し考えた。
そして。
「……やる」
真顔だった。
「文化祭勝つ」
誰も反対しなかった。
西野が立ち上がる。
宮坂も立つ
柳下も続く。
河野が笑う。
御影がため息をつく。
北見はノートを開く。
天野は生地のことを考えている。
江口はもう文化祭当日を見ていた。
陽介はそんな教室を見回した。
誰かが思いつく。
誰かが形にする。
誰かが支える。
そして。
誰かが背中を押す。
文化祭の準備期間が始まった。




