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第十六話 二学期 西野立つ!


始業式後。

二年三組の教室。

担任がプリントを配りながら言った。


「来年は三年生です」


少しだけ。

教室が静かになる。


「全員で何か出来るのも」

「最後かもしれません」


窓から入る風。

九月の匂い。

担任は少し笑った。


「楽しんでください」


そして。

安西が真っ先に手を上げた。


「先生ー」


「なんだ」


「体育祭の詳細教えてよ」


教室がざわつく。


「確かに」


「そこ重要」


担任は頷いた。


「体育祭は普通の対抗戦です」

「種目ごとの順位で点数が入ります」


宮坂の目が輝く。


「っしゃ」

「負けねぇ」


運動部組も盛り上がる。

担任は続けた。


「ただし」


空気が少し変わる。


「最後に」

「クラス対抗応援団リレーがあります」


「応援団リレー?」


安西が首を傾げる。

担任は黒板に書いた。


『応援団リレー』

「うちの学校の特色です」


江口が手を挙げた。


「応援団の競技ですか?」


教室が笑う。

御影まで少し吹き出した。

担任も笑う。


「各クラスから応援団を出します」

「その応援団が走ります」

「ただし速さだけじゃない」

「応援の盛り上がりも得点対象です」


教室がざわつく。


「何それ」

「面白そう」


「応援が点数になるの?」


担任は教卓の横からUSBを取り出した。


「去年の動画あります」


モニターに映像が映る。

グラウンド。

歓声。

拍手。

大声。

応援団らしき集団が走っている。


周囲も叫んでいる。

とにかく騒がしい。


「うるせぇな」


西野が呟いた。

柳下が吹き出す。


「お前が言う?」


「何だよ」


「絶対向いてるだろ」


「向いてねぇよ」


動画は続く。

応援団長らしき男子。

全力で声を張り上げている。


走っている。

周りも叫んでいる。

必死だった。


動画が終わる。

教室が少し静かになる。


「楽しそうじゃね?」


宮坂が言った。


「思ったより面白そう」


「普通のリレーじゃないんだな」


あちこちから声が上がる。

西野が椅子にもたれた。


「声デカい奴有利じゃねぇか」


その時。

陽介が西野を見る。

真顔だった。


「お前やれよ」


「何を」


「団長」


数秒。


「は?」

西野が眉を寄せる。

「何言ってんの?」

「やらねぇよ」


即答だった。


でも。

陽介は変わらず真顔だった。


「団長って聞いて」

「真っ先にお前の顔浮かんだ」


教室が静かになる。


柳下が吹き出した。

「分かる」


宮坂も頷く。

「分かるな」


安西も笑う。

「めっちゃ分かる」


江口まで頷いた。

「団長じゃん」


御影も小さく笑う。

「似合いそうではあるわね」


「先生まで言うな」

教室に笑いが広がる。


でも。

陽介だけは笑っていなかった。

本気だった。


声が大きい。

責任感が強い。

引き受けたことは最後までやる。

そういう男だって知ってる。


だから。

団長と聞いて。

真っ先に西野の顔が浮かんだ。


担任は出席簿を閉じる。


「体育祭の説明はこんなところです」

「質問ありますか」


運動部組はまだ動画の話をしている。

去年の応援団。

リレー。

歓声。

興味を持ったらしい。


陽介は窓際にもたれた。

さっきの映像を思い出す。

全力で叫ぶ応援団長。

周りの歓声。

楽しそうだった。


そして。

不機嫌そうな西野を見る。


西野は窓の外を見ながら呟いた。

「やらねぇっての」


陽介は小さく笑った。



数日後のホームルーム。

担任が言う。


「そろそろ応援団長を決めます」

「立候補いますか」


沈黙。

誰も手を挙げない。

目を逸らす。

責任は重い。

目立つ。

面倒そう。


教室が静かになる。


しばらくして。

西野が大きくため息をついた。

「はぁ……」


頭をかく。

全員が見る。

西野は面倒臭そうな顔のまま言った。


「誰もやらねぇなら」

「俺がやる」


教室が止まる。

そして。


「おおおおおお!!」

宮坂が立ち上がる。


「やっぱ西野だろ!」

柳下も笑う。


「知ってた」

安西も頷く。


「最初からお前しかいないと思ってた」

江口。


「満場一致」


西野が眉をひそめる。

「だったら最初から言えよ」


爆笑。


西野は立ち上がる。

クラス全員を見回す。

そして。


「俺がやる」


「覚悟しろよ」


静寂。

次の瞬間。


「おおおおおおお!!」


教室が揺れた。


西野はそのまま陽介を見る。

「陽介」


「ん?」


「お前、副団長な」


教室停止。


「は?」


「何で」


西野は当然のように言う。

「団長命令」


柳下が吹き出した。

宮坂爆笑。

安西も笑う。


「ご指名じゃん!」


江口。

「言い出しっぺ」


御影。

「妥当ね」


北見も頷く。

天野も少し笑った。


河野。

「確かに」


大山。

「2人が並ぶと壮観だね」


誰も助けなかった。

陽介は周囲を見回す。


「おい」

「誰か反対しろよ」


さらに爆笑。


西野は肩をすくめた。

「無理だな」


西野は真剣な顔で言った。

「お前なら俺に文句言うだろ」


陽介が黙る。

西野もそれ以上は言わなかった。


でも。

陽介には分かった。


こいつの信頼の伝え方。


そして。

西野も知っていた。

陽介なら遠慮しない。

陽介なら対等でいる。


だから。

隣に置いた。


その瞬間。

団長と副団長が決まった。


体育祭。

本当に面白くなりそうだった。

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