第十三話 夏祭り 天野紬
七月終わり。
夏祭り当日。
夕方の空は、まだ少し明るかった。
駅前には、浴衣姿の人波。
屋台の匂い。
提灯の灯り。
夏の音。
そして。
二年三組のグループメール。
『みんな揃った?』
送り主は安西ひまりだった。
神社前。
最初にいたのは陽介だった。
浴衣姿。
でも着方は少し雑。
周囲を見回して笑う。
「うわ」
「全員夏してんなぁ」
そこへ。
ひまり達がやって来る。
色違いの浴衣。
髪もちゃんと巻いている。
周囲が少し振り返った。
しかし、ひまりの第一声は、
「焼きそば食べたい」
だった。
陽介が吹き出す。
「うわっ、台無し!!」
「祭りなんだから当然でしょ!」
笑いながら屋台へ向かう。
次に来たのは西野。
黒の甚平。
妙に似合っている。
ひまりが笑う。
「似合ってんじゃん」
西野。
「うるせぇ」
でも少し嬉しそうだった。
その隣には、いつの間にか柳下がいた。
「お前ほんと似合うな」
「だからうるせぇ」
そんなやり取りをしながら、二人は自然に歩き出す。
陽介はその背中を見て少し笑った。
「幼馴染か、なんか良いな」
さらに。
江口がお面屋の前で立ち止まる。
狐。
天狗。
般若。
真顔で眺めている。
陽介。
「何見てんの?」
「この狐面、強くない?」
「何が」
「キャラデザ」
「お前ほんとブレねぇな」
少し遅れて。
御影もやって来る。
浴衣姿。
「はぐれるな」
「時間見て動きなさい」
「財布落とさないで」
完全に引率だった。
陽介が笑う。
「保護者じゃん」
御影。
「アンタ達が子供すぎるの」
その時。
遠くから。
「うおおおおおお!!!」
聞き覚えのある声。
陽介。
「あ、宮坂いるな」
誰も確認しない。
「いるね」
それだけだった。
その頃。
大山と河野は、屋台を並んで歩いていた。
「あ、りんご飴」
河野が立ち止まる。
大山。
「食う?」
「半分こなら」
自然過ぎる。
陽介は少し離れた場所から見ていた。
「うわぁ……青春……」
江口。
「実況うるさい」
笑いが起きる。
少し離れた場所では。
北見がスケッチブックを開いていた。
甚平姿の西野。
食べ歩くひまり。
りんご飴を持つ河野。
隣を歩く大山。
笑っている陽介。
ページがどんどん埋まっていく。
「資料多すぎ……脳汁でる」
そして。
最後に……。
空気が止まった。
石段の上。
提灯の灯りの中。
天野紬が、ゆっくり歩いてくる。
静かだった。
全員が見た。
綺麗だった。
浴衣。
帯。
立ち姿。
歩き方。
袖の扱い。
全部自然だった。
着せられているんじゃない。
着慣れている。
男子達が固まる。
「……え」
「待って」
「すご……」
言葉が出ない。
陽介は思わず笑った。
「うわ」
「何あれ」
「本職だ」
紬が困った顔をする。
「み、見すぎ……」
すると。
ひまりが真っ先に駆け寄った。
「待って待って待って!」
「めちゃくちゃ綺麗!!」
「帯どうなってんの!?」
「歩き方まで違うんだけど!?」
紬は顔を真っ赤にする。
その時。
西野がぽつりと言った。
「……女将じゃん」
空気が止まる。
江口。
「エロっ」
紬。
「はぁ!?」
柳下。
「旅館にいる」
陽介。
「女将だな」
ひまり。
「分かる!」
「似合いすぎるんだって!」
紬。
「やめてぇ!!」
しかし、誰もやめなかった。
笑い声が広がる。
屋台の灯り。
提灯。
夏の夜。
遠くからまた。
「取れたぁぁぁぁ!!」
宮坂の声が聞こえた。
陽介は笑う。
騒いでいるひまり。
甚平姿の西野。
隣を歩く柳下。
呆れている御影。
お面を眺める江口。
並んで歩く大山と河野。
描き続ける北見。
そして。
顔を真っ赤にしている天野紬。
「こんなに充実してたんだな……」
夏はまだ、これからだ。




