第十二話 夏休みと勉強会
夏休み前半。
二年三組は、
なぜか定期的に集まっていた。
図書館。
「眠ぃ……」
江口が机に突っ伏す。
その瞬間。
コン。
シャーペンが飛んできた。
額に当たる。
「痛っ」
顔を上げると。
御影が問題集から目も離さず言った。
「寝るなら帰れ」
「はい……」
別の日。
大山の家。
縁側。
麦茶。
蝉の声。
河野が自然にお菓子を配っている。
「ありがとう」
「はい」
「ありがとう」
「どうぞ」
ひまりが麦茶を飲む。
「ここ実家感すご……」
西野も頷いた。
「落ち着くな……」
大山が首を傾げる。
「俺ん家だけど?」
笑いが起きた。
さらに別の日。
公園。
ベンチで宿題。
高校生らしからぬ光景だった。
陽介は笑う。
「なんで夏休みに集まって勉強してんだ俺ら」
御影が答える。
「後半遊ぶため」
全員。
「はい」
完全に統率されていた。
不思議なことに。
担任の言うことは、
そこまで聞かない。
しかし、御影の言葉だけは、
みんなちゃんと守る。
「宿題終わらせろ」
「夏祭りまでに進める」
全部、本当に実行されている。
陽介は、その空気が少し面白かった。
「独裁国家じゃん」
御影は顔も上げない。
「嫌なら抜ければ?」
陽介が即答する。
「抜けたら夏休み後半死ぬ……」
グループメールも、
毎日動いていた。
『数学ワークどこまで?』
『英語長文の3、答え違くない?』
『化学意味分からん助けて』
『御影召喚希望』
『今風呂』
『待ちます』
陽介は、スマホを見ながら笑う。
次々飛び交うメッセージ。
ひまりが問題を聞く。
大山が理科を説明する。
江口が英語で死んでいる。
河野が、
『ちゃんと寝なよ』
と送ってくる。
宮坂は、
『終わった!』
と言いながら終わっていない。
柳下がそれに突っ込む。
北見は既読だけ付けている。
天野は、
『今日は店の手伝いだから遅れる』
とだけ送ってきた。
夏休みなのに。
クラスはまだ繋がっていた。
その時。
西野から画像が届く。
宿題が、ほぼ終わっている。
グループが止まった。
『は???』
『早くね!?』
『嘘だろ』
『お前絶対やってないと思ってた』
西野。
『夏休み後半遊びてぇだろ』
『あと溜めるとダルい』
御影。
『正しい』
陽介は腹を抱えて笑った。
「優等生ヤンキーじゃねぇか」
後日。
図書館帰り。
夕焼け。
陽介は西野と並んで歩いていた。
「意外だったわ」
「何が」
「お前が一番真面目なの」
西野は鼻で笑う。
「仕事とか現場ってさ」
「結局、先に終わらせた奴が楽なんだよ」
「高校生の発言じゃねぇ」
西野は肩を竦めた。
「あと」
「?」
「後半、全力で遊びてぇし」
陽介は笑った。
前を見る。
夏空。
祭り。
海。
花火。
予定がいっぱいだった。
スマホが震える。
『今日の進捗報告しなさい』
御影だった。
即座に返信が飛ぶ。
『英語終わった!』
『数学半分!』
『理科無理!』
『助けて』
『頑張れ』
通知が次々流れていく。
陽介は、その画面を見ながら笑った。
夏休みなのに。
なぜか毎日顔を合わせて。
なぜか毎日連絡を取って。
なぜか毎日一緒にいる。
悪くない。
むしろ。
楽しんでいる自分がいた。




