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第十一話 夏が来る


期末テスト終了。

解放感。

歓声。


そして。

職員室前の張り紙。


二年三組、

全員が息を呑む。


補修者一覧。


そこに。

二年三組の名前は、

一つもなかった。


数秒の沈黙。

そして。


「うおおおおおお!!!」


廊下が揺れた。

江口が飛び跳ねる。


「助かったぁぁぁ!!」


安西ひまり絶叫。


「夏休みだぁぁぁ!!」


宮坂も負けていない。


「っしゃああああ!!」


柳下まで笑っている。

河野がほっと息を吐く。

大山は少し引いていた。

北見はその様子を見て笑っている。


陽介、両手を上げる。


「勝ったぁぁぁ!!」


御影は、少し離れた場所で呆れていた。


「大袈裟……」


でも。

その瞬間。

西野が御影の肩を叩く。


「先生のおかげだろ」


御影が固まる。


ひまりが頷く。

「先生マジ神」


江口も続く。

「補修ゼロは英雄」


大山も頷く。

「普通にすごい」


河野も笑う。

「助かったよ」


柳下も小さく頷いた。

宮坂は両手を合わせる。

「先生ありがとうございました!」


「やめて」

御影は即答した。


陽介がニヤニヤしながら言う。

「満場一致だな」


「何が」


「先生」


「だから違う」


でも。

もう誰も聞いていなかった。


その日の放課後。

浮かれた空気の教室。

夏休み計画が始まっていた。


「海行こうぜ!」


「花火!」


「カラオケ!」


「旅行したい!」


「キャンプもう一回やる!?」


「お前だけ元気だな」


宮坂に総ツッコミが飛ぶ。


陽介は、机に座って笑っていた。

完全に幸せそうだった。


すると。

御影が教卓を叩いた。


パンッ。


静まる。


「夏祭りまでに宿題終わらせなさい」


「えぇー!?」


教室中から不満の声。

御影は真顔だった。


「絶対後半で死ぬから」

「先終わらせた方が楽」


江口。

「正論は暴力」


西野。

「夏祭りっていつだっけ」


ひまり。

「七月終わり」


陽介。

「つまり」

「祭りまでに宿題終わらせれば勝ちってことだな?」


御影。

「そういうこと」


その瞬間。

ひまりが、ふと思いついた顔をした。

「……夏祭りってさ」


「?」


「浴衣着たくない?」


空気が変わる。


「おぉー!」


「いいじゃん!」


「夏っぽい!」


「それだ!」


ひまりは、すぐ近くを見る。


「ねぇ天野さん」


突然名前を呼ばれた天野紬あまのつむぎが顔を上げた。


「え?」


「今どんなの流行ってんの?」


天野は少し驚く。


「えっと……」


少し考える。


「最近は淡い色とか」


「へぇー!」

ひまりは興味津々だった。


天野も少しずつ話し始める。

「あと帯をこうすると今っぽいかな」

「柄も昔より自由だし」

「下駄も合わせたりして――」


陽介が吹き出す。

「専門知識だ」


天野が少し赤くなる。

「家、呉服屋だから」


河野が感心する。

「詳しいねぇ」


天野は首を傾げた。

「普通だと思うけど」


大山が小さく笑う。

「普通じゃないやつだ」


陽介が頷く。

「最近そういうの多いな」


天野は意味が分からず困った顔をした。


その横で。

西野が聞く。

「甚平って売ってんの?」


天野。

「売ってるよ」


「マジか」


陽介。

「似合いそう」


西野。

「うるせぇ」


でも少し嬉しそうだった。


男子組も盛り上がる。


「どうせなら揃える?」


「クラスで統一感出す?」


「黒とか良くね?」


すると。

ひまりが笑った。


「いやいや」


「?」


「みんな違うから可愛いんじゃん」


空気が少し止まる。


陽介、即ニヤける。

「今の良い」


「何が」


「めちゃくちゃ良い」


ひまりは意味が分からず笑った。


その頃。

教室の隅。

北見葵が、黙々とノートへ描いていた。


浴衣姿のひまり。

帯を説明する天野。

甚平を想像している西野。

騒ぐ男子達。

笑う陽介。


ページの端に、小さくタイトル。

『夏祭り前会議』


北見は少しだけ笑った。


その横から。

陽介が覗き込む。


「うわ」


「もう描いてる」



北見。

「今の、なんか良かったから」


陽介は、そのページを見る。

みんな笑っていた。

楽しそうだった。


窓の外では蝉が鳴いている。

夏休みはまだ始まっていない。


それなのに。


もう始まっているみたいだった。

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