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5話 叛逆②

背中から骨の羽のようなものが生えた悪魔は、疑惑に燃えていた。


(おかしい…なんなんだこの感情は…。)


骨羽は、最近の自分の苦痛や恐怖といった感情に折り合いがつかず、困惑の日々を過ごしていた。


(私は…私があの音を聴きたいの…。私があの音を出しているなんておかしいじゃないのよ…。)


骨羽は、自分に最近突然襲いかかってくる謎の感情に苛立ち、自然と己の右腕を洞窟内の壁に叩き付けた。


骨羽の右腕の衝撃は、いとも容易く洞窟の壁に亀裂を入れることとなった。


(くそ…おかしい…。こんなはずじゃない…。もっと音を鳴らして、この不快な感情を打ち払うのよ!)


骨羽は、これまで恐怖といった感情を覚えた経験がない。

悪魔として産まれて数十年、この辺りでの1番の強者は自分だった。


一度、見た瞬間に勝てないと判断した者を見たことがあったが、対峙はしていない。


なんとなく、あれは触れてはならないものだ、と判断して私はあれを回避した。


自分が対峙した者で、私を傷つけられるものなんていなかったのだ。


(それがなんなのよ…。この感情は…。私が味わいたいのはもっと気持ちの良いもののはずなのに。)


骨羽は、他者を拷問して悲鳴を聞く。

その自分の中での唯一の快楽を、毎日のように邪魔されて苛立っていた。


(一体誰が私の邪魔をしているのかしら…。分かったら絶対に殺してあげるんだから…。必ず…殺すわ…そして私の幸せな城を取り戻すのよ。)


骨羽は、拷問相手の一体の悪魔の前まで辿り着く。

黒い球体のような形に触手のたくさん生えた悪魔であった。


骨羽は、その悪魔に対して鋭く右手を突き刺した。

黒い球体からは、どす黒いガスのようなものが吹き出し、「ギョエエエエ!!」という不気味な悲鳴が撒き散らされた。


その音を聞きながら、骨羽は笑みを浮かべて何度も何度も右腕と左腕を交互に突き刺す。


途切れることのない悲鳴がその場を支配するが、一切骨羽は、休めることはない。

どころか、愉悦に浸った表情を浮かべていた。


黒い球体の悪魔は、突然悲鳴を出さなくなり、球体は割れ、全てが黒いガスとなって塵になり、消え去った。


拘束されていた悪魔が塵となり、消え去るも骨羽は、「ギイアアアア!」と声を上げ、何もいなくなった場所に腕を突き刺し続けていた。


その姿を見ながら、やや息を乱した骨羽が、深くため息をついた。


(だ、ダメじゃないのよ…私。せっかく捕まえてきた玩具をまた壊しちゃったわ…。まだまだ良い音を鳴らしてくれる個体だったのに…もう!最近は失敗だらけよ!!)


骨羽は、苛立ちからか拷問に失敗する回数が増えていた。


ただ、それでも骨羽は、拷問をやめられないし、逃げ出せない。

何故なら長い年月をかけて、己の心に焼き付け続けてきた快楽は、もはや骨羽の一部となっているからだ。

そして、拷問している者の中に、自分に勝てる可能性のある者などいないと思っているからである。


骨羽は、気付かない。

自分が恐ろしい強者、いや恐者を作り出そうとしていることに。

いや、すでに骨羽にとっての恐者が出来上がってしまっているかもしれない、という事実に。


骨羽の命の灯火が、軽やかに消え去る日は、近いものとなっていた。


それでも骨羽は、ただ自分の快楽と感覚に身を委ね続け、ゆっくりと、足場の先に何もない階段を登り続ける。


骨羽が、階段から足を踏み外す日はもう直ぐそこまできていた。


※※※※※※※



俺は、骨羽と対峙する日を今日にすることを決断した。


理由は、骨羽を倒せるという自分の能力に対する自信のようなものができたからだ。

しかし、本来ならもう少し明確な自信を持ってから挑みたかったところだ。


それでも今日にすることを決断した理由は、骨羽が暴走し始めているからだ。


骨羽の拷問相手を誤って、殺してしまう回数が明らかに増えている。


これまでは、俺が骨羽に感情を送り込んだ際の苦痛と恐怖から拷問相手を殺してしまっていたのに対し、最近では俺が何もしなくても骨羽が拷問相手を殺してしまうことがでてきている。


それにその際、俺に届く骨羽の感情は、明らかに状況が理解できず困惑し、狂ってきている感情そのものであった。


そろそろ行動に移さなければ、俺の拷問の際に誤って俺が殺されてしまうかもしれない。


(ビビってる場合かよ。いくしかねえんだよ。)


俺は、先ほどの殺されてしまった悪魔の感情を骨羽へと濃密に送った。


これまでのよりももっと俺の殺意も込めて、送り込む。

短時間で骨羽が拷問相手を殺した、濃密な苦痛と恐怖の感情だったのも良かった。


これまでよりも明らかに濃度の高い感情が骨羽へと向かったのを、俺自信が感じ取れた。


「ギィィァァァァァ!!!」


洞窟内に巨大な骨羽の叫びが響き渡ると同時に、苦痛に支配された感情が俺へと届く。


その骨羽の感情を浴びて、俺自身も苦痛を感じるが、それ以上に俺の感情を支配したのは喜びであった。


(なんなの!!もう!!なんなのよ!!一体誰が私にこんなことしてるのよ!!)


骨羽の強烈な怒りの感情が届き、それに対して俺は覚悟を決めて、骨羽に感情を送った。


(良い音を鳴らすじゃないか、腐れ野郎。誰が、だって?俺だよ、このクソ野郎!!)


俺の姿形を明確にイメージしながら、骨羽に自分が敵対者であることを伝える。


それに対する骨羽の反応は、明確だった。


「キィエエエエエエエ!!!」


怒りに支配された叫びと共に、感情も傾れ込んでくる。


(お前かぁぁ!!お前が!!この私に!!あぁぁぁ!!玩具の分際で!!良い音を鳴らすから生かしておいてやれば図に乗りやがってぇぇぇ!!)


骨羽は、濃密で大量な怒りの感情を抱え、それが俺へと共有される。


本来なら俺は怯えるべきであろうほどの、他者から自分に対する怒りの感情を向けられながらも、俺の表情に浮かぶのは深い笑みだけであった。


(ほら、何度も顔を合わせたことがあるだろう?どこにいるか分かっているんだろう?さっさと来いよ、サイコ野郎が!!)


遂にこの時がきた、と俺は喜びと共に表現し難いほどの強い怒りの感情が湧き出ていた。


これまで地獄を耐え続けてきた。

それまでの苦痛や恐怖、絶望感といった感情がフラッシュバックする。

四肢を引き裂かれ、目を潰され、その度に夥しいほどの悲鳴を上げてきた。

その過去が俺の脳を駆け巡り、一瞬表情が歪むが、その日々に耐えてきたのも、今日この時のためだった。


全ては、お前に復讐するため。

そして、お前を苦しめて苦しめて殺すためだ。


今自分に浮かんでいる怒りの感情もまた骨羽へと向けられている。


骨羽もまた俺に感情をぶつけながら、音を立てて俺の方へと近付いてきていた。


(殺す殺す殺す殺す殺す!!お前のような玩具が私に逆らってんじゃないわよ!!絶対に殺すわよ!)


骨羽の怒りに任せた疾走が鳴らす、地鳴りに近いような足音が聞こえてくる。


骨羽の立てる足音が、明確に俺へと骨羽が近づいて来ていることを示していた。

それに対して俺が思う感情は、たった一言で言い表される感情だけであった。


(早く来いよ。)


逸る気持ちと共に胸の高鳴りが、自分の耳にも聞こえるほどに高鳴っている気すらしていた。


ジャリジャリジャリと地面を滑る音が俺の耳へと届く。


おそらく骨羽が自身の最高速の疾走を止めるために、地面を削りながら滑っているのだろう。


ほどなくして、洞窟内に無数に存在する横穴の一つである、俺の拷問部屋の穴の前に骨羽が立っていた。


穴の先は薄暗く、黒い影からゆっくりと骨羽がその姿を俺の前に現した。


骨羽の浮かべる表情は、これまでに俺が見てきた骨羽の表情とは全く異なるものであった。


その瞬間俺の笑みは、この生まれ変わった世界で最も大きな笑みへと変化した。


骨羽の表情は、怒りに顔を歪めており、俺を敵対者として本気で見つめてくる視線と感情が、どうしようもなく俺を幸福感で包み込んできた。


(お前なのか!?本当に!お前が俺の邪魔をしていたやつなのかぁぁ!?)


怒りの感情を俺にぶつけてきながら、まだ半信半疑であるようだ。

俺の能力を知らないのだから、仕方ないと言えなくもないが、それでも共感性が低いことだけは窺える。


なんせ、俺はこんなにもお前が来て喜びに、幸福に包まれている表情を浮かべているじゃないか、と。


(どうだ?俺の幸福感は伝わっているか?姿を見ただけでこれほどの幸福感に包まれるなんて、俺のお前に対する感情の深さは、愛なんてものよりも深いぞ!あはははは!!!)


俺の感情が伝わってきて、そして俺の表情がいつもと違うことを見て、ようやく骨羽は、俺がこれまでのことの犯人で間違いないと確信に至ったようだ。


(動けなくしているのに、気持ちの悪いやつだ!そんなに殺して欲しいなら殺してやるわよ!!)


骨羽は、俺に対して飛びかかるようにして跳躍し、右腕を大きく大きく振りかぶった。


骨羽の右腕が、黒い光に包まれる。

その光はこれまでに見たことがないほど大きい黒い光であった。


(一撃よ!本当なら苦しめてやりたいけど、お前は気味が悪いわ!さっさと死になさい!!)


骨羽の怒りに任せた右腕による攻撃が近付く中、俺は目を瞑っていた。


二人の強い感情の衝突の時は、数瞬後にまで近付いていた。

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