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勇者の兄  作者: 木こる
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第八勇

先頭でロゼが戦っている頃、最後尾でも問題が発生していた。

背後から現れた山賊に取り囲まれ、退路を断たれたのである。

見える範囲だけでも30人以上はおり、戦力差は明らかだった。

その群れの中から躍り出た小男が愉快そうに全貌を語った。


「キヒヒヒ、上手くいきましたなぁ……!

 魔法封印の罠まで誘導して戦力を無効化し、

 生徒たちを人質に取って身代金を頂く計画……

 これも全部あんたのおかげですぜ、教頭先生」


「おい馬鹿者!! ベラベラと喋るんじゃない!!

 そういうのは計画が完了するまで黙っておくものだろう!!」


「ほーん、なんか怪しいとは思ってたけど

 アンタ山賊と繋がってたのかよ…… へっ、最低だな」


「…ふん、なんとでも言え!

 私だって最初は迷ったが、よくよく考えてみればこれは善行なのだ!

 我が校に通う生徒は貴族の家で生まれ育ったガキどもだ!

 何不自由のない環境で甘やかされてきたクソガキどもだ!

 そんなクソガキでも、親ならば世間体のために必ず身代金を支払う!

 その金は私の老後の蓄えとなって有効利用されるのだ!!

 貴様らのようにその日暮らしをしている身分にはわからんだろうが、

 賢い人間には貯蓄が必要なのだ!! 私は賢い選択をしただけなのだ!!」


「ただの守銭奴じゃねえか!」

「恥を知れ!」

「人間の屑が!」

「許せない……!」


事件の黒幕への非難が飛び交う中、エイルは別のことに考えを巡らせた。

自身のブーメランは風魔法ありきで成立する武器だが、

魔法を封印されている状況では一発撃ったらもう後がない。

弓矢持ちの敵が10人、地形からして上にも何人かいるだろう。

遠距離合戦になれば押し負けるのは確実だ。


連携の取れそうな味方はアッシュのみ。

他の護衛は初対面の連中で人物像を知らない。

秘策を行使するにはリスクが高い。

それでも他にこの場を切り抜ける方法はなさそうなので、

エイルはとっておきの戦術に踏み切った。


「……いや〜、参った!オレは降りるぜ!

 なあ、オレもそっち側につかせてくれよ!

 こう見えてスリの腕には自信があるんだ!

 損はさせねえって約束する! なっ?頼むよ〜!」


エイルはブーメランを馬車の中に放り投げ、両手を上げて膝を突いた。

それは恥も外聞も無い命乞いだった。


「エ、エイルさん!? 何言ってんすか!?

 オイラたちを裏切るんですか!?

 生徒たちを見捨てるんですか!?」


「うるせえバーカ!!

 貴族のボンボンがどうなろうが知ったこっちゃねえよ!

 オレは死にたくねえ! 生きてる奴が勝ちなんだよ!」


「この裏切り者が!」

「恥を知れ!」

「人間の屑が!」

「許せない……!」


当然非難されるが、エイルは耳を塞ぐ仕草をして彼らの怒りに火を注いだ。

その様子を見て山賊の小男は群れの中に戻り、最後列の男に報告をした。

他の山賊よりも一際大きな体を持ち、獣骨で作られた兜を被り、

足を組んで深々と椅子に座り、肉にかぶりつくその男は山賊の首領だった。


「キヒヒヒ、どうしますか親分?

 あっしの見立てでは有望な人材だと思うんですがね

 指の動きからして相当器用な奴なのは間違いありません

 情に流されず損得勘定で動ける性格も山賊に向いてますぜ」


「ほう、そうか……

 オメェがそこまで言うのなら

 入団させてやろうじゃねえか」


首領の許可を得た小男は再び一行の前に姿を現し、

山賊の仲間入りを告げられたエイルは敵陣へと移動した。


「おい待て……! 待ってください!

 俺もあなたたちの仲間にしてください!

 実は昔から山賊に憧れてたんですよ!

 体力には自信があります!お願いします!」


エイルの成功に釣られた護衛の1人が寝返った。

そして別の護衛もこの機会を逃さなかった。


「僕は回復魔法が使えます!

 今は封印されてますが、軽い傷ならすぐに治せます!

 絶対役に立つと思うので是非仲間にしてください!」


「私は攻撃魔法が得意です!

 あと、胸元のホクロがチャームポイントです!」


「恥を知れ!」

「人間の屑が!」

「許せない……!」


教頭、エイル、元護衛3人が山賊側につき、

アッシュ、護衛3人、やる気のなさそうな教師が残った。

ただでさえ数で負けているのに、更に半減して戦力差が開いてしまった。


「キヒヒヒ、入団希望はこれで締め切らせてもらいますよ

 後でやっぱり仲間になりたいなんて言っても無効ですぜ

 うちの親分は判断の早い人材をご所望なんでね」


「くっ……!なんて人たちだ!

 エイルさん、信じてたのに見損ないましたよ!」


「へへへ、悪りいなアッシュ

 オレは勝ち馬に乗りたいんでね

 お前もどうだ? 今ならまだ間に合うかもよ?」


「冗談じゃない!!

 そいつらはオイラの家族を殺した連中と同類だ!!

 死んでも仲間になんかなるもんか!!」


「キヒヒヒ、それじゃあ死んでもらいましょうかね

 ……おいテメェら!! 仕事に取り掛かれ!!」


小男の号令で盾兵が前列に並んでしゃがみ、その後ろで弓兵が矢を番えた。

その流れるような動きは訓練された軍隊のようであった。

盾なしの護衛とやる気のなさそうな教師は急いで馬車へ避難し、

アッシュと2人の護衛は盾を構えて防戦態勢に入った。


「撃てーーーっ!!!」


一斉に放たれた矢が3人を襲う。

アッシュは全身を隠せる大盾だが残り2人は中サイズの盾であり、

カバーできなかった足を狙われて1人が脱落した。


「うぐあああぁぁ!!

 ……こ、降参だ!俺はもうやめる!

 見逃してくれ…… 頼む!!」


その命乞いは受け入れられず、高所からの追撃が彼に向けられた。

彼は死を覚悟したが、アッシュの防御が間に合って助かった。


「早く馬車の中へ…!」


アッシュは絶え間ない矢の嵐を防ぎつつ、怪我した護衛を馬車に避難させた。

残ったもう1人の護衛は腕利きの冒険者らしく、ほぼ無傷で凌いでいた。


「…おい、ワン公!! その盾俺に貸しやがれ!!

 こちとら人間様だ!! お前とは命の価値が違うんだよ!!」


ただ、性格は良くないようだ。これでは連携の取りようがない。

アッシュは拙いながらも作戦を練り、それを実行するには協力者が必要だった。

まずは盾兵をぶちかまして隊列を崩し、厄介な弓兵を倒して残りも倒す。

要するにシンプルなゴリ押しだが、一人で突っ込めば囲まれて終わりだ。

的を分散できれば生存確率が上がる。しかし味方の数が足りない。


どうすることもできない状況でアッシュは裏切り者を睨みつけようとしたが、

3人の元護衛はともかくエイルの姿がどこにも見当たらない。

そしてもう1人、この場にいるはずの人物が消えている事に気づいた。


御者だ。

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