第七勇
「ふぅ、こんなもんかな
見ての通りボクの魔力は測定不能の域に達してるんだ
どんな敵だろうと一撃で仕留める自信があるよ」
「クックックッ、どうだ見たか!
これが天才オードさんの実力なんだよ!
今までに割った水晶の数は10や20じゃ済まないんだぜ!」
細い男子が誇らしげにオードを褒め称えるが、
魔力で水晶が割れるという現象がどれだけすごいことなのか
ロゼとアッシュにはよくわからなかった。
魔法なんか使わなくても素手で割れるという考えが頭から離れない。
「……ねえ!あのさあ! 君たちさあ!!
今割ったモンの破片、ちゃんと掃除しといてよ!?
次に乗るお客さんが怪我したら困るからさあ!!」
「あ、ごめんなさい……」
声の調子から御者が本気で激怒していたのは間違いない。
仲間内では偉そうにしているオードも大人には逆らえないようだ。
生徒たちはとりあえず掃除を始めようとしたが、
3人とも怪我するのが怖いようで破片に手をつけない。
見かねたロゼは硬そうな、実際硬い袋を受け取って破片を回収した。
その後、魔法学校へ向かう一行は橋の手前で足止めを食らってしまった。
先頭の馬車に乗っていた若い教師が作業着の中年男性と会話していた。
「そんな、橋の修理をするだなんて話は聞いてませんよ!
そういう大事な連絡が事前に伝わってないのはおかしいですよ!」
「いや〜、そう言われましてもねえ〜
我々も緊急の仕事って話で駆り出されてるんですわ
もう工事入っちゃってるんで、他の道から行って下さい」
「いいから責任者を呼んでくださいよ!
というか工事してる音なんて聞こえませんけど、
あなた方は本当に修理業者なんですかね!?」
業者に食い掛かる教師の肩に手が置かれる。
彼が振り向くと、そこには教頭の姿があった。
「……まあまあジェド先生、落ち着いてください
橋の専門家が通れないと言っているのだから、
ここは素直に従って他の道から行きましょう」
「教頭先生…… しかし、他には山道しかありませんよ?
道幅の狭い箇所がありますし、野生動物や魔物、
そして山賊に襲われる可能性だってあります
生徒の安全を考えるなら修理が終わるまで待つべきです」
「はっはっはっ、心配しすぎですよ
この辺りの魔物なんて大した強さではないですし、
山賊なら数年前に騎士団の方々が全滅させたじゃないですか
多少遠回りになりますが早く生徒たちを寮へと帰し、
親御さんを安心させてあげようではありませんか」
若い教師は不満そうだったが、教頭の圧力に屈して山道に進路変更された。
馬車は10台あったが山道を行くと聞いて半数が去ってしまった。
御者の話によれば魔王の復活以降、魔物の数が増えてきており
最近結成されたであろう山賊団による被害も報告されているそうだ。
若い教師は教頭を再度説得してみたが、上司の決定は覆らなかった。
馬車が減ったことで1台当たりの乗客が倍になり、
全員の役割や体重を計算して再編成された。
先頭の馬車には身軽で即座に近接戦闘が可能なロゼと
結界を張れるワイト、元から雇われていた護衛が4人。
若い教師は魔物を探知する魔法を使えるようだ。
オード班も実力者と見做されて同乗した。
最後尾の馬車には後ろからの襲撃に備えて防御の硬いアッシュと
器用な立ち回りができるエイル、そして護衛が6人。
教頭とやる気のなさそうな教師もここに乗り込んだ。
2番目・4番目の馬車にはそこそこ実力の高い教師と生徒が乗り、
中央の馬車は戦力外と判断された者たちの居場所となった。
勇者パーティーからはサクラとヴィオが配置された。
そこにはミズキの姿もあり、彼女の評価が低いのは本当のようだ。
山道は細く、かろうじて馬車1台が通れる幅しかなかった。
平和だった頃も毎年数台の滑落事故が起きていた悪名高い道であり、
御者の腕が試される場所でもあった。
その差は徐々に顕著になり、馬車同士の間隔に大きな開きが出来た。
後続を待つべきという意見も出たが、狭い足場で待つよりも
空間に余裕のある中間地点まで進んだ方がいいという御者の判断に従った。
最初に異変を感じ取ったのは若い教師だった。
魔物が増えたという情報に反して全く探知魔法に引っ掛からず、
順調に中間地点手前まで到着してしまったのだ。
やはり何かがおかしい。他の教師と相談しよう。
そう思った矢先、別の異変に気づいたロゼが叫んだ。
「落石が来るぞ!! 馬車を止めてくれ!!」
御者をはじめ他の乗員も怪訝な表情を見せたが
徐々に岩の転がる音が大きくなり、ロゼの言葉は真実となった。
その巨大な岩は進路を塞ぎ、とても1人では動かせそうになかった。
そのままのスピードで進んでいたら馬車ごと押し潰されていた。
命拾いした御者は礼を述べようとしたが馬車内にロゼの姿は無く、
既に外へ出て戦闘態勢に入っていた。
その落石は自然現象ではなく、山賊の襲撃だった。
そしてそれは行き当たりばったりの犯行ではなく、
計画に沿って実行されたものだと思い知ることになる。
「ぐっ、これはまずい……! 皆さん気をつけてください!
どうやら我々は魔法封印の罠に掛かってしまったようです!
私の結界はおろか、皆さんの魔導器も無力化されています!」
「え、それって……、おれたち超ピンチじゃん!!
オードさん!どうすりゃいいと思いますか!?」
「うわあぁぁん!! 助けてママーーっ!!
もうピーマン残さないから許して〜〜っ!!」
「オ、オードさん!?
ピーマン嫌いだったんですか!?」
「き、君たち落ち着きなさい…!
とりあえず体勢を低くして頭を守るんだ!
……護衛の皆さん、お願いします!」
「チッ…、おい斧の小僧!! 外の様子教えろ!!」
「正確な数は不明だが、上に敵が10人以上いる!!
全員弓矢を持ってるから不用意に出ない方がいい!!」
そう言った直後、ロゼに向かって矢が放たれた。
正確に急所を狙って撃たれた矢を斧で防ぎ、
敵が本気で殺しに来ていることを悟った。
それならば相手に遠慮する必要はない。
今回の敵は人間だが手加減する気はない。
ロゼは過去に村を襲撃してきた盗賊を手にかけた経験がある。
初めての殺人だったが、紛れもない正当防衛なので罪悪感はなかった。
今回の山賊も一方的に命を奪おうとしてくる人間の屑であり、
慈悲を与える余地はどこにも存在しない。
ロゼは降り注ぐ矢の雨を斧で弾きながら敵に近づく方法を思案した。
平地なら斧でガードして強引に接近できるだろうが、
高低差の激しい地形だと登っている所を狙い撃ちされるのは目に見えている。
馬車内から見学していた護衛たちはロゼの戦いぶりに呆然とした。
魔法が使えない現状では魔導器の効果も発揮できないのは当然であり、
ただの斧で的確に防御し続ける光景はあまりにも常軌を逸していた。
「…護衛の皆さん、何をしてるんですか!?
こんな時のためにあなた方を雇ってるんですよ!?
彼一人に戦わせるつもりなんですか!?」
「いや、無茶言わんでくださいよ先生……
魔導器が使えない以上、今の俺らはあんたと同じ一般人なんでね
むしろあいつ1人に任せた方が被害が少なくなるんじゃねえかな」
薄情にも思える発言だが、それは間違いではなかった。




