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勇者の兄  作者: 木こる
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第六勇

「ちょっと!何する気!?

 部屋に連れ込もうったってそうはいかないかんね!?

 残念だけどアタシはそんなに安い女じゃないんだから!!」


「いや違うんだ……

 俺はただ、攻撃魔法を使える仲間が欲しいだけだ

 手の空いてる魔法使いがいたら紹介してもらいたいんだが……」


早とちりに気づいた少女は頬を赤らめ、

ロゼは誤解させてしまったことを謝った。


少女の名前はミズキと言い、魔法学校を今年卒業する生徒だ。

代表を自称するだけあって一番成績が良い優等生らしい。

修学旅行から本国へ帰る便で巨大イカに遭遇したようだ。

魔力もなしに斧だけで善戦したロゼは生徒たちの間で話題になり、

誰か話してこいという流れになって選ばれたのが彼女だった。


畑仕事や木材の切り出しで鍛えられた筋肉、

自然環境と向き合って生きてきた男の顔つき、

それでいて田舎者らしからぬ清潔感を併せ持つロゼは

軟弱な同級生の男子たちとは明らかに異質であり、

都会育ちのお嬢様には奇妙で新鮮な存在として印象づいた。




航海10日目、それまでに半魚人の襲撃が何度かあったが

特に問題なく撃退し、一行は無事に西の大陸へと到着した。

妖精の国へ向かう前に魔法学校まで生徒の護衛として付き添い、

旅に同行してくれる魔法使いを紹介してもらう運びとなった。


やる気のなさそうな教師が生徒を整列させ、点呼を取った。

人数に不足なし、各自荷物を確認して準備は整った。


「よし、全員揃ってるなー

 そんじゃ班ごとに馬車に乗ってけー

 いいか、まだ気ぃ抜くなよー

 寮に帰るまでが修学旅行だと思えー」


ロゼたちは予定にない客人なので馬車の用意はされていない。

新たに手配してもいいが、詰めれば乗れそうだったので

少し窮屈になることを詫びて相乗りさせてもらった。

ロゼはミズキ班の馬車に誘われたが女子だらけの空間に尻込みし、

逆に男子班の馬車に誘われていたサクラと交換して事なきを得た。


他の班は5〜6人で編成されているのに対して

ロゼが乗った馬車には3人の男子生徒しかおらず、

空間に余裕があったので体の大きいアッシュを同乗させた。

そこの3人は他の班とは違う雰囲気があり、対等な関係ではないようだった。

中央が文字通りの中心人物で、両隣はその取り巻きという印象を受けた。


「ケッ、ツイてねーな!獣人野郎と一緒かよ!

 ケモノ臭くなるから隅っこでおとなしくしてろよな!」


向かって右側の太い男子が露骨にアッシュを嫌がった。

アッシュはこの手の差別には慣れているらしく、

反論せず言われた通り隅に寄って押し黙った。

声には出さないが、垂れ下がった耳と尻尾が悲しみを物語っていた。


「おい、それはないんじゃないか?

 獣人の体臭は人間とそう変わらないぞ

 むしろお前の香水の方がよっぽど酷い匂いがする」


ロゼからの思わぬ口撃を受けた男子は眉をしかめ、袖の匂いを嗅ぎ出した。

その様子を見ながら他の男子2人が笑いを堪えている。

すると中央の男子がロゼたちに向き直り、胸に手を当てて謝罪の言葉を述べた。


「いやあ、ボクの連れが申し訳ない

 獣人を近くで見るのはこれが初めてなんだ

 緊張で舞い上がって、つい口走ってしまったんだろうね

 ……ほら、彼に謝りなよ 気まずい空気のまま半日過ごしたいかい?」


「い、いえ…… あの、す、すいませんでした……」


上からの命令で仕方なく謝っているのは明らかだが、

そこを追及しても面倒なだけなのでアッシュは謝罪を受け入れた。


とりあえず喧嘩にならずに済んだところで

中央の男子がサラサラの髪をかき上げながら自己紹介を始めた。


「ボクは公爵家の次期当主、オード

 先生方から十年に1人の逸材と言わしめた天才魔法使いさ

 魔法学校を首席で卒業した後は宮廷魔導師になる予定だよ」


「さすがはオードさん!

 自分で天才と言えちゃうあたりが凡人のおれらとは考え方が違う!」


左の細い男子が持ち上げるが、悪口を言っているようにも聞こえる。

言われた本人は褒められて嬉しそうなのでツッコむのはやめておいた。


「首席って一番成績が良い生徒の事だよな?

 ミズキは自分が一番の優等生だって話してたんだが……」


「おやおや、ミズキさんがそんな事を言っていたのかい?

 プッ…、クククク……! アハハハハッ!!」


オードは笑いを堪えようと我慢したが、耐え切れずに噴き出してしまった。

取り巻き2人もオードに便乗して笑い出し、馬車内に嫌な空気が流れた。

それはさっきの獣人差別に似た、誰かが馬鹿にされている時の感覚だった。


「何がそんなにおかしいんだ?」


「ククッ… フフフ… ふぅうう〜……

 いやあ、あの子も面白い冗談が言えたんだなと思ってね……

 一番は一番でも、彼女の場合は座学の成績だけだからねぇ

 高名な賢者の家系の出身でありながらも魔力に恵まれず、

 実技試験をいつも合格点ギリギリで突破してしているような子が

 優等生を名乗っていただなんて…… これは笑わずにはいられないよ」


「ん……?座学で一番なら頭良いんだろ?

 才能に恵まれなくても、試験にいつも合格してるなら

 魔法使いとして求められる実力はあるって証明になるよな?

 学校とも魔法とも無縁な俺からすれば充分優等生に思えるんだが……」


「キミにとってはそうかもね

 …でも、どんなに頑張っても最低限の魔法しか使えない人間が

 ボクと同じ魔法使いだと思われるのは困る…… おい、アレを出せ」


オードに指示された細い男子は金属製の箱の鍵を開け、

硬そうな袋から水晶玉を取り出してロゼとアッシュに見せびらかした。


「それは魔力の強さを測る水晶だよ

 入学試験や騎士の入隊審査などで使われる道具さ

 彼の水晶に注目していてごらん…… おい、やれ」


「はいオードさん!

 うおおおおぉぉぉぉ!!

 これが!おれの!魔力だああああ!!」


細い男子が気合いを入れると、水晶が淡い青色の光を放ち始めた。

その色は水属性を示しているらしい。


「次はおれの番だな! ……それっ!」


太い男子が魔力を注ぎ込むと、水晶は淡い緑色の光を放ち始めた。

彼の色は風属性で、べつに叫ぶ必要はなかったようだ。


「え、オイラもやっていいんですか?

 じゃあ遠慮なく…… ちゃんと測るのって初めてだなぁ」


アッシュが集中すると、水晶は淡い灰色の光を放ち始めた。

無属性という補助的な魔法専門の属性の色らしい。


「クックックッ、どうだ見たか!

 これが凡人の力……! 今のがザコの明るさだ覚えとけ!!」


細い男子が自慢げに語る。

それだと彼自身もザコということになるが、ツッコむのはやめておいた。


「え、俺も……?」


ロゼに魔力がないことはわかりきっていたが、記念としてやらされた。

当然水晶に反応はなく、完全なる一般人であることが証明された。


「ふふふ、その水晶はキミにあげるよ

 まあ何かの記念だと思ってくれたまえ

 ……おい、新しいのを出せ」


ロゼはいまいち使い道の思いつかない水晶玉を手に入れた。


「……じゃあ、いよいよボクの番だね

 ふぅうう…… これが天才の力さ……っ!!」


オードが両手で水晶に魔力を込めると彼の周囲に力場が発生し、

異変を感じ取った御者が振り向いて睨みつけてきた。

争っているわけではないと察すると彼は進行方向に向き直り、

馬車を走らせるという本来の仕事に戻った。


そしてオードの水晶は強い黄色の光を放ち、

内部で魔力が膨張してそのまま破裂した。

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