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勇者の兄  作者: 木こる
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第四勇

獣人という種族は獣でも人でもなく妖精の一種らしい。

獣のような見た目をしているが、その身体能力は人間より少し高い程度で

知能も魔力も人間以下とされており、多くの地域で迫害を受けている存在だ。


アッシュは10年前、兄妹の村に現れた獣人だった。

住んでいた集落が盗賊に襲われて全滅し、

見知らぬ土地を三日三晩彷徨い続けて腹を空かせた彼は

村の畑にあった農作物に手をつけて罠にかかってしまった。

村民たちは害獣として処理しようとしたが、まだ幼い兄妹が彼を庇った。


人間は盗賊のような悪党ばかりじゃない。

そう思い知った彼は人間を恨まず、人間社会で冒険者として生きることを誓った。

強制的に働かされる奴隷ではなく自発的にこの道へ進む獣人は珍しかった。


「あの時は子犬みたいなもんだったのに、

 今じゃ俺よりでかくなりやがって……

 まあ元気そうで何よりだ 安心したよ」


でかいなんてもんじゃない。

クロードも充分巨躯だがアッシュはその上を行く大きさだった。

四肢の太さも人間以上で他の獣人と比べても力が強いことは明白だった。

顔には大きな傷があり、冒険者として修羅場を潜ってきたのだろう。


思いがけない友人との再会に戦いの疲れを忘れ、

ロゼたちはアッシュと乾杯してこれまでの経緯を話した。




「え、ええぇ!?

 姐さん勇者だったんですか!?

 ほえ〜、やっぱりそうなんじゃないかと思ってましたよ!」


「俺としては間違いであって欲しいと思ってるよ

 サクラには荷が重すぎる 戦いに向かない性格なのは知ってるだろ?」


「そうですよねぇ オイラもそう思います」


「どっちだよ…」


「オイラは兄貴と姐さんの味方です!

 どんな意見でも受け入れますよ!」


獣人全体はともかく、アッシュの知能は低そうだ。


「兄貴!姐さん!

 オイラもその旅に連れて行ってくれやしませんか!?

 魔法は苦手ですが、体力には自信があります!!

 荷物持ちでもなんでもしますから、どうかお願いします!!」


深々と頭を下げるアッシュ。

ちょうど欠員が出たばかりで強そうな冒険者の加入希望。

断る理由が見当たらない。むしろこちらから誘うつもりだった。

そして荷物持ちなんかじゃなく戦闘要員として役立ってほしい。


「…ほ、本当っすか!? やったあああ!!

 オイラ、この命に替えてでも兄貴たちをお守りします!!」


「いや、死なないでくれ…

 今日1人死んだばかりなんだ……」


「う、うっす…!」


冒険者アッシュが仲間に加わった。




1週間後、ワイトとクロードが王都から戻ってきた。

彼らが不在の間にギルドで仕事を受けたこと、

リンドが死んでアッシュが仲間になったことなどを伝えた。

勝手な行動が招いた結果を咎められるかと思いきや、

そもそもギルドで仕事を受ける案はリンドが言い出したことで、

その責任は死をもって果たしたと結論づけられた。


「まあ、私たちも彼とは短い付き合いでしたからね

 薄情なようですが、あまり悲しみの感情が湧いてきません

 それよりも彼の愚行を戒めとして今後の戦いに活かしましょう

 敵を目前にして不必要な解説を行うのはやめておきましょう」


神官のワイトが事務的に祈りを捧げ、

おそらくリンドの魂は成仏できたはずだ。


リンドの遺品である槍はアッシュに持たせた。

それまで使っていた安物とは段違いの性能の魔導器らしく、

元から持っている大盾と併せてこれからの活躍に期待ができる。


ロゼはモリガニのハサミを素材に新しい斧を作ってもらった。

貴重な素材で農具を打つ発想に鍛冶屋は驚いていた。

今まで誰も作ったことのないモリガニの斧。

鍛冶屋は興味を示し、期待以上の作品を格安で製作してくれた。

森で試し斬りしてみたところ、細い木なら一振りで両断できるほどの業物だった。


「さて、色々ありましたがそろそろ参りましょうか!

 目指すは妖精の国!聖剣の力を解放して魔王を倒しましょう!」


一行は西の大陸行きの船に乗り込み、大海原へと旅立った。




航海5日目、巨大な魔物が海中から姿を現した。

海面から出ている部分だけでも10メートル以上は確実にある。

8本の足に2本の触腕をうねらせるそれはイカの形をしていた。

そして先日交戦したモリガニよりも強そうな相手だった。


「巨大イカだあーーーっ!!」


船員が見た目そのままの名前を叫んだ。

リンドが遺した魔物図鑑を調べてみたが、

魔物名と簡単なスケッチ以外の情報は得られなかった。

その名前は船員が言った通り『巨大イカ』だった。


船員の他、同乗した冒険者たちが既に戦っている。

彼らは基本的に弓矢や魔法で本体を攻撃し、

船体に絡みつこうとする触腕には

剣や槍で応戦して引き剥がしていた。


どうやら敵には再生能力があるらしく、

彼らの火力だけでは倒し切れない様子だった。

どのみちこのまま放置するわけにはいかない。

一行は参戦の意志を示した。


「サクラ、俺たちは加勢してくるから部屋で待っててくれ」


「うん、無茶しないでね兄さん…!」


「兄貴ィ! オイラもお供しますぜ!」


「へっ、蟹の次はイカかよ!

 魔物じゃなきゃ酒のつまみにしてやんのによぉ!」


「葉っぱの吸い過ぎで気分が悪い……

 まるで船に揺られているようだ……」


「私は怪我人の救護と結界の維持に専念致します!

 皆さんに神のご加護があらんことを!」


「ようやく自分の出番だな……

 王国最強の騎士として恥じぬ戦いをしてみせよう」


準備を整えた一行は巨大イカとの戦闘に参加した。




「……そらよっと!!」


エイルの投げたブーメランが変則的な軌道を描いて巨大イカの背後から直撃する。

後ろに気を取られた敵は振り向き、更なる攻撃チャンスを生み出した。

名も知らぬ冒険者が落雷の魔法を放ち、大ダメージを与えた。


「むおおおおっ!!」


船体に絡みつこうとしていた触腕にアッシュの槍が突き刺さる。

その一撃は床を貫通し、触腕1本を固定して動きを封じ込めた。

これで攻撃頻度と攻撃範囲、そして機動力を半減できた。

後は残った1本に注意しながら本体に遠距離攻撃すれば勝てる戦いだった。


黒の(ブラック)裁き(ジャッジメント)!!」


クロードが何か叫びながら両手剣を振り下ろした。

よりにもよって固定されていた触腕を斬り落とし、巨大イカは自由になった。

切断面から新しい触腕が再生され、状況は振り出しに戻ってしまった。


その場に居合わせた全員から睨まれ、クロードは気まずさに苛まれた。

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