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勇者の兄  作者: 木こる
23/24

第二十三勇

魔王軍の侵攻開始まであと3日。


一行は魔王城に到着した。

今更引き返したところで安全圏には間に合わないし、戻る気はない。

そして死ぬ気もない。この戦いを勝って終わらせる。


「ギヘヘヘ……人間だァ……

 生きたまま頭から丸かじりにしてやる……」


魔王城の入り口には体長3メートルほどの巨人が立っていた。

おそらく門番なのだろう。


「俺たちは魔王に招待された客人だ

 勝手に食ったらまずいんじゃないか?」


「エッ……?」


「たしか、魔王はこう言ってたぞ

 『魔王は魔王らしく玉座で待つ』ってな

 あまり待たせたくないから案内してくれないか?」


「エッ、エッ……」


落ち着いた態度のロゼにたじろぐ巨人。

今までに見てきた魔王以外の人間は、

怯えて逃げ出すか刃を向けてくるかの二種類だけだった。

この人間はどこか魔王と似たような感じがする。

しかも魔王に招かれた者とあっては、どう接すればいいのかわからない。


「なんだ、話が通ってないのか

 自分で判断できないのなら上の者と代わってくれ

 こっちは急いでるんだ 早くしてもらえるか?

 あと、寒いから中で待たせてもらえると助かるんだが」


「ア、エット……ハイ……」




数分後、巨人は更に大きい巨人を連れて帰ってきた。


「……上司と話し合った結果、

 ここを通すわけにはいかん!!」


「ここってどこだよ 正門のことか?

 それならあんたが通してくれたじゃないか

 上司の指示を仰ぐ前に、あんたの判断でな」


「……アッ」


まずいと思った巨人は手で口を押さえ、上司の顔色を窺った。

上司は部下を険しい表情で見つめ、目が合ってしまった部下は視線を逸らした。

その態度が上司の怒りを買ったのだろう。上司は部下を叱りつけた。


「お前さあ、なんで俺を待たなかったわけ?

 中入れてんじゃねえよ、お前の仕事だろ?

 たったひとつの仕事すらできねえのかよ」


「ア、ア……」


「勝手な判断して勝手に動いてんじゃねえよ

 責任取るの誰だと思ってんだよ……」


「……」


「聞いてんのか?」


「…………」


「聞 い て ん の か !?」


「ウッ……ウウウゥゥァァアアア〜〜〜!!」


部下は泣き出した。




精神状態が不安定な部下巨人はこの場から離れさせ、

上司巨人が一行の前に立ち塞がった。


「……ったく、中に入っちまったもんはしょうがねえ

 ここでお前らをぶっ殺して外に捨てりゃいいわな」


「そんなことしたら、魔王に怒られないか?」


「は……?どういう意味だ?」


「魔王は俺たちが来るのを楽しみにしてるって言ってたぞ?

 それこそ何千年もの時をかけて、ようやくこの時が来たんだ

 それなのに手下が勝手に楽しみを奪ったら、どう思う?」


「なっ……」


上司巨人は言葉に詰まった。

絶好のチャンスだ。


「この状況どうしてくれるんだよ?

 あんたの手に負える案件なのか?

 わからないんだったら上に話を通せよ!」


魔王との対峙以降、ロゼは情報収集のため図書館に通い詰めた。

そこで目にした書物はどれも新鮮であり、彼は時間を忘れて読み漁った。


タチの悪いことに魔王が元いたであろう世界から輸入された本もあり、

中には“ビジネス論”や“パワハラ対策”、“クレーマーとの接し方”などの

この世界ではまずお目にかかれない書物が棚一杯に収められていたが

ロゼは興味本位で読破し、その技術を会得していった。


魔王城に到達後、ロゼたちは一度も戦闘していない。

上司の上司、そのまた上司、更なる上司、と取り次ぐこと数回、

とうとう最終上司……魔王が待つであろう玉座の間の前まで辿り着いた。




「……カカカ!そこでおとなしくしていろ人間ども!

 俺様は今から魔王様の判断を仰がせてもらう!

 くれぐれも勝手に入ってくるんじゃあないぞ!

 あのお方を怒らせたらどんな目に遭うかわからんからな!」


最終部下が重い扉を開け、玉座の間へと踏み入った。


奥の長椅子に鎮座するは魔王。

それだけ確認できれば充分だった。


ロゼは扉が閉まる前にストッパーを差し込み、3cm程度の隙間を残した。

そして用意した“煙の出ない木炭”に火をつけ、燃料を投下した。


「よし……エイル、頼んだぞ」


「おう、任せとけって」


エイルは抜群のコントロールで隙間から風魔法を送り込み、

部屋の中を木炭から発せられる空気で充満させた。


その空気は吸ったらまずいものだった。

投下した燃料はサクラ特性の調合薬物、いわゆる覚醒剤だ。


ロゼは静観した。


部屋の奥では魔王からネチネチと嫌味を言われる最終部下の姿があったが、

例の空気を流し込んでからは徐々に魔王の様子がおかしくなっていった。


「あ、あれ……課長……?

 ……え?そんな仕事頼まれてないですけど……え?

 はい、やります……あ、やらせていただきます……」


ロゼの読み通り、魔王は異世界から来た人間であり“社畜”と呼ばれる人種だった。

図書館にはその手の本が大量に存在し、魔王の人物像を推測するのは容易だった。


前世での辛い経験を埋め合わせるかのように、

“転生者に付与される俺だけのチートスキル”とやらを思う存分に使い、

“自分だけのホワイト国家”を築き上げるために何度も世界を作り変えてきたのだ。


彼は方法を間違えた。

他国を“ブラック国家”になるよう仕向けてゆくうちに、

いつしか彼自身も“ブラック上司”に染まってしまったのである。

もっとマシな手段を取っていれば本当の神にでもなれたのかもしれない。


しかし彼は神にはなれなかった。

幻覚により最終部下をかつての上司と見間違え、

ヘコヘコしているその姿はもはや魔王ですらない。

彼は紛れもない、ただの人間だった。


「危険な役目を押し付けてすまないが、

 今この場で魔王を倒せるのはお前しかいない……後は頼んだぞ」


「ああ、気にするな

 お前の妹にはいつも助けられている

 彼女が作るクスリは最高だ

 恩返しをさせてくれ」


ヴィオが部屋に入った。

幻覚作用のある空気の中で活動できるのは薬物に耐性を持つ彼だけだ。


そしてヴィオは魔王の背後に忍び寄り、頭頂部に短剣を突き立てた。


魔王は死んだ。






「──人類への侵攻は中止する!!

 そして未来永劫、他国への攻撃は一切禁ずる!!

 この掟を破ればどうなるかわかっておるな!?

 おいそこのお前!! 今わしが言ったことを理解したか!?」


「アッ、アッ……ハイ!! ワカリマシタァ!!」


魔王の姿に変身したミズキが演説を行なった。

魔王軍は萎縮し、侵攻中止及び攻撃禁止令を受け入れた。


「それから、わしはしばらく旅に出る!!

 いつ帰るかはまだ決めとらんが、

 わしがいないからといって羽目を外すんじゃあないぞ!!

 どんなに離れていても、監視魔法で貴様らの様子を窺うかんなぁ!?」


「「「 ハイ!! イッテラッシャイマセェ!! 」」」


大量の魔物に見送られ、魔王に扮したミズキは城から立ち去った。

今回の脱落者


魔王 : 脳を破壊された

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