表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の兄  作者: 木こる
24/24

第二十四勇

「──描き直せ」


「えっ……なぜですか、陛下……?」


「なぜって貴様……なんだこの絵は?

 魔王の最期がこんな……後ろから刺されて死亡ってお前……

 国民が求めているのは勇者の活躍であって、真実ではない

 なんかもっとこう、聖剣の力でパアーッというか、

 ガガガッとくる感じの絵面が欲しいと思うのが当然だろう?」


「抽象的な表現では伝わりません、陛下」


「とにかく、余がやれと命じているのだから黙って従え」


「はあ……承りました」




「──やれやれ、陛下のわがままには困ったものだ

 俺たちの冒険を全て否定されたようで気分が悪い」


「大丈夫?薬飲む?」


「いや、そういう意味じゃない

 最近は禁断症状も落ち着いてきたし、

 世界がクリアに見えて絶好調だよ

 これも全部サクラのおかげだな」


画家ヴィオ。


芸術の都において、著名人たちから

“一万年に1人の奇跡”と言わしめた真の天才。

その類稀なる才能ゆえに周囲の大人たちが放っておかず、

幼少期より厳しい英才教育を強要され続けて心を壊した青年。


薬物乱用の影響で奇行が目立つようになり、

都を追い出された後は放浪画家として日銭を稼いでいた。

お忍びで城下を散策していた王女から気に入られ、

魔王討伐の旅を記録する役目を猛プッシュされた経緯がある。


ヴィオの傍らにはサクラの姿があった。

その距離は近く、まるで恋人のように腕を組んで歩いている。


しかし二人は恋人ではなく、夫婦だ。


旅の最中、戦力外として待機することの多かった二人は絆を深めていた。

薬物の副作用に苦しむヴィオを献身的に介護するうちに

お互いを意識するようになり、愛が芽生えたのだ。


サクラとの出会いを機に、彼は立ち直ることができた。

それまで絵を描くことは生きる手段でしかなかったのが、

今では楽しい時間だと思えるまでに心身が回復したのだ。


王女は二人の幸せを快く思っていないが、それはまた別の話である。




魔王が死んだという事実は公にされておらず、

勇者一行と王国の上層部だけがその情報を握っている。

それが発表されれば大きな騒ぎになるだろうが、

国王はヴィオが記録した真実が気に食わないようで

文芸家や大臣を集めて捏造会議をしている最中だ。


とりあえず仲間内で祝勝会をしようという流れになり、

魔王討伐に参加した英雄たちは酒場に足を運んだ。



「おっ、やっと来たな お二人さん!

 仲良く腕なんか組んじゃって、見せつけてくれるね〜」


エイルにからかわれてヴィオは腕を解こうとしたが、

サクラが離してくれない。見せつけたいのだ。


衛兵エイル。


彼は最初から最後まで同行し、活躍の機会も多かった。

彼無しではこの旅がもっと厳しいものになっただろう。

文句無しの頼れる仲間として物語を彩ってくれるはずだ。


その見事な功績から爵位を与えられるという話になったが、

貴族同士のしがらみなんて面倒事は御免だとして破談になった。

これからも王都の衛兵として地域の安全を守ると誓い、

たまにはサボって自由にやらせてもらうとも宣言していた。



「お二人に神のご加護があらんことを!

 ……まあ、神様なんていなかったんですけどね

 私たちがあなた方を祝福しますよ」


神官ワイト。


旅の途中、何度もギャンブルで散財した男だ。

最後の町のカジノで大当たりを出し、

一晩で億万長者へと成り上がった男でもある。


それはさておき、支援能力は確かで有能な人物だった。

最終決戦には参加しなかったものの道中では役立ち、

比較的死傷者の少ない旅になったのは彼のおかげだろう。

印象が悪いので賭博の件は伏せて執筆されるそうだ。



「結局自分はなんの役にも立たなかったな……

 なにが王国最強の騎士だ

 初心に立ち返り、一から体を鍛え直さねばならんな」


クロードは役に立たなかった。



「いやー、しかしあの二人がくっつくとはねぇ〜

 いつかアタシもろz……あ、今のナシ!なんでもないんだかんね!」


賢者ミズキ。


元々優等生だった彼女は最後の町でも勉強し、

多種多様な古代魔法を操れるようになった。

中には変身や分身などの魔王が使っていた技術もあり、

魔法学校に伝授するべきか協議中である。

有用な魔法ではあるが、悪戯に使われると厄介だ。


宮廷魔導士から連日スカウトされているようだが、

他にやりたいことがあるらしく断り続けている。



「いやあ〜、皆さんならやってくれると思いましたよ!

 さすがはボクのライバルが参加したパーティーですね!」


冒険者オード。


宮廷魔導士をクビになって家を追い出されたらしい。

見下していたはずのミズキをライバル扱いするのはいかがなものか。

性格はゴミだが、四天王を1体倒した実力者なのは間違いない。

同行はしていないが、王国の功績にしたい大臣たちの考えで

最初から仲間だったことにされる予定だ。



「……僕がここにいてもいいんでしょうか?

 結局、旅には同行してませんし……」


魔法学校の教師ジェド。


確かに何か貢献したわけではないのだが、

旅立ってからすぐに死んだリンドの代わりとして呼ばれたのだった。

彼は顔も雰囲気もそっくりで、職業まで被っていた。

彼もまた、これから捏造される英雄譚の一員となる予定であり、

本人にはまだ何も知らされていない。



「おい店員!肉が冷てーんだよ!

 ちゃんとしたの持ってこい!

 ……ったく、これだから庶民はよー」


貴族シオン。


勇者の旅に同行するはずだったのに、その任務を放棄した男だ。

存在が不愉快だし、この場にいるべき人間ではないのだが

捏造する英雄譚では活躍したことになる予定なので、

その口裏合わせとしてしばらく行動を共にするしかない。



「まだ全員揃っていないようだな

 そろそろ到着する頃だとは思うが……」


「最近、街道に盗賊が出るって話を聞くし、

 もしかしたら狩ってるのかもね」


村娘サクラ。


勇者ではなかった少女。

偽物の神託により強引に旅立たされたが、

結果的に邪悪な魔王を討ち滅ぼすことができた。


本人は静かで平和な暮らしを望んでいるが、

神託のせいでその名が広まってしまったので

英雄譚には主役として登場させなければならない。

大幅なキャラ変更が必要で、その作業が難航している。




しばらくして、酒場の扉を開く者が現れた。



「──皆さん、お久しぶりです!遅くなってすいません!

 街道で襲ってきた盗賊を返り討ちにしてたんですが、

 ついでに本拠地も潰しておこうってなっちゃいまして……」


獣人アッシュ。


最後まで旅を続けられなかったが、彼は充分に働いてくれた。

冒険者を引退後は、竜に滅ぼされた魔狼の里の復興作業に尽力している。

もうすぐ父親になる予定で、その日が待ち遠しくてたまらない様子だ。

獣人であるという理由で英雄譚から排除されそうになったが、

仲間たちの猛抗議により彼の活躍はちゃんと綴られるようだ。


「おいおいおい……なんで獣人なんかが入ってきてんだよー!?

 おいケモノ野郎!料理に毛が入ったらどうしてくれんだ!? ァアン!?」


当然のように獣人差別をするシオン。

やはり彼に英雄の資格はない。

全員から顰蹙を買っていることに気づいていない。

そして、彼に近寄る人物にも気づいていない。


シオンは後ろから肩を叩かれ、振り向いた。


突如、鉄のように硬い拳がシオンのみぞおちにめり込んだ。


彼はその場に膝から崩れ落ち、今日食べた物を全て床にぶち撒けた。

地面に這いつくばり、泣きながらヒーヒー言っている姿がなんとも情けない。


すぐに酒場の用心棒がやってきて迷惑な客を店から追い出した。

追い出されたのは殴った方ではなく、床に汚物を撒き散らした方だ。

そして店の計らいで一同は別の席を用意してもらい、そこへ移動した。



「──あいつ全然変わってないな……

 あ、しまった 嫌なモン見せられて食欲が失せちまった……」


村人ロゼ。


魔王討伐の旅における最大の功労者は彼だろう。

農作業仕込みの圧倒的な身体能力だけでなく、

人類最強の武器……“知恵”を駆使して戦うのが彼のスタイルだ。

どこぞの筋肉馬鹿とは訳が違う。

彼の功績は捏造組に分配して執筆されるそうだが、

当の本人は名声には興味がないようで全く気にしていない。


現在は魔狼の里の復興作業を手伝っているが、

それが終わったらしばらく旅に出ると言っていた。

妹夫婦の邪魔をしたくないという兄なりの思いやりだ。



何はともあれ、主役が出揃ったところでそれぞれの手に飲み物が行き渡った。



「「「 乾杯!! 」」」











──時は少し遡り。


「おい店員!肉が冷てーんだよ!

 ちゃんとしたの持ってこい!

 ……ったく、これだから庶民はよー」


「あっ、申し訳ありません!

 すぐに新しいのを用意します!」


「当たり前だボケ!まっずいメシ出しやがってよー!

 どうなってんだこの店はよー! ァアン!?

 ……って、よく見りゃおまえ魔族かよ気持ち悪りーな!

 ちゃんと人間が運んでこいよなー メシがまずくなっからよー」


「は、はい 失礼します……」


その店員は魔族であり、四天王の生き残りだった。

火の塔を統べる“氷の魔女ゼニス”。それが彼女の名だ。


金目当ての冒険者たちによって

塔内に配置した装備を根こそぎ持っていかれ、

新しい装備を補充するために人間社会で働いていたのだ。


魔法金属製の防具は貴重で入手が困難だが、

在庫が尽きたら人間どもから奪えばいい。

そう考えていたが、上手くいかなかった。


四天王は結界を守らせるためだけに魔王が用意した存在であり、

塔から出ると魔力の制御が不安定になるという

嫌がらせのような仕様を仕込まれていた。

実際、嫌がらせ以外の何者でもない。

もちろん意味はない。ただのパワハラの一貫だ。


塔内のザコ魔物は知性を持たないので、

購入資金を稼ぐには自分が働くしかないと腹を括った。




「ゼニスちゃん、悪いんだけど……君、今日でクビね」


「え、そんな……困ります!

 私には病弱な両親と病弱な弟と病弱な妹がいるんです!

 この青白い肌を見てくださいよ!私も病弱なんです!

 家族全員病弱なんです!私にはお金が必要なんです!」


「いや、それって君の種族特有のアレでしょ……

 今月だけで3回も苦情来てるし、もう庇い切れないんだよね

 それにもし病弱なのが本当だとしても、それはそれで問題なんだ

 うちは飲食店だしさ、衛生管理とかお客さんからの印象とかさ……」


「そんなあ……」


ゼニスは酒場をクビになり、途方に暮れた。


彼女は魔王が死んだことを知らない。

火の塔の結界が解除されたことも知らない。

それでも塔を守るという唯一の使命を果たすため、

次なる仕事を見つけに職業紹介所へと足を運んだ──。

今回の脱落者


シオン : 腹痛により凱旋パレード及び叙勲式を欠席。

    せっかく捏造英雄譚の一枠を買い取ったというのに、

    親の顔に泥を塗ったとして当主から勘当を言い渡される。

    国王は頑張ってシオンパートの捏造シナリオを完成させたが、

    全てを台無しにされて激怒し、国外永久追放処分を決定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ