第二十一勇
「おいおい、こいつら……
塔の前にいた嘘つきジジイどもじゃねえか!!」
エイルの言葉にお爺さんたちは首を傾げる。
「はて、嘘つきじゃと?
何を言っとるんじゃお主……?
わしらは嘘なんて一度もついとらんよ
最上階までの魔物の情報をちゃーんと教えとったろうが」
「それでも、肝心のボスの情報は教えてくんなかったよなあ!?
あんたの情報に従ってたら弱点属性で死んでたかもしんねえんだぞ!!」
「まったく、何をそんなに怒っとるんじゃお主は?
教えてくれなかった?なぜ教えられる前提で話しとるんじゃ?
なぜわしのような老いぼれがボスの情報なんぞ持っとると思うんじゃ?」
「くっ……!
そうかもしんねえけどよぉ!
あんたは絶対に何か知ってただろ!?
なんで事前に言わねえんだよ!?」
「はあ、まったく……短気な若者じゃのう
わしが何か情報を持っとると思ったのなら、
なぜその時に聞かなかったんじゃ?
それに、お主らは死んどらんじゃろ
自分たちの頭で考え、行動した結果がそれじゃろ?
文句を言われる筋合いなんて無いと思うんじゃがのう」
ハタから見て感情的な若者を諭す老人という構図だが、
どうにも掌で踊らされている感じがしてならない。
言葉に詰まるエイルに代わり、ロゼが質問した。
「お爺さん、あなたは何者なんですか?」
「ほっほっ、早速“学習”して質問してきたのう
良い心がけじゃ もちろん教えてしんぜよう」
すると4人のお爺さんは等間隔で四方に並び立ち、
それぞれの全身に魔力の光を帯び始めた。
赤色、青色、緑色、黄色……それは4属性の色と一致していた。
4人の間隔は徐々に狭くなり、最終的に中央に集まって強い光が発せられた。
赤色のお爺さん、青色のお爺さん、
緑色のお爺さん、黄色のお爺さん。
4人は1つに融合し、無色のお爺さんになった。
「……ようやくこの姿で動かせるようになったのう
まったく、分身をバラバラに動かすのは疲れるわい
残り3ヶ月を切っとるが……まあ許容範囲じゃな」
その数字は魔王軍が侵攻を始めるまでの残り時間だ。
もう隠す必要はない。
お爺さんは正体を明かした。
「わしはかつて、当時の賢者どもから
“千年に1人の神童”と言わしめた天才魔法使いじゃった
今までに割った水晶の数は1000や2000では済まない……
10歳を迎える前にはその賢者どもと肩を並べ、追い越し、
20歳を過ぎた後には“魔王”と呼ばれるようになった……」
魔王。
ロゼは斧を振りかぶった。
「よせ」
次の瞬間、ロゼは一切の身動きが取れなくなった。
意識はあるのに体が全く動かない。
何かの魔法なのは確かだが、こんな魔法は知らない。
少なくとも図書室の書物には載っていなかった。
「……あの時代は何をするにも退屈でのう
諸国を渡り歩いて魔法知識を深めようにも
各地に何百年と伝わる秘術の類は
わしが子供の頃に思いついたものだったり、
最強の生物と呼ばれるドラゴンに挑んでみれば
指先ひとつでなーんの苦労もなく勝ってしまったりな……」
ロゼの異変を感じ取った仲間たちが戦闘態勢を整えようとしたが、
魔王がチラッと見ただけで全員の体も動かなくなった。
「そんな退屈を紛らわしたくなってのう
わしゃ千年の眠りに就くことにしたんじゃ
他の“千年に1人”に会いたくなったもんでな」
圧倒的な強者を前に、ロゼたちは無力だった。
理不尽なこの状況に汗を掻くことすらできない。
一切の運動機能を停止されているが、
呼吸ができなくてもなぜか生きている。
これが千年の眠りに使われた魔法なのだろうか。
「じゃが……そんな人間はおらんかった
わしが眠っとる間に魔法技術が衰退しとってのう
まったく嘆かわしいと思ったもんじゃ……
つい思ってしまったわい 『昔は良かった』とな
…じゃから、二度目の眠りに就く前には
技術が発展するよう世界規模の整地を行なったんじゃ」
魔王はあまりにも強大すぎた。
これは軍隊を差し向けても勝ち目がない。
否、強い弱いという次元の話ではない。
何もさせてもらえない。
「今回で五度目……
ようやっと四天王を全て撃破する人間が現れおって、
初めて“最終決戦イベント”ができそうじゃわい
今この場でお主らを始末する気はないから安心するがええ
魔王は魔王らしく、玉座で待っとるからいつでも挑んできんさい
……何か質問があるなら今聞いておくぞい」
そう言うと全員の停止が一部解除され、
発声と呼吸の機能が復活した。
「──お前の弱点はなんだ!?」
開口一番、ロゼの質問に魔王は少しだけ感情が動いた。
「ほっほっほっ、面白い質問じゃのう
……自分の弱点なんぞ考えたことはないが、
強いて言えば人間の身であることかのう
見ての通り老いぼれておるし、いつかは寿命で死ぬ運命じゃ」
「…勇者に封印されたという話は嘘だったんですか!?」
次に質問したのはワイトだった。
聖職者という立場上、この中で最も伝説に詳しい人物であり、
ギャンブル癖はどうあれ勇者の存在を信じていたはずだ。
「嘘ではない……と言ったらお主は信じるのか?
本当だ、と言ったらどっちを信じるんじゃ?」
「……っ!!」
「…少し意地悪じゃったの
お主、この声に覚えはあるか?
『私は神なり そなたに私の言葉を授けよう』」
「えっ…………」
「『辺境の村に住むサクラという名の少女が
勇者の資質を持っていることが判明しました
邪悪なる魔王を倒せるのは彼女だけです
世界に光を取り戻すため、彼女を導くのです』」
「そん…な……」
「……それで、サクラという少女はおったのか?
そこのお嬢さんがそうなのか?
まあ今となってはどうでもええが、
お主が信じていたのは違う名前の同じ存在ということじゃ
…ちなみにサクラとは異世界に存在する植物の名前なんじゃが、
これがまた綺麗な花を咲かせてのう 春の象徴なんじゃよ
季節がちょうど春だったもんで、ふと思い出して呼んだ名前じゃ
まあこの知識が役に立つことはなかろうて カッカッカッ」
ワイトをはじめ、誰も何も言えなかった。
全ては魔王が仕組んだことであり、神託とは魔王の言葉だった。
自身の退屈を紛らわせるためだけに用意した筋書きだった。
そして、勇者サクラの名前は適当に言っただけだった。
「どうやら質問は終わったようじゃな
それじゃあ、わしゃ魔王城の玉座で待っておるでの
お主らがどこまでやれるのか少しだけ楽しみにしとるぞい
……そうそう、わしが死ぬか世界が滅ぶかのどっちかまでの間、
お前さんたちはこの大陸から出られんようにしといたぞい
ラスダン攻略の準備が必要ならこの“最後の町”で整えるがええ」
魔王はそう言い残して姿が薄くなり、数秒後には完全に消え去った。
本体ではなかったのだろう。それも知らない魔法だ。
魔王の影が消滅後、ロゼたちは自由に動けるようになった。
勝機を見出せない。
退屈凌ぎで何度も世界を作り変えてきた相手と
どう戦えばいいのかわからない。
ロゼたちは途方に暮れた。




