第二十勇
ロゼたちはアッシュの離脱に異論はなかったものの、
正直なところ彼の抜けた穴は大きい。
他メンバーよりも高い生命力と防御力の高さ。
重装備での活動をものともしない筋力と体力。
傷付いた仲間を咄嗟に庇える洞察力と精神力。
そして挑発魔法によるターゲット管理。
彼は最高のタンクだった。
「ぐっ……!
アッシュ殿はこんなにも重い装備で動き回っていたのか……!」
アッシュが残した最強防具はとりあえずクロードに受け継がれた。
モリガニ装備よりも軽いはずだが、リハビリ中の彼には重いようだ。
両手剣を振り回す体力も衰えている今はとにかく防御に徹してもらい、
前線に出ようなんて考えずに後ろでじっとしていてほしい。
「……貴様ら、少しいいか?」
「あれ、忘れ物か?」
旅支度を整える一行の部屋に魔狼の少女が訪ねてきた。
数分前にアッシュとの旅立ちを見送ったばかりで少し気まずい。
しかし彼女はそう思っておらず、一方的に用件を伝えてきた。
「貴様らはこれから火の塔へ行くのだろう?
我も同行させてもらう ただし戦うつもりはない
我が一族に伝わる秘術で火の塔にある結界を解いてやろう
我の伴侶が慕う人間だからな 今回だけは特別だ」
そう言い切ると彼女はさっさと部屋を去り、
宿の前で待機していたアッシュと合流した。
アッシュはこれから感じるであろう気まずさをどう乗り切るか考えた。
火の塔。
事前に得た情報通り、塔内の装備品目当ての冒険者が大量に押し寄せていた。
彼らは他のパーティーに負けじと入り口の前で足の引っ張り合いをしていた。
しかしよく観察すると入り口の扉は内側から施錠されているようで、
屈強な男たちが全力で壊そうとしても扉は無傷のままだった。
「なんと醜い……
これだから我は人間と関わりたくないのだ」
魔狼の少女が呆れてため息を吐く。
彼女はその件に関してはもう言及せず、
この島へ来た目的を果たそうと周辺の魔力を探り始めた。
しばらく歩き回り、塔の真下の地中に何かを感じ取ったようで
有象無象の冒険者たちを強引に押し退けて塔の壁際まで進んだ。
妊婦の自覚があるのかないのか、彼女が押し潰されないように
仲間たちは円陣を組み、それを崩さないように踏ん張った。
「──ハァァァアアアッ!!!」
彼女は突然叫び、何かしらの魔力を地面に叩き込んだ。
周りの冒険者たちは一瞬驚き、その後すぐに罵声を浴びせてきたが
用事が済んだ彼女は何事もなかったかのようにその場から離れた。
「さあ、ここの結界は解いてやったぞ
もうこの場所に用はない 行くぞダーリン」
困惑する一行をよそに、彼女とアッシュは速やかに旅立っていった。
火の塔の攻略が完了した。
これにて4ヶ所の結界が消え去り、魔王城への道が開かれた。
最上階で待ち構えるであろう四天王は倒していないが、
一行の目的は結界の破壊だったので無理に戦う必要はない。
彼らの最優先事項は一刻も早く魔王を倒すことだ。
そして勇者たちは魔王が支配する大陸へと上陸した。
ここは年間を通して気温が低く、
世界一の豪雪地帯として知られている。
近年までは罪人の流刑地として利用されてきたが、
魔王軍の支配後は誰も寄りつかなくなった。
「とうとう来ちまったな……
…つっても、肝心の魔王城ってどこにあんだ?」
「大陸の中央にあると云われていますね
ここは遠い昔に“帝国”と呼ばれる国が全土を支配していたそうです
帝国にどんな歴史があり、どうして滅びたのかは知りませんが
きっと魔物の仕業なんでしょうね 気を引き締めて参りましょう」
「俺は絵描きだが、父は音楽家で母は劇作家なんだ」
「魔王の本拠地が近くなるにつれ、
出現する魔物も強くなってゆくだろう
だが、自分が皆の盾となるから安心してくれ」
「いや、おじさんは危なっかしいから後ろに下がってなさいよ……」
「兄さん、わたし船で待ってるね」
「ああ、もし何かあったら
俺たちを置いて大陸を離れろよ?」
一行は魔王城に向けて歩き出した。
道中で妖精たちと遭遇した。
何か情報が聞けるかもしれないと思い話しかけたが、
彼らは敵対心丸出しで襲い掛かってきた。
「キキキキ!外から人間が来るなんて何ヶ月ぶりだ!?」
「しかも女がいるぞ!」
「今夜はごちそうだ!」
「柔らかい肉!柔らかい肉!」
コウモリのような羽、細くて長い尻尾、尖った角。
妖精の国で見た兵士たちと同じ姿だが、彼らよりも邪悪な印象を受けた。
先制攻撃で妖精が指先から熱線を放ち、ロゼは籠手でガードした。
防具越しに高威力の感触を覚え、竜装備でなければ危なかっただろう。
言葉は通じるが会話は通じない。こいつらは敵だと判断した。
エイルの放ったブーメランが変則的な軌道を描く。
いつものザコならこれで狩れるが、今回は違った。
妖精は風魔法の流れを見切り、軽やかに回避した。
「マジかよ!」
動揺するエイルを見て妖精たちは喜んでいるようだった。
続いてワイトが結界を張り、ミズキが重力の魔法で敵の高度を調整した。
敵が横並びになった瞬間、ロゼの鎖斧で3体まとめて斬り捨てた。
「キー!? なんだそれ!意味がわから……ギャ!!」
エイルの放った矢が生き残りの頭を貫いた。
戦闘はすぐに終わったが、若干のやりづらさを感じた。
たまたま悪い妖精だったのか、それともこの大陸の妖精は
全部こんな感じなのか、それはまだわからない。
やはり知性を持つ敵は手強い。それは確実だ。
大陸の中央に向かい半日ほど進むと、
人工的な建造物の集まり……町が見えてきた。
一行は警戒しながら町の様子を探り、意外な結果を導き出した。
この町は平和だ。
そこには人間、獣人、妖精、魔族などの多種多様な種族が共に生活しており、
お互いに対等な立場で接する社会が形成されていた。
“見捨てられた地”などと呼ばれるこの大陸だが、
その文明レベルはロゼが最初に訪れた王都よりも遥かに高度な発達を遂げており、
ここで暮らす住民たちは誰もが活き活きとして幸福そうな印象を受けた。
「ほっほっほっ、またお会いしましたのう
この町の様子にさぞかし驚いているようじゃの
まあ無理もないのう なにせ情報が外に出回らんからのう」
話しかけてきたのは、かつて火の塔で情報をくれた親切なお爺さんだった。
頭髪がやけに真っ赤だったのでよく覚えている。
「外の大陸からこの町へ来た人間は本当に久しぶりじゃのう
わしゃ嬉しゅうて嬉しゅうて……」
続いて青い髪のお爺さんが話しかけてきた。
彼は水の塔で情報をくれた人物だ。
「結界が消えた直後に来たということは、
もしかしてお前さんたち……」
緑色の髪のお爺さん。
風の塔の前で情報をくれた人だ。
「……勇者サクラのパーティーかの?」
黄色。
土の塔。
気づけばロゼたちは4人の親切なお爺さんに囲まれていた。




