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勇者の兄  作者: 木こる
19/24

第十九勇

「兄貴ィ!退院したんですね!

 お務めご苦労様です!」


「こういう時に使う言葉かそれ?

 …ところでそっちの子は?」


アッシュの傍らには犬の耳を生やした少女が立っていた。

アッシュと同じく犬っぽくはあるが

彼の場合は二足歩行で喋る犬という風貌で、

対する少女の顔立ちや手足の形状は人間と変わらなかった。

そして二人の距離感からして親密な仲であることが予想できた。


少女はアッシュの陰に半分隠れてこちらのメンバーをジロジロと見つめ、

どうも人間を警戒しているような雰囲気を醸し出していた。

そんな少女の行動にアッシュは困り笑いをしながら紹介してくれた。


「皆さん、黄金の飛竜との戦いを覚えてますか?

 実はこちらの女性……あの時の魔狼なんです」


魔狼。

伝説の幻獣と呼ばれ、最強生物の竜とも渡り合える実力を持つ存在。

滅多に人前に姿を現さないため、その生態は謎に包まれている。


「でも獣人の姿をしてるよな……

 もしかして変身する魔法とかか?」


「アタシはそんな楽しそうな魔法、聞いたことないわね…」


アッシュが嘘をつくとは思えないし、

とりあえず少女があの時の魔狼だということを受け入れた。


「なんだと……我を疑わないのか人間?

 貴様らを騙そうとしてるやもしれんのだぞ」


少女は困惑し、アッシュとその他を交互に見比べた。


「…ほら、大丈夫だって言ったでしょ?

 兄貴たちはこういう人たちなんだよ」


「つうか、その仰々しい喋り方は間違いねえな

 ひとつアドバイスだ、人間社会に溶け込みたいなら

 もっと柔らかい言葉を使った方がいいぜ?」


「伝説の幻獣を二度もお目にかかれるとは……

 これも神のお導きなのかもしれませんね」


「ほう、自分が負傷した後に出会ったという魔狼殿か

 なんでも、たった一人で竜に立ち向かったそうだな

 その心意気や良し 自分も見習わなければならんな」


「俺は画家のヴィオだ

 勇者の旅における記録係を担当している

 水魔法を使えるが、できることは絵の具の調整くらいだ

 正直役立たずだが足手まといにはなっていないと思う」


「……どうして兄さんに自己紹介したの?」


とりあえず予約の時間が迫っていたので、

一同は酒場の10人部屋へと場所を移した。




「「「……乾杯!」」」


各々の飲み物を掲げ、慰労会兼快気祝いが開始された。

急に1人追加されたが店員はスムーズに対応してくれた。

竜の島で振る舞われたようなスパイシーな肉料理は少なく、

新鮮な海の幸をメインに使うのがこの地域の特徴らしい。


旅を始めてから随分経つ。

これまで仲間たちと会話した主な話題といえば

やれ魔物だの、やれ盗賊だのと、戦いに関することばかりで

あまり個人の内面に関する情報は聞いてこなかった。


出会ったばかりの頃ならまだしも、

何度も命を預け合った今の関係性なら

少し踏み込んだ会話をしても構わないだろうとロゼは思った。



エイル (親密度:高)

「…え、オレが衛兵になったきっかけ?

 オレはガキの頃、スリやコソ泥で生き延びてたんだよなぁ

 そん時ゃまだ技術も全然なかったから何度も捕まってよ、

 当時の衛兵連中からは『またお前か』なんて言われたりしてな

 13歳の時だったかな……ある日、顔馴染みの衛兵のおっさんが

 チンケなコソ泥のガキに殺される事件が起きちまったんだ

 そのガキが許せなかったのかもな……ああ、オレが捕まえたぜ」



ヴィオ (親密度:低)

「なぜ俺がひとりで隅っこにいるか?

 俺がふたりいたら困るだろう……?」



ワイト (親密度:高)

「私は今のロゼ君と同じで、昔は神を信じていませんでした

 没落貴族の七男坊なもんで、貴族社会でも家庭内でも

 いつも肩身の狭い思いをして過ごしてきました

 そんな私はある時、出会ってしまったのです

 そう……ルーレットです 私は初めて神に祈りました

 そして運の悪いことに大当たりを出してしまったんですねぇ

 おかげでもうやめることのできない体になってしまいましたよ」



クロード (親密度:中)

「エスメラルダが誰かだと?

 察しはつくだろう 自分はかつて王妃と禁断の関係にあった…

 ここだけの話だが、彼女は元々自分の婚約者だったのだ

 それをあの国王が横から……おっと、これ以上はやめておこう」



ヴィオ (親密度:低)

「なぜ俺がひとりで隅っこにいるか?

 俺がふたりいたら困るだろう……?」



ミズキ (親密度:高)

「あの時アンタと出会わなければ、

 アタシはきっと今頃つまんない生き方をしてたんでしょうね

 賢者の家系なのに魔力が低いことに劣等感を抱きながら、

 一部の見下してくる連中に腹を立てる日々……

 あ〜やだやだ!そんな風になんなくて本当によかった!

 ぶっちゃけ父親と血繋がってないし、魔力低くて当然なのよね……

 …ああもう!こんな暗い話はやめて今夜はとことん飲みましょう!

 嫌なこと思い出させた罰として、朝まで付き合ってもらうかんね!」



アッシュ (親密度:高)

「兄貴……折り入って大事な話があるんすよ」


「ん……?

 どうしたんだアッシュ、そんなに改まって……」


「その、とても言いづらいんですが……

 オイラは……この魔王討伐の旅を降りさせていただきます!!」


「…………えっ」




それまで楽しく飲み騒いでいた一同が静かになり、アッシュに注目する。


旅を降りる。

確かにそう言った。


「……理由を聞かせてくれ」


アッシュの表情は重い。

彼としても不本意なのだろう。


言葉が出てこないのか、アッシュは下を俯いたまま押し黙っている。

沈黙に耐えかねたエイルが立ち上がったが、ロゼは首を振って制止した。


「オイラ……その……」


ようやく口を開いたアッシュだが、まだ言葉を選んでいる様子だ。

そんな彼をよそに、突然ミズキが何かに気づいて大声を出した。


「あっ……ああ〜〜!!」


ミズキは口を押さえながら、あるものに注目していた。

興味を持った一同もその方向に目を向けた。


魔狼の少女だ。

あまり食事に口をつけていないにも関わらず腹部に膨らみがあり、

彼女はそこを優しく撫で下ろし、微笑みながら呟いていた。

まるで大切な誰かに語りかけるように……。


「そういうことか……」


合点がいった。

二人に子供が出来たのだ。


「……兄貴たちが入院してる間、彼女と再開しましてね

 故郷を滅ぼされた者同士で意気投合しまして……

 その、気づいたらいつのまにかこんなことになっちゃいまして……

 生まれてくる子のためにも危険なことはやめてほしいって言われて……」


そこまで言うとアッシュは泣き出した。

苦渋の決断だったのだろう。


「大丈夫だアッシュ、後は俺たちに任せろ」


それ以上の言葉は必要なかった。

一同は二人の新たな門出を祝福し、朝まで飲み交わした。

今回の脱落者


アッシュ : 責任を取るため

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