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勇者の兄  作者: 木こる
18/24

第十八勇

「ちょっと!! なんでよ!?

 アンタ負けを認めてたじゃない!!

 自分から首を差し出してたでしょうが!!」


「へっ、敵ながら少しは見所のある奴だと思ってたのによぉ!

 結局は人類に仇なすただの魔物ってわけかい!」


いきなり魔法を解禁したルージュに非難の声が上がる。

彼はそれを意に介さず立ち上がり、落ち着いたトーンで反論した。


「…貴様の言う通り今の私はただの魔物に過ぎん

 “人類最強の剣士”は死んだ……それだけのことだ

 これからは人としてではなく、魔物として貴様らの相手をしよう」


仲間たちは動揺しつつも急いで戦闘配置に着いた。


「まあそう慌てるな……

 我が好敵手ロゼには心から感謝しているのだ

 彼の健闘に免じて貴様らには数日の準備期間を与えてやる」


「そんなものはいらない…

 今ここでお前を倒す……!」


声の主はロゼだった。


衝撃を全てカットできたわけではないが、

続行可能な程度には動ける確信があった。

少しふらつきながらも腕に鎖を巻き直し、

まだ戦う意志が死んでいないことを示した。

ルージュはそんなロゼを見て心の中で歓喜した。


「……ほう、あの爆発を食らって生きていたか

 なるほど……防具にも竜の素材を使っているな?

 まったく貴様という男は……どこまでも楽しませてくれる!」


ルージュは右手に魔力を集中し始めた。

再び爆発を起こすつもりなのだろう。

先程と違い、今度は溜める時間がある。

威力も範囲も大きくなるはずだ。


ワイトは全属性対応の結界ではなく、火属性特化の結界を張った。

水には弱くなるが、パターンに当て嵌めればこの場は火さえ防げればいい。


その判断は間違いだった。


ルージュは魔力の塊を足元に打ち込み、

部屋全体に強烈な爆風が巻き起こった。

それは風属性の魔法攻撃だった。

ルージュを中心に円状の力場が発生し、

パーティーはその外側へと吹き飛ばされた。


軽装備のエイル、ヴィオ、ワイトの3人が

壁に叩きつけられてそのまま意識を失った。


大盾を構えていたアッシュと、

その後ろにいたミズキは無事だった。


ロゼは偶然にも最初の爆発で斧が床に刺さり、

鎖を腕に巻き付けたおかげで吹き飛ばされずに済んだ。

そして急激に引っ張られたことにより右腕の骨が砕けた。


「ほう、これも耐えたか……!!

  それでこそ我が好敵手……!!

   だが、これはどうかな……!?」


ルージュは両手に溜めた2つの魔力塊を打ち込み、

威力も範囲も更に強烈な大爆風が巻き起こった。


警戒していたアッシュは気絶した3人を大盾の陰に隠して凌ぎ、

ミズキはあらかじめ壁に背中を密着させて自分の盾で衝撃を防いだ。


斧が床から外れ、ロゼは再び壁まで吹き飛ばされた。

しかし今度は直撃せず、壁を蹴って衝撃を和らげた。


「ふはははは!!!

 いいぞ!!! 実に素晴らしい!!!

 貴様には敬意を表し、我が最強魔法の大爆発をくれてやろう!!!」


名前からしてまずい攻撃だ。

これは吹き飛ばされる程度では済まないだろう。

仲間たちは全員身動きが取れない。

この場で何かできるのは自分だけだ。



そしてロゼは賭けに出た。



「……ルージュ!!!

  俺からの贈り物だ!!!

   受け取れえええぇぇぇ!!!」


過去最大の魔力を集中させていたルージュは

好敵手から投げられた物を両手で受け取った。

自分が勝利者に剣を託そうとしたように、

ロゼも同じことをしようとしたのだろう。


その判断は間違いだった。


ルージュが受け取った物、それは魔力を測定するための水晶玉だった。


水晶に膨大な魔力が流れ込み、小さな太陽となって勢いよく破裂した。


「ガッ…アアアァァァ……!!!」


破片が目に刺さり、ルージュはその場に膝から崩れ落ちた。


ロゼはその隙を見逃さなかった。


がら空きの脳天に焦点を合わせ、左腕に渾身の力を込めて斧が振り下ろされる。

物心ついた頃から何千何万回と繰り返してきた薪割りと同じ要領だ。

ルージュの最強魔法に対し、ロゼは最強の技を叩き返した。


「うおおおおおおっ!!!!」


最強の斧が最強の四天王の頭部を破壊し、

轟音を鳴り響かせて床に亀裂を入れた。


ロゼはルージュとの死闘を制した。






──2ヶ月後。


魔王軍の侵攻開始まであと3ヶ月。


ロゼ、エイル、ヴィオ、ワイトの4人は

ルージュとの戦いで負った怪我が完治し、

勇者一行は旅の再開を宣言した。


療養中はアッシュとミズキが情報収集と近隣の魔物討伐に走り、

ヴィオの描いた絵がさる貴族に高額で買い取られ、

サクラは薬草採取と調合で彼らを支えていたようだ。


そしてもう1人、復帰したメンバーがいる。


「皆の者、待たせたな

 聞けば皆も療養していたそうだな

 自分と共にリハビリを頑張ろう」


騎士クロードだ。

以前より更に痩せ細り、背中の両手剣が重そうだ。

正直、今の彼に戦力を期待するのは酷であり、

しっかりと栄養を摂って療養生活を続けてもらいたい。

しかし彼は一緒に行くと言って聞かないので渋々同行を許した。


「さぁて、あとは火の塔だけだな

 ボスがルージュみてえな奴じゃなきゃいいんだがなぁ

 吹き飛ばし一発でオレらは何もできなくなっちまったからなぁ」


「はは、結局ロゼ君の独壇場でしたね

 私の結界が役に立たず、皆さんには申し訳ないと思っています」


「ほーら吸盤おじさんが来たぞ〜!! ふへへへへ!!」


「兄さん、怪我が治ったばかりだし無理はしないでね」


「アタシが集めた情報によると…

 火の塔を攻略しようとした冒険者が最上階手前で引き返して、

 後日再挑戦したら同じ場所に同じ装備が配置されていたそうよ

 それがなんと希少な魔法金属製の防具らしくてね……

 今は装備目当ての冒険者で溢れかえってるって話よ」


「へえ、いい傾向じゃないか

 もしかしたらその中の誰かが攻略してくれるかもな

 現に最初の塔はオードたちのパーティーが制覇したし…」


「ちょっと!そんなこと言わないの!

 アンタは人類最強の男なんでしょ?

 ここまで来たら最後まで頑張んなさいよ!」


「まあ冗談だ

 …というかその呼び方は恥ずかしいからやめてくれ」


「人類最強の男か……羨ましい限りだ

 自分は王国最強の剣士と呼ばれているが、

 ルージュ殿とは是非手合わせしたかったものだ……」


「クロードさんがその場にいても役に立たなかったんじゃないですか?」


「こら、サクラ 失礼だぞ

 ……ところでアッシュの姿が見えないんだが、誰か何か聞いてないか?」


「あ〜、あの子ね…

 みんなが療養中に『オイラも強くなるんだ』って張り切っちゃってね、

 討伐依頼とか積極的に引き受けて頑張ってたのよね

 退院が決まったのは今日だし、きっと今頃まだ戦ってんじゃないかしら」


「そうか……とりあえずみんなには心配させたし、お礼がしたい

 今夜は快気祝いを兼ねて贅沢して、出発は明日にしよう」


ロゼの提案に一同は賛成し、

アッシュが宿に帰ってくるまでに酒場への予約を手配した。


数時間後、アッシュは一同の前に姿を現した。

そして、そこにいたのは彼だけではなかった。

今回の脱落者


ルージュ : 自分より強い男に負けた

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