表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の兄  作者: 木こる
17/24

第十七勇

土の塔。

近くをうろついていた親切なお爺さんの話によると

塔内の敵の種類は魔法タイプより物理タイプが多く、

総じて生命力と防御力が高いのが特徴らしい。


「…じゃから、弱点の火属性の魔法で一気に片付けるとええよ

 ここは魔法使いが活躍する場所じゃな」


しかし最強装備で固めた勇者パーティーの敵ではなかった。

ゴーレムなどの大きくて見た目が強そうな魔物も、

エイルの初手ブーメランだけであっさりと片付いてしまう。

今まで支援に徹していたワイトの棍棒もなかなかの高威力であり、

ほとんど誰も魔法を使用せずに最上階まで辿り着けた。


「ほえ〜、簡単に着いちゃいましたねぇ

 オイラの出番、全然なかったっすね…」


「いや、本番はこれからだ

 ここの四天王がどんな奴か知らないし、

 行動パターンや弱点を観察する必要がある

 お前の耐久力には期待してるぞ、アッシュ」


「兄貴……! はい、頑張ります!」


今までの傾向からして、

ボスは火属性で水弱点と考えるのが正しい。

早速、竜装備の耐性が活きる戦いになるだろう。


しかしそれは推測であり、実際はどうなるかわからない。

自分たちが来る前にも多くの冒険者が挑んでいるはずだが、

誰も情報を持ち帰っていないことから強敵なのは間違いない。

くれぐれも油断は禁物だ。


そして準備完了後、最上階の扉が開かれた。




「…またしても愚かな人間が迷い込んできたか

 まったく懲りない連中だ……

 よかろう、貴様らも土へと帰るがよい」


赤い肌をした魔族の大男が長椅子から立ち上がり、

壁に立て掛けてあった巨大な剣を肩に担いだ。

そしてこちらに流し目を送り、余裕の手招きをしてきた。

彼からは竜と戦った時に感じたような、強者特有の匂いがした。


「……皆さん聞いてください!

 この部屋にはちょっとまずい結界が張られています!」


ワイトが警告する。


「本当だわ…

 これじゃアタシは何もできないじゃない……」


魔法使いのミズキが何もできないということはつまり、


「…魔法を封印するやつか?」


2人は頷いた。


「オレの勘じゃ、あの大男にゃ弓矢は通じねえ

 わかっちまうんだよなぁ 圧倒的強者の匂いって奴がさ」


魔法が封印されている以上、仲間たちの魔導器は真価を発揮できない。

この場合は単純に力と技のぶつかり合いになる。


「ここは兄貴とオイラのパワータッグの出番ですね!

 やっと活躍できそうっす!頑張りますよ〜!」


「……アッシュ、後衛を守っててもらえるか?

 魔法が使えない今、狙われる可能性がある

 まずは俺が単独で戦って様子を探ってみる

 何かあれば合図を送る いいな?」


「了解っす!」




ロゼは一人、赤い男の前に進み出た。


「ほう、随分と楽しそうな玩具を持っているではないか

 だが見掛け倒しの玩具が果たしてこの私に通用するかな?

 ……一人で戦おうという貴様の度胸に免じて教えてやろう

 今この部屋には魔法を封印する結界が張られていてな──」


ロゼは赤い男の首めがけて勢いよく斧を投げつけた。


「…うぉぉおおっ!?」


赤い男はその不意打ちを大剣で防ぎ、体勢を崩して後ずさりした。

そしてすぐさま両手で剣を構え、その表情からは余裕が消えた。


(なんだ今の一撃は……本当に人間の力か?)


ロゼは体ごと回転させて鎖斧を鞭のように操り、再び相手の首を狙った。

赤い男も再び剣で防ぎ、その重みで大きく横に動かされた。


(魔導器は封印されているはず……だとすると、あれは彼自身の力だ)


軌道が変化し、上から斧が降ってくる。

その変幻自在な動きにも即座に対応して剣で防ぐ。

扱いづらそうな武器で正確に脳天を狙ってくる人間に対し、

赤い男は尊敬の念を抱き始めていた。


(この私がただの人間如きに純粋な力で押されるとは……面白い)


部屋には鎖が伸縮する音と、重厚な金属同士の衝突音が絶え間なく響き渡る。

初手こそ油断したが、ロゼの攻撃を防ぎ切っている赤い男も相当な使い手だ。


守ってばかりでは勝てない。今度は赤い男から攻撃を仕掛けた。

ロゼは即座に鎖を手繰り寄せ、手にした斧で大剣を受け流した。


(本人の技量もあるが……武器も一級品のようだ)


赤い男は身の丈ほどある巨大な剣を

まるで木の棒を振るかのような速さで扱い、

対するロゼも巨大な斧を互角の速さで振り回した。


(我が剣をこれだけ受けてもなお耐えるか……素晴らしい)


「おい、貴様…… 先程は玩具呼ばわりして悪かったな

 それは我が剣と同じく、竜の逆鱗で出来ているのだろう?

 しかも、死後すぐに回収された最高品質の素材に違いない」


剣戟の最中、赤い男が武器の素材を見抜いた。


これは竜を倒した強者同士の対決だ。


二人は初めて邂逅する同レベルの好敵手に熱い何かを感じ取り、

一切の手加減なしで殺し合い、武器を交えながらお互いを高め合った。


「我が名はルージュ

 皇帝陛下より、百年に1人の天才剣士と言わしめた元帝国騎士だ

 貴様ほどの武人ならば、我が武勇伝を聞いたことがあるだろう

 かつては私も人間だったが、貴様のような強者と出会うために

 魔王の秘術で魔物の体と融合し、千年の眠りに就いたのだ」


「俺はロゼ

 ただの村人だ

 悪いがあんたのことは知らない

 千年前の情報は出回ってないからな」


「なんだと……!?

 人間だった頃に出版した自伝は

 ベストセラーにもなったんだぞ!?」


「それよりも、『千年の眠りに就いた』と言ったな?

 まるで自分の意志でそうしたみたいな言い方だな?」


「…ああ、貴様の言う通り 私の意志だ

 長い時間だったが、待った甲斐はあったぞ

 貴様には礼を言わねばならんな」


「それよりも、元人間だと……?

 魔物と融合する秘術なんて聞いたことがないぞ」


「長き眠りに耐えるためには

 人間の身ではいられなかったのだ

 私も原理はよく知らんが、魔王がそう言っていた

 ……どうだ、貴様も魔物になってみないか?

 今よりも強くなり、寿命も伸びるぞ

 そして、この私と心ゆくまで打ち合おうではないか!」


「それよりも、魔王も自分で眠ったのか?

 お前と同じで元人間だったりするのか?

 勇者の伝説は……作り話なのか?」


「悪いがそれには答えられんな

 真実が知りたくばこの私を打ち倒し、自らの手で掴み取るがよい

 ……それと『それよりも、』はなんだか腹が立つからやめろ」


「ああ… そうさせてもらう……!」


二人の攻撃がぶつかり合い、火花を散らした。




「……あいつらよく喋りながら戦えるよなぁ

 オレにはああいうガチの殴り合いは無理だわ」


「なんだか兄貴が遠くへ行っちゃった感じがしますよ

 更に強くなってくれて嬉しいやら寂しいやら……」


「吸盤ぺったん!吸盤ぺったん!」


「なんかあのボス強すぎない?

 アタシたちが魔法使えたとしても通用するかどうか……」


「うーん、やっぱり私の力では封印を解除できそうにありません

 かなり複雑な術式で、こんなの見たことがありませんよ」


遠巻きに眺めている仲間たちにはできることがなかった。

二人の武器は槍以上のリーチを持ち、迂闊に近づけば巻き込まれる。

魔法は封印されているし、アッシュは合図をもらえないし、

戦いながら成長する二人の男を見守るしかなかった。




そして見守ること数分、決着の時は訪れた。


角度・スピード・タイミング。

全てが完璧に合わさったカウンターが決まり、ルージュの剣が破壊されたのだ。


「これが千年の差か……」


ルージュは壊れた剣を少し見つめてから地面に置き、

その場に膝を突いて自らの敗北を潔く認めた。


「もしこの私を超える者が現れた時は、

 その者に我が剣を託したかったのだがな……

 まあよい、見事であったぞ ロゼよ

 …かつて私は人類最強の剣士と呼ばれたこともある男だ

 その私と正面から打ち合い、勝利したのだ

 これからは貴様が人類最強を名乗るがよい」


「ルージュ……」


時間にすればたった数分の戦いだったが、

二人の間には友情めいたものが発生していた。

せめて最期は苦しませないようにと思い、

ロゼは跪くルージュの背後に回った。


「これが人類最強の剣士の最期だ

 感謝するぞ、ロゼ……さらばだ

 この私に悔いは無い──」


ロゼは斧を振りかぶり、無防備な首に狙いを定めた。


そしてルージュは封印を解除して魔力の爆発を起こし、

至近距離で直撃したロゼは壁まで吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ