第十六勇
黄金の飛竜。
全体的に茶色っぽいが、そう呼ばれている。
魔王復活後に凶暴化し、北の島国を壊滅状態に追い込んだとされる邪竜だ。
最高ランクの討伐対象であり、報酬も最高クラスに設定されている。
かなりの強敵であることは間違いないが今戦っている魔狼もなかなかに強く、
サポートに徹すれば勝つことも可能だろう。
「そらよっと!」
エイルのブーメランが変則的な軌道を描いて飛竜の背中に当たる。
大したダメージにはならないが、飛竜は振り向いて攻撃のチャンスができた。
「……っ!?
なんだ貴様ら!我の邪魔をするでない!」
そして魔狼はせっかくのチャンスをふいにした。
人間の言葉を話せることに一行は少し驚いたが、今は戦闘中だ。
魔狼の代わりにミズキが落雷の魔法で攻撃したが、手応えはなかった。
すかさずアッシュが挑発で標的になり、ワイトが盾に強化魔法を放った。
「貴様らまさか戦うつもりなのか!?
やめておけ!あれは人の手に余る存在だ!」
飛竜は右手を大きく振り上げ、アッシュに叩きつけた。
巨大イカよりも遥かに強烈な一撃だが、これなら耐え切れると確信した。
「ワイトさん!オイラの強化は解いて平気っす!
それより対ブレス用の結界をお願いします!」
「了解!」
「我を無視するでない!相手はドラゴンだぞ!?
貴様らのために言っておるのだぞ!?」
結界が間に合い、炎ブレスによる全体ダメージを大幅に軽減できた。
続いてミズキが弱化の魔法を放ち、飛竜の防御力を低下させた。
おかげでエイルの攻撃が通るようになり、ロゼも投石で援護した。
「制服のおっさんも見えてきた……!!
このキノコ、効くなあ……!!」
「なんだ貴様!? 頭がおかしいのか!?」
飛竜は氷ブレスを吐いたが、これも結界によりダメージを軽減した。
アッシュは防具の性質で水と氷が弱点になっていたものの、
結界による軽減効果と持ち前の生命力の高さで耐え抜いた。
ワイトは味方全体に回復魔法を放ち、新たな結界を用意した。
「ロゼ!オレは右をやる!お前は左を頼む!」
「わかった!」
ブーメランと投石が両目を襲い、
飛竜は目を押さえながら空中で暴れ出した。
「今がチャンスだ!! 頑張れ人間!!」
「アンタも戦いなさいよ!!」
ミズキに促され、魔狼は自分が先に戦っていたことを思い出した。
魔狼は大きく跳躍し、鋭い爪で飛竜の翼を斬り裂いた。
空中でバランスを取れなくなった飛竜は地上に降り立ち、
けたたましい雄叫びを上げてこちらを威嚇してきた。
そして飛竜の目が黄金色に輝いた。
どうやら本気にさせてしまったようだ。
飛竜は跳躍した。踏み潰し攻撃が来る。
轟音と共に激しい揺れが起こり、地面が大きく凹んだ。
その威力と範囲はアッシュだけでは対応できないと確信できた。
圧倒的な質量と面積による暴力。単純ながら恐ろしい攻撃だ。
「解説しよう!黄金の飛竜はドラゴンの中でも特に──」
ランベルドが踏み潰された。
飛竜は標的を変更し、無差別攻撃を始めたのだ。
繰り返される踏み潰しで火山の地形が変わってゆく。
大地が激しく揺れる中、魔狼は速やかに撤退していた。
「…なあ、オレらも逃げようぜ!!
新鮮な鱗なら10枚拾っといたから、もう充分だろ!!」
「いつのまにそんな……さすがはエイルさんですね
ロゼ君の新しい斧は諦めますが、いいですね?」
「ああ……逃げよう!」
一行は撤退しようとしたが、飛竜が先回りして退路を断ってきた。
「くっ……!
どうすりゃいいですか兄貴ィ!?
あの踏み潰しは範囲が広すぎて
オイラじゃ防ぎ切れませんよ!!」
「……エイル!もう一度目潰しだ!
俺は右!お前は左!準備はいいか!!」
「いつでもいけるぜ!!」
2人の遠距離攻撃が再び両目を塞いだ。
飛竜は目を押さえながら地団駄を踏み出した。
「おっしゃ!! 今のうちに逃げ……って、ロゼ!?
またなんか思いついたんだな!?」
ロゼは飛竜の足が上がった瞬間に真下へ滑り込み、
アッシュから借りた槍を地面に突き立てた。
すぐさまその場から離脱し、あとは祈った。
そして思惑通り飛竜は思い切り足を踏み下ろし、
槍は足裏を突き破り、足の甲から飛び出した。
飛竜は絶叫し、背中から転倒した。
片足を押さえようとしているが、手が短くて届かない。
ロゼは仰向けでもがく飛竜の頭側へ移動し、
渾身の力を込めて石の大槌を振り下ろした。
「うおおおおおお!!!」
1発、2発、3発……。
角を傷つけないよう注意しながら同じ所を何度も叩く。
さすがは最強生物なだけあって、今まで戦った敵の中で一番硬い。
武器は使い慣れたものではないが、確かな手応えを感じている。
仲間たちもこのチャンスを逃さず、全力で総攻撃を仕掛けた。
叩き続けること数十分。
彼らはとうとうやり遂げた。
黄金の飛竜を討伐したのである。
「へっ、へへへ……!!
やったな… やっちまったなあオレたち!!
最強生物を仕留めちまったぜ!!」
「これだけの高級素材があれば
一生ルーレットに賭け続けられますねえ!!
おお、神よ!! 心より感謝致します!!」
「俺はドラゴンだ!! ドラゴンは制服を着ない!!」
「さすがは兄貴っす!!
兄貴こそ世界最強の男っす!!」
「ロゼ!劣化する前に素材を回収しちゃいましょ!
せっかくの頑張りが無駄になっちゃうかんね!」
「そうだな…… ところで、こいつは食えるのか?」
それぞれの思いを胸に、邪竜殺しの英雄たちは町へと戻った。
──3ヶ月後。
魔王軍の侵攻開始まであと5ヶ月。
勇者一行の最終装備が大体整った。
有機素材でありながら魔法金属に匹敵する性能を持つ、
世界最強の生物から作られた最強装備たちである。
ロゼ ……逆鱗の鎖斧 竜牙の籠手 竜革の道着
サクラ ……未解放の聖剣 竜鱗の盾 竜鱗のドレス
エイル ……竜爪のブーメラン 竜骨の弓矢 竜鱗の軽鎧
ヴィオ ……竜爪の短剣 竜鱗の盾 竜鱗のローブ
ワイト ……竜角の棍棒 竜鱗の盾 竜鱗のローブ
アッシュ……竜牙の槍 竜骨の大盾 竜鱗の重鎧
ミズキ ……竜角の杖 竜鱗の盾 竜鱗のドレス
竜装備の良い所はただ防御力が高いというだけでなく、
魔導器と違って魔力のない人間でも属性耐性を得られる点だ。
特に火に強くなるが、他の属性にもそこそこ耐性がある。
魔法金属装備は特定の属性に特化できるものの、
反動で弱点が発生するというデメリットがある。
竜装備にはそのデメリットがない。
「……もう作ってしまった後だけど、
本当に俺の斧に逆鱗を使ってよかったのか?
魔導器としても最高級素材だったんだろ?」
「へっ、なぁに言ってんだよ
うちのパーティーの最大戦力はお前だぜ?
一番強え奴が一番強え武器を持つべきだろうよ」
ロゼは強いと言われて悪い気はしなかったが、
仲間あってこその戦果だったと心に留めた。
「…さて、聖剣以外の装備が揃いましたが
これからどうしましょうかねぇ
土の塔と火の塔はまだ攻略されてないそうですよ
私は土から攻略するべきかと思いますが、
皆さんの意見もお聞かせください」
ワイトの提案に異論はなく、
次の目標は土の塔を攻略することに決まった。
今回の脱落者
ランベルド : ドラゴンに踏み潰されて死亡




