第十五勇
四天王の2体目が倒されたという知らせはすぐに広まった。
ロゼは勝利の手応えを忘れないうちに武器の改造を依頼し、
柄頭の部分に鎖を取り付けた“鎖斧”の練習に勤しんだ。
ロゼはオードの実力を見込み、パーティーに誘ってみたが拒否された。
彼は家に戻る許可が下り、宮廷魔導師からの誘いを受けて冒険者を引退した。
わかってはいたが冒険者に憧れていたという話は嘘だったのだろう。
「へへっ、四天王ってのも案外大したことねえな!
残る土・火……いや、火・水の奴らも一発で頼むぜ〜?」
「さすがは兄貴っす!
兄貴なら魔王も一撃でやっつけてくれると期待してます!」
「いや、あれはマグレだろ……
空間を歪ませる魔法にはすごく集中力が要るらしい
そんな状態で死角から凶器が飛んできたんだ… 避けられないさ
俺だって狙ってやったわけじゃないからな 慢心しない方がいい」
勇者一行は竜の島にある酒場で寛いでいた。
陽気な性格の人々、開放的な民族衣装、情熱的な音楽と舞踊……。
魔王軍の侵攻まであと8ヶ月だが、ここの雰囲気は明るかった。
度数の高い酒や刺激の強い肉料理が惜しみなく振る舞われ、
旅人として歓迎されていることが充分伝わった。
しかし、ここへは観光で来たわけではない。
残る敵が火属性を使ってくることは確実で、こちらの装備は火に弱い。
火耐性が高い素材を調べてみたところ、行き着いたのはドラゴンだった。
世界最強の生物と云われ、この島の火山地帯に巣があるらしい。
その鱗は1枚で一生食うに困らなくなるほどの価値がある高級素材で、
何枚か回収してドラゴン装備を作るのが今回の目的だ。
「やあ、ドラゴンハンティングをしたいというのは君たちだね?
私はドラゴンハンターのランベルドだ よろしくな!
ドラゴンハンティングが何かって?いい質問だ!
ドラゴンハンティングというのはドラゴンの素材を回収する作業で、
決してドラゴンと戦ったりすることではないんだ!
ドラゴンから自然に剥がれ落ちたドラゴンの鱗を拾うのが主な仕事さ!
たまに新鮮なドラゴンの死体から牙や爪、角なんかも回収するぞ!」
「そうですか」
一行はランベルドに案内され、火山地帯へと向かった。
「ドラゴンハンティングの注意点を伝えておこう!
もしドラゴンを見かけても決して近づいてはいけないよ!
なんたってドラゴンは世界最強の生物だからね!
ドラゴンの手にかかれば人間なんてイチコロさ!
ドラゴンは本来おとなしい性格ではあるけれど、
ドラゴンの顎の下にある逆鱗に触ってしまうと怒りで暴れ出すんだ!」
「そうですか」
竜の逆鱗は特に価値があるらしく、
それ1枚で国が買えるとも云われている。
どの素材も死後時間が経つと劣化するようで、
最高品質を目指すのなら竜が生きているうちか、
死後すぐに回収するという難関を乗り越えなくてはならない。
「まあ、そこまで拘る必要はありませんけどね
我々の目的はあくまで装備の強化です
普通の鱗が5、6枚あれば充分でしょう」
竜素材は基本的に回収次第、国に納めることが義務付けられている。
それは王侯貴族の家具や装飾品に生まれ変わり、外面を充実させてくれる。
個人で入手したい場合は今回のように金で動く竜狩りを雇い、
回収スポットを教えてもらい自力で拾うのが暗黙の了解となっている。
火山地帯には『燃えるヤギ』が出現し、一行は少し苦戦した。
その魔物は常に群れで行動し、個々の戦力は大したことはないが
集団で1人を取り囲んで集中攻撃してくる性質が厄介だった。
これがとにかく熱い。
火に弱いモリガニ装備は宿で待機中のサクラに預け、
適当に買った安物の代用品で戦いに挑んだのだが
それはよりにもよってモリガニ素材で出来ていたらしく、
弱点の火属性がよく通って脱落者が出てしまった。
調子に乗って前に出過ぎた彼はヤギの群れに囲まれ、
全方位から発せられる熱攻撃により体内の水分を奪われていった。
「グアアアァァァ!!!」
クロードの悲痛な叫びが響き渡った。
なぜ安物装備にモリガニ素材が使われていたのかは予想がつく。
他ならぬロゼたち自身が乱獲して価格崩壊を招き、
安くて硬い素材として市場に出回ったのだ。
職人や商人のせいではない。強いて言えば運が悪かったのだ。
「へへっ、今度も命拾いしたなおっさん
アンタのタフさにゃ頭が下がるぜ
後はオレらに任せてゆっくり休んでくれよな」
「皆の者、本当にすまない……
不覚にもまた内臓をやられてしまった……
サクラ殿、また剣を教えられなかったな……
これではエスメラルダとの約束を果たせそうにないな──」
「ああ、いいです
それよりもあの剣を兄さんに……ああ、はい
やっぱり貸す気はないんですね わかりました」
一人で回想に浸り始めたクロードを医療施設に残し、
ロゼたちは竜素材の回収に再挑戦した。
安物装備は処分し、ミズキの鑑定でまともな装備を探し回った。
できれば全員の防具を火耐性がある物で固めたかったが、
貴重な魔法金属製の盾と鎧を一品ずつ揃えるので精一杯だった。
「本当にオイラが両方装備しちゃっていいんですかね
兄貴も前衛なんですし、どっちかお貸ししますよ?」
「いや、それも魔導器なんだろ?
魔力のない俺が装備しても効果がない
それに武器が重い分、防具は軽くしておきたいんだ」
ロゼは鎖斧の代わりとして石の大槌を購入した。
今まで斧を使い続けてきたせいか、
重量のある武器でないと落ち着かない。
一行は再び火山地帯を進み、燃えるヤギの群れと遭遇した。
アッシュは3体から同時に魔法攻撃されたが、
新防具とワイトの結界のおかげでほぼ無傷だった。
エイルはブーメラン、ミズキは水撃の魔法、と
2人の遠距離攻撃により道中の敵は楽に処理できた。
ほとんど出番のないロゼは全員の荷物を持つことにした。
ヴィオはキノコの粉末でトリップ中だ。
「さあ、みんな!そろそろドラゴンの巣だ!
ドラゴンは本来おとなしい性格の生物ではあるけれど、
魔王の復活以降は凶暴になったドラゴンもいるから注意しよう!
ドラゴンの巣に突入する前にもう一度言っておこう!
もしドラゴンを見かけても決して近づいてはいけないよ!
そしてドラゴンの逆鱗に触るのは絶対にやめておくんだ!」
「そうですか」
竜の巣。
まず視界に入ったのは排泄物の山だった。
酷い悪臭が漂い、一行は素材を諦めて帰りたくなった。
竜狩りのランベルドにとっては宝の山らしく、後で回収するそうだ。
そして目的の竜の鱗は周辺にたくさん落ちていた。
「へ?こんなあっさりと?
おいおいこりゃあボロ儲けじゃねえか!
とりあえずできるだけ持って帰ろうぜ!」
「いや、それはもう価値のないドラゴンの鱗だね!
ドラゴンの鱗は剥がれ落ちてから時間が経つと劣化してしまうんだ!
新鮮なドラゴンの鱗でないと魔導器の加工には向かないよ!
え?ドラゴンの鱗で斧を作るだって?君は何を言ってるんだ……
…まあそれならドラゴンの牙か爪、角や骨あたりかなぁ
あとは逆鱗……いやいや、それは馬鹿げてるな …ドラゴン!」
「そうですか」
「ドラゴンだ!! みんな隠れて!!」
「えっ?」
少し離れた空に巨大な翼竜の姿があった。
幸いこちらには気づいていないようで、
地上にいる何者かと戦っているようだった。
「おいおい、なんてことだ…… 相手は最強生物のドラゴンだぞ?
一対一でドラゴンとやり合うなんて…… なんなんだあの狼は……」
そこには一匹の狼がいた。
俊敏な動きで翼竜の突進をかわし、反撃の鋭い爪で硬い鱗を斬り裂く。
炎のブレスが直撃しても怯む様子はなく、喉元めがけて噛みついた。
それがただの狼ではないのは明らかだった。
「……もしかして伝説の幻獣“魔狼”じゃないかしら
たぶん凶暴化した竜を懲らしめてるんじゃないの?
まあ戦ってる理由はわかんないけど、強いのは確実ね」
「ほえ〜、あれが魔狼っすか
オイラも聞いたことありま……あっ!」
その狼……魔狼は善戦していたものの、
翼竜が放った氷のブレスに意表を突かれて形勢逆転した。
「皆さんどうしますか?
今ならあの魔狼が戦っている間に
新鮮な鱗を拾えるかもしれませんよ」
「…たしか、冒険者ギルドに討伐依頼出てた奴だぞアレ
魔狼と協力すれば、どうにか倒せそうじゃないか?」
「倒せりゃ鱗以外の貴重な素材が拾えるし、
討伐報酬も貰えて一石二鳥ってわけだな
オレは乗ったぜ お前らはどうすんだ?」
「オイラはもちろん賛成ですよ
素材云々よりも純粋に助けてあげたいっす」
「私も賛成ですね
伝説の幻獣を目にした者には
幸運が降りかかるという話を聞いたことがあります
もっと近くで見てみたいですねぇ
この島のカジノで負けた分を取り返せるかもしれません」
「あれは……ドラゴンか……?
キノコが効いてきたな……」
「アタシも賛成よ
伝説の幻獣と云われるくらいだし、
資料がほとんど存在しないのよね
何か生態研究の手助けになる情報が得られるかもしれないわ」
「それじゃあ決まりだな」
一行は魔狼に加勢して翼竜を倒すことにした。
今回の脱落者
オード : 冒険者なんて底辺職を続ける気はない
クロード : ヤギに内蔵をやられる




