第十四勇
勇者一行は火の塔へ到着した。
報奨金目当ての冒険者で溢れかえっているかと思っていたが
意外にも人影は少なく、攻略目的で来ている風でもなかった。
「おや、あんたらもこの塔を攻略する目的で来た冒険者さんかい?
悪いことは言わん やめておきなされ
この塔に入った者は必ず黒焦げの焼死体となって帰ってくるんじゃ
あんたらの装備を見る限り、火属性への耐性が弱いじゃろ?
せめて火属性耐性装備を整えてから挑むべきじゃ」
親切なお爺さんが警告してくれた。
ロゼたちが頑張って揃えたモリガニ装備一式は火属性に弱いという欠点がある。
この塔は向いていない。
場所を変えることにした。
水の塔。
そこは既に攻略されていた。
どうやら道中のザコ敵は水や氷を操っておきながら、
最上階の四天王は風属性が得意な魔族だったらしい。
たまたま弱点となる土属性の名手がいたことで打破できたようだ。
風の塔。
親切なお爺さんの情報によると、
道中のザコ敵は風や雷の魔法で攻撃してくるようだ。
前例に倣うとボスはそれに対応する弱点である可能性が高い。
現状で攻略できそうな場所はここしかなかった。
推測だがここのボスは土属性で、火に弱い。
土属性の攻撃魔法はバリエーションが少なく、
物理戦闘で対応できる余地がある。
魔力は低いもののミズキは全属性対応で、
弱点の火属性をぶつけることも可能だ。
「…それでは皆さん、参りましょうか!
我々も大金を手にしましょう!
神のご加護があらんことを!」
勇者一行は風の塔攻略を開始した。
事前に得た情報通りザコ敵は風や雷で攻撃してくる。
ただしこちらにはワイトの結界があり、痛手にはならなかった。
敵は素早いが、ロゼとエイルはもっと速い。
ミズキの魔法も早速役に立っている。
魔力に依存しない補助魔法を使いこなして戦闘の難易度を下げてくれた。
この1年、積極的に討伐依頼を引き受けて彼らは更に成長した。
初めは苦戦したモリガニも、今や一人で倒せるまでになっていた。
乱獲しすぎて素材の価格崩壊が起きたほどだ。
ロゼの武器は両手剣を超えるリーチの両刃斧へと進化していた。
エイルとワイトは重くなるのを嫌がってほぼ初期装備のままだが、
逆にアッシュは全身をモリガニ製品に一新して更に耐久性能が増した。
クロードは鎧だけを更新し、これからも思い出の剣を使い続けるようだ。
「あっ、ロゼさん!ミズキさん!
あなた方も来てたんですね!
よければボクらと一緒にこの塔を攻略しませんか?」
10階はどういうわけか魔物の姿が見えず、
広間では複数の冒険者パーティーが休息を取っていた。
話しかけてきたのは魔法学校の卒業生、オードだった。
「あれ、お前… 宮廷魔導師になるって言ってなかったか?
なんだか冒険者みたいな格好してるような……」
「え?いやあ〜、アハハ……
実はボク、昔から冒険者に憧れてたんですよね〜
それに、この力は魔物と戦ってこそだなぁと思いましてね
書類と睨めっこする生活なんてボクには合わないんですよ!」
「アタシが先生から聞いた話だと、
試験に落ちて家を追い出されたってことだけど……」
「ぅぐ!?
そ、そんなわけないじゃないか!!
ボクは先生方から十年に1人の逸材と言わしめた天才だよ!?
現に水の塔ではボクの華麗な魔法でボスを倒した実績があるよ!?」
「へえ、それはすごいじゃないか!
そういえば水晶の色は土属性だったよな
最初からボスの弱点がわかってたのか?
だとしたら本当に天才なんだなお前」
「も、もちろんそうですよ!?
ボクほどの天才ともなればボスの弱点くらいわかっちゃいますからね!
ベテランパーティーの荷物持ちとして参加させてもらいましたが、
最初からボクがエースアタッカーだと見抜かれてましたね ええ、はい」
「偶然だったのね……」
偶然にしろ、魔王軍の幹部を撃破した功績は大きい。
彼の紹介によりベテランパーティーとの共闘が始まった。
「俺らの知り合いの信徒にも神託が下されたようだが、
たしか勇者はサクラという名の少女だと言っていたな……君がそうなのか?」
「いやいや、アタシじゃありません
あの子はまだ戦える状態じゃないんで、
安全な場所で待機してもらってるんです」
「それはなんと……さぞかし激しい戦いがあったのだろうな
俺には何もできないが、せめて勇者殿の快復を祈らせてもらおう」
「はあ、ありがとうございます……?」
ベテランパーティーのリーダーが何か勘違いをしている。
それにしても、サクラの名前が知れ渡っているのは困る。
兄妹は平穏な暮らしを望んでおり、あまり目立ちたくない。
この風の塔には奇妙な魔法が仕掛けられていた。
上り階段の先に扉があり、そこを抜けると扉が2つ、その先は3つ……と、
扉の数がどんどん増えてゆき、正解を外すと最初の地点に戻される。
しかも毎回正解の扉は変更されるようで、記録しても意味がない。
更に、一度に開けられる扉は1つだけなので全部試すことはできない。
「……じゃあ、外から行ってみるか
さっき窓から見上げたら、ちょうどこの真上が最上階っぽいんだよな…
妙な仕掛けに時間をかけるよりも、直接乗り込んだ方が早いと思う」
「はあ!? 何を言い出すんだ君は!
この高さから落ちたら死ぬぞ!?」
「ああ、心配しないでください
こいつの身体能力おかしいんで平気かと」
困惑するベテランをよそに、
ロゼは斧に縄を巻き付けてフックロープ代わりにした。
そして窓から身を乗り出し、真上の窓めがけて斧を投げ込んだ。
すると何かに引っ掛かった手応えがあり、斧はしっかりと固定されたようで
これならいけると確信したロゼはロープを登ろうとした。
「…待つんだロゼ君!! 登らなくていい!!」
ベテランが止めに入った。
心配してくれるのはありがたいが、他に手がない以上は試すしかない。
現にここで休息を取っている複数の冒険者パーティーは、
正解の扉をくぐれずに2ヶ月の足止めを食らっているのだ。
魔王軍が侵攻を開始するまであと10ヶ月。こんな所でモタモタしていられない。
「登る必要がなくなった!! …扉が消えたんだ!!」
「えっ?」
階段を見ると確かに扉が消えており、その先にも階段が続いている。
突然の出来事に他の冒険者たちも困惑し、誰が乗り込むかで迷っていた。
これも何かの罠かもしれない。慎重になるのは当然だ。
どのみち最上階へ行こうとしていたロゼが名乗りを上げ、階段を進んだ。
そこには魔族の死体が転がっていた。
投げ込んだ斧が頭に直撃し、そのまま窓際まで引き摺られて死んでいた。
偶然にもロゼは四天王の1体を一撃で倒したのである。




