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勇者の兄  作者: 木こる
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第十三勇

妖精の国。

そこは清涼な魔力が満ち溢れる妖精たちの楽園であり、

かつて魔王を封印した聖剣を作り出した“妖精王”の一族が統治する王国である。


「帰れ帰れ!ここは人間が来ていい場所じゃねえんだよ!」


「このゴミ種族が!」「羽も生えてねえクセによぉ!」


勇者一行は歓迎されなかった。

魔王を封印した後、何かしらの理由があって彼らとの交流が途絶えたらしい。

その辺りの歴史を調べても魔法学校の書物には記載されていなかった。


「突然押しかけて申し訳ありません

 我々は勇者とその仲間で、魔王を倒すための旅をしております

 どうか国王陛下への謁見を許可していただきたい」


ワイトの申し出に妖精の兵士たちが顔をしかめる。


「魔王を倒すだぁ〜?んなことできるわけねえだろうが!」


「この嘘つき種族が!」「尻尾も生えてねえクセによぉ!」


「しかし、神がそう仰っていたのです

 そしてこちらの少女が神に選ばれし者です」


兵士はサクラを一瞥し、鼻で笑った。


「馬鹿にしてんのか?魔力も無い奴が魔王を倒せるわけねえだろ!」


「この無能種族が!」「角も生えてねえクセによぉ!」


理由は不明だが、彼らは人間が嫌いというより憎んでいる様子だった。

このまま会話を続けても埒が明かない。


「ようアッシュ、お前が交渉してみろよ

 獣人は妖精の一種なんだろ?

 人間の俺たちよりは友好的に接してくれるかもな」


「え、オイラっすか?

 う〜ん、大丈夫かなぁ」


エイルの提案に乗り、アッシュが交渉役を代わった。

しかし既に人間の仲間として認識されていたので、

兵士たちの対応は変わらなかった。




門前払いされた一行は交渉を断念し、国境の川辺で野営した。

釣った魚と収穫したベリー類だけの簡素な食事だが、

味も量も不満に感じる者はいなかった。


「ミズキ、妖精が人間を憎む原因に心当たりはないか?

 図書室の資料には詳しい情報がなかったんだ」


「ごめん、アタシも資料以上の事は知らないの

 ただ、人間にとって都合の悪い歴史を隠してる感じはするわね

 勇者と魔王の伝説は千年以上前から伝わってるのに、

 それ以前の歴史を語ってる書物を見たことないのよね」


勇者。

この旅の原因となった存在だ。

妹がそれでなければロゼが旅立つ理由はなかった。


「ヒハハハハ!イヤァ〜アッハハハ!!イヒヒッヒヒヒ!!」


勇者に関する文献にも目を通したが、その情報も少なすぎた。

資料によれば聖剣で魔王を封印した少女ということ以外は不明で、

大多数の人間が名前すら知らない人物を信じていることになる。

魔王もまた然り、その存在だけが知られている。


「まあ考えても仕方がありませんよ

 ここはひとつ、聖剣は一旦諦めて四天王討伐に向かいませんか?

 先日の神託騒ぎは思った以上に影響があったようで、

 四天王を倒した者には莫大な報奨金が支払われるそうですよ

 どのみち彼らを倒さなければ魔王には辿り着けませんし、

 我々にできることは他にありませんしね」


「自分もその意見に賛成しよう

 今の自分には戦いが必要だ……

 長い療養生活で鈍った勘を早く取り戻したい」


とりあえず今後の方針は四天王の撃破に決まった。




一方その頃。


四天王の一人がいるとされる“火の塔”には

大勢の冒険者が押し寄せていた。

彼らの目的は世界平和などという大それたものではなく、

討伐成功時の莫大な報奨金という現実的なものであった。


その冒険者たちと同じ志を持つ3人の姿があった。


元山賊の首領ジャスパー。

防御に定評のあるレド。

胸元のホクロがセクシーなマリナ。


かつてロゼたちが遭遇した山賊団の生き残りである。

彼らは大陸から脱出し、流れの冒険者として活動していた。

実力は充分であり、大金を得るチャンスを逃す手はなかった。


「どきやがれザコどもが!!

 ここは俺様が攻略する予定なんだよ!!

 オメェらみてえなザコ冒険者どもに用はねえんだよ!!」


目立つ犯罪はしていないが、粗暴な性格はそのままだった。


「…おい、あいつジャスパーじゃないか?

 最近冒険者としてデビューしたばかりだってのに

 高難易度の依頼をこなしてる、あのジャスパーじゃないか!?」


「うおっ、マジかよ!

 たしかお供の2人も強いんだよなあ!

 あのパーティーなら四天王なんて楽勝だな!」


そして冒険者の間では評判が良かった。

強さこそ正義。そういう業界だった。


ジャスパーたちは他の冒険者たちに見送られ、火の塔攻略を開始した。


塔の内部は熱気に満ち、少し動いただけで汗が滲み出る。

水魔法を使えるマリナはこまめに新しい水を用意するよう命じられた。

大体は飲む用で、たまに汗を流すために使われた。

少しでも放置するとぬるくなるので、溜めておくのは得策ではなかった。


「お?なんだありゃ……

 死んだザコ冒険者の装備か?」


道中で見つけたのは炎をモチーフにしたデザインの盾だった。

とりあえず持ち帰って売り払おうと思っていたが、

戦士のレドが拾ってみたところ異変が起きた。


「あ、これ……すげえ!!

 持ってるだけで涼しくなった!

 なんか便利な魔法がかかってるやつだ!」


「おい、俺様によこせ

 …うおっ、マジじゃねえか!!

 おいマリナ!こいつを鑑定しろ!」


「……これは希少な魔法金属で作られた装備のようね

 水属性には弱くなるけど、火属性には強くなる…

 この塔を攻略するにはすごく有用な装備だと思うわ」


その“火の盾”を入手以降、“火の鎧”や“火の帽子”などの装備を拾い、

道中を阻む火属性の魔物からの攻撃を完全にシャットアウトできた。

熱を遮断する効果で快適な温度を保ち、順調に攻略が進んだ。

そして最上階へ辿り着く頃には全員が火属性装備で統一されていた。


「がはははは!! 楽勝だったなあ!?

 こりゃあ死んだザコ冒険者どもに感謝しなくちゃなあ!!

 このまま火の四天王もぶちのめして大金持ちだあ!!」


ジャスパーたちは人生の勝利を確信した。

今まで人様から褒められるような生き方はしてこなかったが、

これからは大量に奴隷を雇って毎日褒めさせる生き方をしよう。

そんなことを考えながら、火の四天王が待ち受けるであろう扉を開いた。




部屋の奥には青い肌をした女型の魔族が鎮座していた。

彼女は足を組みながら楽しそうな表情を浮かべ、

ジャスパーたちの姿を見て一言呟いた。


「ハイ、ざんね〜ん」


彼女は座ったままの体勢で右手だけを動かし、

氷嵐の魔法を放ってパーティーを全滅させた。

今回の脱落者


ジャスパー : 凍死

レド    : 凍死

マリナ   : 凍死

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