第十二勇
魔法学校の教師ジェド。
若くて熱意溢れる人気の先生だ。
彼は教頭の策略や魔法封印の罠を見抜けず、
生徒を危険な目に遭わせたことを恥じていた。
火水風土、と一通りの属性攻撃を操れるだけでなく
探知や解析などの補助魔法まで使いこなせるらしい。
ロゼはまだ魔法の種類などの知識に疎いが、
ジェドが優秀な人材であることは伝わった。
ワイトは乗り気だったが、ロゼとエイルは躊躇した。
この男、どことなくリンドと似ているのだ。
モリガニとの戦いで油断して見せ場なく死んだリンド。
彼の職業は教授だった。性格は真面目。武器は槍。
一人称は『僕』。その全てが被っていた。
そして何よりも、顔が瓜二つだった。
どうしても首を刎ねられた光景を思い出してしまう。
それにジェドは生徒から慕われている先生であり、
勢いで天職を辞めるのはもったいない。
仲間になれば活躍してくれるだろうが、
ここは彼の今後を考えて教師を続けるよう説得した。
「──アンタが来いって言うのなら
一緒に行ってあげてもいいけど……
とにかく、責任は取ってもらうかんね!」
続いてミズキが訪ねてきた。
まだ薬物の効果が残っているのか、言動が怪しい。
馬車の中で動物の鳴き真似や過激な発言を連発したりと
それはもう目も当てられない醜態を晒したが、
薬物の摂取が招いた異常行動だったと理解している。
彼女はオードと違って同級生から慕われており、
専門のカウンセラーもサポートしてくれるそうで
卒業するまで魔法学校を離れるべきではないだろう。
ロゼはその旨を言い聞かせ、ミズキは引き下がった。
翌日、この地域の冒険者ギルドに立ち寄って
条件に合う人材がいないか探し回った。
しかし魔法を使える人材は特に需要が高いらしく、
余っているのはそのほとんどがロゼと同じ無能力者か、
魔導器は使えても魔法知識がない者たちだけだった。
勇者の初期パーティーは性格に問題はあったものの、
やはりそれなりに優秀な人材が揃っていたのだと痛感した。
人探しは空振りに終わったが、割りのいい仕事は見つかった。
モリガニの討伐だ。報酬は薬草採取の時よりもかなり安いが、
この金額設定は火属性を扱える魔法使い向けのものだろう。
焼かずに持ち帰れば素材が高く売れることを知っている。
ロゼはこの素材で仲間の装備も強化したいと考えた。
少し重くなるが威力は段違いだと実感しているし、
識者に確認したところ魔導器としての性能も高いとのことだ。
討伐依頼を引き受けた一行は早速森へと出向き、獲物を探した。
あの時は死人が出たが、今は装備を新調しており経験がある。
そして、薬草採取をしながら進んでいると念願のモリガニと出くわした。
しかも2匹で都合が良い。敵が気づくより先にこちらから仕掛けた。
まずはアッシュの挑発で引きつけ、敵の行動を制御する。
ワイトが張っておいた結界のおかげで2体同時でも受け切れる。
エイルがブーメランで撹乱し、ロゼが確実に仕留める。
鮮やかな連携プレーにより僅か数十秒で戦闘は終了した。
その様子をヴィオが記録して今日は切り上げることにした。
彼らは旅を始めてからの数日で急成長していた。
勇者の兄として、仲間として、友として……きっかけは違えど志は同じだ。
敵との戦闘や仲間との別れが彼らの絆を深め、お互いを高め合った。
肝心の勇者サクラは戦い方を知らないままだが、薬草は役に立っている。
聖剣の真の力とやらが解放してからが本番なのだろう。
──勇者たちが旅立ってから約1年の時が流れ、
まだ肌寒い日があるものの、季節は春になった。
魔法学校の式典を見届けたロゼの元に首席卒業者のミズキが駆け寄った。
「ロゼ!もしかしてずっとアタシを見てた…?
え?そんなに褒めないでよ恥ずかしいなも〜!
結局魔力は人並み以下のままだし、
あんまり期待されても困るかんね〜?」
彼女は宮廷魔導師という安泰な就職先からの誘いを断ってまで
勇者の旅に同行することを志願した。
周囲の大人からは猛反対されたそうだが、その決意は揺るがなかった。
そしてもう1人、旅の同行者が増えた。
正確には復帰したと言った方がいいだろう。
「皆の者、迷惑を掛けたな……
自分は再び勇者の剣となり、最後まで戦い抜くと誓おう!」
騎士クロードだ。
脅威の回復力により内臓の損傷が完治して動けるようになったのだ。
寝たきりだったので少しやつれているが、リハビリ次第でどうにかなるらしい。
こうして新たな仲間が加わり、旅の再開に向けて準備が行われた。
しかしこのタイミングで新たな問題も発生した。
魔王軍が本格的に動き出したという知らせが広まったのだ。
それは神官などの聖職者だけが受信できる情報らしく、
ワイトはそのストレスを言い訳にギャンブルに手を出して
再び旅の資金を使い果たしてしまった。
前回の反省から、彼に全額預けずにいて正解だった。
「はあ…、ようやくお告げが鳴り止みました
本当に迷惑な話ですよ 神託ってやつは……
この一週間、同じお告げの繰り返しで気が狂いそうになりましたよ
本来は専門の才能を持った術者だけが受信できるものなんですがねぇ」
神託。
サクラを勇者と認定したのもその現象だった。
ロゼは魔法学校に滞在中、図書室で色々と学ばせてもらった。
多くの学術書の見解ではこの世界を作り出した上位存在がいると信じられている。
それは神と呼ばれ、自らは手を下さずに人間自身で問題解決するように見守り、
人の力が及ばない出来事に対してのみ奇跡を起こすのだそうだ。
神託も奇跡のひとつであり、魔王が人類にとっての脅威だと再認識させられた。
「それで、神はなんて言ってたんだ?」
ロゼの問いに対し、ワイトは情報整理された手記を渡した。
要約すると、魔王が封印されていた大陸は既に魔王軍の領地となったようだ。
近隣の4つの島々に四天王と呼ばれる幹部クラスの魔族を置き、
彼らを倒して結界を壊さないと魔王城には入れないそうだ。
そして、魔王軍が侵攻するまで1年間の猶予が与えられるらしい。
この間に討伐者を差し向けるも、防衛を強化するも人類の自由とのことだ。
「へっ、完全に余裕ってわけかい
勇者に敗れて千年も眠ってたのを忘れてんのかねぇ」
「姐さんならきっとできますよ!
魔王なんてパパッとやっつけちゃいましょう!」
「わたしの何を見てそんなことが言えるんだろう……」
「サクラ殿、今度こそ剣の稽古をつけてやろう
少しでも戦えるようになれば自信もつくはずだ」
「いえ、結構です」
「えぇ……」
相変わらずサクラに勇者の自覚はないし、大半の仲間もそう思っていない。
ただワイト以外の聖職者も神託被害を受けていたのは事実であり、
サクラ勇者説が正しい可能性は高い。
とりあえず1年以内の魔王討伐に向けて勇者サクラの冒険は再開された。
今回の脱落者
ジェド : 死んだ男と似てたから




