第二勇
ワイトが路銀を使い果たした。
勇者パーティーに加われた幸運が持続中だと思い、
ルーレットに全額注ぎ込んでしまったようだ。
「皆さん、ご安心ください!
心象が悪いので賭博の件は伏せますが、
国王陛下に事情を話せば追加の軍資金を頂けるはずです!」
「仲間の金に手つけた上に王様を騙そうってか?
まったく聖職者が聞いて呆れるぜ…」
エイルの言葉に一同が頷く。
ただ、ワイトを責めたところで金は戻ってこない。
彼には一度王都へ戻り資金調達をしてもらい、
残りはこの港町で待機することになった。
食糧は近くの森で賄えそうだが、船に乗る金は絶対に必要だ。
目的地の妖精の国は西の海を渡った先にある。
「この男がまた賭博に手を出さないか、自分が監視しよう」
クロードが同行を名乗り出て、ワイトは少し嫌そうな顔をした。
やはり同じ過ちを繰り返そうとしていたのだろう。
「あ、クロードさんたちがいない間、
僕たちも何か簡単な仕事をしてみませんか?
冒険者ギルドで探せば手頃な任務があるはずです」
リンドの提案により待機班は冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルド。
そこは酒場と一体になっており、仕事を探す冒険者以外にも
ただ食事を取りに来た客も混ざり、活気に満ちた空間だった。
気がつけば匂いに釣られたエイルが既に酒を注文していた。
彼はワイトに全額預けてはいなかったようだ。
「手頃な任務って言われても……
あ、兄さんこれなんてどうかな?
簡単そうなのに報酬がかなり多いよ」
サクラが見つけた張り紙には薬草採取の依頼と記されていた。
それはサクラの得意分野であり、両親の死後に今日まで生きてこれたのは
薬草採取と調合の技術があったからだ。
ロゼは妹の腕前を疑ってはいないが、この仕事に嫌な予感がした。
「俺たちにとってはありがたい話だけど、
やけに報酬が高いのが気になるな…
リンド、このへんに危険な生物でもいるのか?」
「あ、森に毒蛇が出ると聞いたことがありますね
それも普通の蛇の何十倍も大きいサイズなんだとか…
でも最後に目撃されてから3年ほど経っているので、
あまり心配する必要はないと思いますよ」
「俺は画家のヴィオだ」
「へへっ、でっかい毒蛇ねぇ
そんなにでけえなら毒液の量も相当だろうな
運良く出会えたら、薬草ついでに毒も頂いて闇市で売り捌こうぜ」
「エイルさん!だっ、ダメですよそんなことしちゃあ!
も、もし毒を手に入れたとしても研究のために医学者に提供するべきです!」
「そいつらから闇市に流れてんだけどな……
まあいいや、とりあえずやる事は薬草集めで決まりだな?」
採取依頼を引き受けた一行は森へと向かった。
毒蛇が出ると聞いて身構えていたが、そこは清涼な空気に満たされており
時折聞こえてくる小鳥のさえずりやリスの鳴き声が平和を感じさせた。
風に揺られて踊る木漏れ日の中、サクラたちは薬草を探していた。
「普通なら森の入り口にいっぱい生えてるはずなんだけど、
他の採取者が根こそぎ持って行ったみたい……
これは奥の方に行かないと1本も手に入らないわ」
「奥か… リンド、蛇以外に危険な生物はいるのか?」
「蛇以外だと…… あ、熊がいますね
といっても熊という動物は基本的に
刺激を与えなければ襲ってこないので大丈夫です
もし襲われても僕の防御魔法で皆さんの安全は保証しますよ」
「…なあ、サクラちゃん
ヴィオの奴が変なキノコ食ってるけど、あれって平気なやつか?」
「さあ、いいんじゃないですか?」
薬草を求めて一行は森の奥へと進んだ。
サクラの読み通り、そこには手つかずの薬草が群生していた。
そして、蛇でも熊でもない何かに遭遇した。
「え、あれって…… 蟹か?」
人の大きさを優に超える巨大な甲殻類。
ハサミ、甲羅、突き出た目、10本の脚。
それはどう見ても蟹だった。
「あ、あれはモリガニと言いまして、この森で一番強い魔物ですね
あのハサミは首を刎ねるほどの威力がありまして、
防御が間に合わないと死んでしまうかもしれません
甲羅は硬いし動きも速いので接近戦はおすすめしませんね
かなりの強敵ですので油断は禁物ですよ」
「危険な相手だよな… どうしてさっき言わなかったんだ?」
「あ、さっき聞かれたのは『危険な生物』でしたので…
『魔物』は魔力から生まれ、魔力を動力源としていまして──」
講義を始めたリンドの首が宙を舞った。
モリガニの先制攻撃だった。
一瞬の出来事で呆気に取られている一同に次のハサミ攻撃が襲い掛かる。
エイルは大きく背中を反らしてそのまま後転し、回避に成功した。
「──みんな逃げろおおお!!!」
エイルの叫びでロゼとサクラは駆け出した。
しかしモリガニも即座に反応し、横歩きなんかせずに真っ直ぐ突進してきた。
サクラが狙われている。そう判断したロゼは敵の正面に割り込んだ。
ロゼは高速で突き出されたハサミを斧で受け止め、そのまま吹き飛ばされた。
「兄さん!!」
「…サクラ!! 俺に構うな!! 走り続けろ!!」
突進の邪魔をされたモリガニは標的をロゼに移した。
容赦のないハサミの連続突きが繰り出され、地面が穴だらけになっていく。
ロゼは攻撃の合間を縫って接近し、敵の背後に回った。
ここなら可動域の関係でハサミの攻撃は来ない。
モリガニは背中を向いたまま後ろに突進し、
無防備なロゼに硬い甲羅が直撃した。
裏拳の要領で振り向きざまにハサミを横薙ぎさせるが、
そこに標的の姿はなかった。
踏ん張りの効かない体勢で攻撃を受けたおかげで
ロゼは思った以上に吹き飛ばされ、射程圏外へ脱出できた。
睨み合うロゼとモリガニの死角から攻撃が飛んできた。
それはモリガニの側面に直撃し、脚を1本叩き落とす快挙を成し遂げた。
その武器は敵にぶつかって勢いを失ったが、
局所的な突風が発生して主の手元へと戻っていった。
「こっちだ蟹野郎!! 人間様を舐めんじゃねえ!!
ロゼ、よくやったぜ!後はオレに任せて逃げろ!!
…それとヴィオ!! 絵ぇ描いてる場合じゃねえだろ!!」
木の上でブーメランを手にしたエイルが叫ぶ。
今見た通り、風の魔法との相性はかなりいいようだ。
モリガニは標的をエイルに定め、彼のいる木へ突進した。
そのまま木に体当たりするのかと思いきや、
大きく跳躍して空中から獲物に狙いをつけた。
「こいつ…… 何でもありかよ…!?」
今回の脱落者
リンド : 首を刎ねられて死亡




