第一勇
ロゼの妹サクラは神託により勇者と認定された。
王都からの使者はそう告げるが、兄妹にはどうもしっくりと来なかった。
サクラは優しい性格であり、畑を荒らす猪を罠から逃がしたことがあるほどだ。
千年の封印から目覚めた魔王を倒せとか、そんな壮大な話をされても困る。
彼らは薪や薬草を採取し、畑を耕して暮らす典型的な村人だった。
本人よりも先に村長には話が通っていたらしく、
村民総出で勇者サクラの旅立ちを祝福する宴が開かれた。
嫌がるサクラ、止めようとするロゼの意見などお構いなしに宴は続き、
第三者たちは朝まで飲み交わし、勝手に酔い潰れていた。
そのまま二人で逃げようとも考えたが村は兵士に囲まれており、
サクラは王都へ連行され、ロゼは保護者として付き添う形になった。
王都へ来るのは初めてだった。
色とりどりの背が高い建造物、見たこともない料理を扱う露店、
お洒落な服装の人々、全ての光景が新鮮なものとして兄妹の目に映った。
謁見の間には大勢の騎士が整列し、剣を掲げてアーチを作っていた。
この強そうな人たちで魔王とやらを倒しに行けばいいのではなかろうか。
困惑する兄妹をよそに、国王は使者から聞いたのと同じ内容の長話をした。
復活した魔王は人類に復讐するため魔族を生み出し、軍を編成しているらしい。
王国の騎士団を魔王討伐に差し向ければ国内の守りが手薄になり、
隣国から攻撃を受けるのでそれはできないとのことだ。
人類共通の敵がいるのになぜ協力し合わないのか、兄妹には理解できなかった。
国王から解放された後、兄妹は大臣の案内で応接間に移動した。
そこにいた6人の男たちは勇者の補佐役として同行するようだ。
「なんでこのおれがこんな田舎者の面倒見なきゃいけないんだよ…
あんまりキョロキョロすんなよなー 同類だと思われたくないからな」
1人目は貴族のシオン。
名家の末弟で、当主からの命令で仕方なく参加するらしい。
本人の意志ではないのでやる気を感じられず、口が悪いので関わりたくない。
豪華な装飾が施されたレイピアを腰に下げているが、あまり期待はできない。
「へへへ、勇者様の護衛を任されるなんざオレ様も出世したもんだねぇ
まあ大船に乗ったつもりで安心してくれや」
2人目は衛兵のエイル。
仕事中に酒を飲んだり女遊びしたりする、兵団の問題児だ。
現時点でだいぶ酒の匂いが漂い、足取りが怪しい。
ブーメランの名手で風の魔法を操れるらしい。
「さっ、サクラさん!よよよろしくお願いします……!
皆さんの足を引っ張らないように、が、頑張ります!」
3人目は教授のリンド。
真面目そうな青年で、対人関係は苦手なようだ。
特に女性慣れしていないようで、サクラを見る目が気持ち悪い。
槍の心得があり、魔力の盾で味方を守れるらしい。
「俺は天使だ!天使は服を着ない!!
くっ……!なんだ貴様ら邪魔をするな!!
貴様らは誰なんだ!?俺は誰なんだ!?」
4人目は画家のヴィオ。
幻覚作用のある葉っぱを常用しており、円滑な交流は不可能だろう。
彼の描く絵はまるで本物がそこにあるかのような鮮明さだった。
記録係だが一応短剣を持っており、水の魔法を扱えるようだ。
「この私が伝説の勇者様と御一緒できるとは……
おお、神よ!感謝致します!」
5人目は神官のワイト。
教会への寄付金を賭博で溶かした前科があるらしい。
少々不安だが彼がこのパーティーのリーダーを務める。
棍棒は護身用で、回復魔法や結界などの後方支援が得意なようだ。
「サクラ殿は聖剣を託されたが、剣を触るのはこれが初めてだそうだな
道中の空き時間で自分が稽古をつけてやろう」
最後は騎士のクロード。
王国最強の両手剣使いで、2メートルを超える巨躯の持ち主だ。
王妃との火遊びが国王に見つかり、処刑されかけた過去がある。
ただでさえ強いのに自己強化魔法で更に強くなれるそうだ。
「兄さんどうしよう、まともなのが一人もいない……」
サクラが当然の感想を呟いた。
伝説の勇者のお供がこんな連中でいいのだろうか。
世界の命運が懸かっているという話ではなかったのか。
戦いでは頼りになるのかもしれないが、全員どこかしら性格が引っかかる。
「大丈夫だサクラ、俺に任せろ」
ロゼが斧を肩に担ぐと、サクラは少し笑顔を取り戻した。
両親が魔物に殺された日、村が盗賊に襲われた日、嵐の夜……。
いつだって全力で守ってくれた兄の背中だ。
「ハハハハハ!なんか言ってるぜこの田舎者がよぉ!!
魔導器も持ってねークセに『俺に任せろ』だってよ!!」
ロゼの発言をシオンが茶化す。
「魔導器ってなんだ?」
「なんだおまえ魔導器も知らねーのかよ!
さっすが田舎者だな!なんも知らねーのな!」
シオンは下品に笑うばかりで教えてくれそうにない。
とりあえず物知りそうなリンドに目を向けた。
「あ、ま、魔導器というのはですね…
僕たちが持ってる武器のことだと思ってください
使用者の魔力と連動して威力が倍増するんですよ
ロゼ君のその… 斧はですね、それはただの農具で、
言いにくいんですが、武器とは呼べません」
「そうなのか……」
ロゼにとっては一番使い慣れた刃物だが、
魔物との戦いには向かないようだ。
「しかもおまえらからは魔力感じねーし、
魔法使えねーの確定だな!この無能兄妹が!」
その発言には怒りを覚えた。
ロゼは自分が何か言われるのは我慢できるが、
家族の悪口を言う奴は許せなかった。
ロゼはシオンのみぞおちに遠慮なく拳を叩き込んだ。
それは村の男たちにとっては喧嘩開始の合図に過ぎなかった。
シオンは呼吸ができなくなり、酸素の供給を絶たれてその場に倒れ込んだ。
地面に這いつくばり、泣きながらヒーヒー言っている姿がなんとも情けない。
どうやら油断させるための演技ではなく、本当に苦しいようだ。
嫌な奴とはいえ仲間を傷つけた事を咎められるのではと心配したが、
「へっ、やるじゃねえかロゼ!いいパンチだったぜ!
甘ったれのお坊ちゃんには灸を据えてやらねえとな!」
エイルからは気に入られ、他の仲間も責めはしなかった。
そして、シオンとの一件が何事もなかったかのようにワイトが躍り出た。
「さて、それじゃあ全員の自己紹介が終わった所で
出発すると致しましょうか!
まずは聖剣に秘められた真の力を解放するために
妖精の国を目指しましょう!
聖剣は勇者のみが扱えて、魔王を倒せる唯一の武器です!
そして、その作り手はかつての妖精王だと伝えられています!」
目的地は妖精の国とやらに決まったようだ。
まだ色々と疑問はあるが物語は動き始めた。
こうして勇者サクラの冒険が始まった。
今回の脱落者
シオン : 腹痛により離脱




