第十勇
「な、なんだ……!?」
一瞬で3人の仲間を失った山賊がうろたえる。
矢が飛んできた方向に目を向けた時にはもう遅い。
また3人の山賊が命を落とした。
彼らは下の斧使いはひとまず置いといて、
目の前の脅威を排除することに切り替えた。
ロゼはその機会を逃さなかった。
袋から水晶の破片を取り出し、下から見えている敵に向かって投げた。
破片が首を斬り裂き、動脈から大量の血を噴き出して1人が絶命した。
山賊たちは混乱した。
今まで防戦に徹していた斧使いがとうとう反撃してきた。
こちらの矢は一本も当たらなかったのに、たった一度、
しかも武器とは呼べない物で的確に急所を狙われた。
人数では圧倒的に勝っているはずなのに挟み撃ちの状態になってしまった。
そしてもう1人、また1人と水晶の破片で狩られ、
逃げ出そうとした者の頭には矢が刺さった。
上下の連携により20人以上いた山賊はその数を一気に減らし、
恐怖で立ち尽くしていた男が最後に残った。
「……こ、降参だ!! 見逃してくれ!!
もう悪いことはしないから、どうか命だけは──」
最後まで言い切る前に無慈悲な矢が脳天を貫いた。
これで高所の敵は全て片付いた。
「おーい、ロゼ! オレだ!エイルだ!
ちょっと顔見せるから妙なモン投げないでくれー!」
破片を構えた手が止まる。
その声も、おそるおそる出された顔もエイルで間違いなかった。
エイルと合流したロゼは後続の状況を把握した。
馬車の中にいた者たちと協力して岩をどかし、
戦う意志のあるメンバーを連れて最後尾を目指した。
「…って、護衛の連中ついてこねえのかよ!?
あいつら全然使えねえな!?
金もらってんだろ!?仕事しろ!!」
「まあ、魔法が使えない状況なので仕方がないですよ
それにまだ敵が潜んでいる可能性もあります
誰かしら残しておいた方が保険になるかと」
護衛たちの実力は不明だが、エイルがいるだけでも充分心強い。
たった1人で高所の敵を全滅させてきたのだから、その強さは本物だ。
むしろ戦う気のない人間を連れて行っても邪魔になるだけだと思った。
2番馬車の生徒たちに安全を知らせ、先頭と合流するように指示した。
彼らは最初、何を言われているのか理解できなかった。
この馬車の者たちは戦いが起こっていることを知らなかった。
中央馬車に到着し、先程と同じく合流を促した。
サクラとヴィオは無事だがミズキの姿が見当たらない。
聞けば罠探しのために1人で上へ向かったらしい。
ここの山賊を全滅させたとはいえ、まだ安全とは言い切れない。
「…ったく、お前への手紙だったんだがなぁ
やっぱ期待するんじゃなかったなこりゃ
余計なことして裏目に出ちまったぜ」
「蟹が字を読めると思うか?」
いつも通り意味不明なヴィオを尻目に、3人は高所へと移動した。
幸いなことにミズキはすぐ見つかり、辺りに敵影はなかった。
「アタシは可愛いウサギちゃん!
ぴょ〜ん!ぴょんぴょ〜〜ん!!」
ただし頭がおかしくなっていた。
幻覚作用のある空気を吸ってしまったのだろう。
この醜態を同級生に見られたらきっと嘲笑の対象になるはずだ。
彼女の名誉のため、正気に戻るまではそのへんの木に縛りつけることにした。
ワイトは罠探しと解除を担当し、
残りの2人は上下に分かれて最後尾の戦場まで急いだ。
「……おい!! 降参だ!!
俺はあんたらと戦う気はない!!
ここまで生き延びた俺の防御技術を見ただろ!?
それをアピールしたかっただけなんだ!!」
そこではまた1人、裏切り者が発生した。
中盾で矢の雨を凌いでいた腕利きの冒険者だ。
山賊の小男はもう採用しないと言っていたが、
奥から眺めていた首領が彼を気に入って受け入れた。
「恥を知れ!」
「許せない……!」
馬車の中から罵声が飛ぶが、裏切り者の耳には届かなかった。
これで馬車の外に残った味方はアッシュ一人だけとなった。
馬車を背に大盾の陰に隠れて身動きが取れないアッシュ。
敵が正面だけならまだしも、上にもいるので下手に突っ込めない。
山賊たちは粗野な外見とは裏腹に秩序立った動きで統率されており、
完全防御状態のアッシュに対して無駄撃ちはしなかった。
かと言って接近戦に持ち込むこともなく、距離を保ったまま待機した。
お互いその場から動かずに睨み合うこと数分、一人の男が均衡を打ち破った。
「……あの〜、すいません!
ちょっとその弓下ろしてくれませんかね!」
アッシュが声の主に目を向けると、
そこには魔法学校の制服を着たロゼが立っていた。
彼は手ぶらであり、両手を上げながら堂々と近づいてきた。
それは制服のおっさんから着想を得た作戦だった。
アッシュは喜びの表情を見せて声に出しそうになったが、
ロゼが目で黙るように合図をしてきたのでそれに従った。
「キヒヒヒ、どうしたのかなお坊ちゃん
おじさんたちは今、取り込み中なんですけどねぇ
……おいテメェら武器下げろ!!
大事な人質だ!! 死なれちゃ商売にならねぇ!!」
小男の命令に従い、弓隊が一斉に構えを解いた。
アッシュは攻撃のチャンスだと意気込んだが、
ロゼからはまだ待つように合図が送られた。
「おい盾隊、道開けろ!! 通れねえだろうが!!
テメェらはいちいち命令しねえと動けねえのか!!」
どうもそうらしく、横並びだった盾隊は二手に分かれて縦並びに整列した。
高所にいた連中よりも本隊は規則的だとエイルから聞いていたが、
ここまで都合の良い敵だとは思っていなかった。
小男が下品な笑みを浮かべながらヒョコヒョコとロゼに歩み寄る。
彼はロゼを中心にゆっくりと回りながら品定めをし、疑問を口にした。
「……お坊ちゃん、本当に魔法学校の生徒さんなのかなぁ?
なんだかやけに制服がパツパツじゃあないですか
ネクタイも結べてないし、全然怖がってないし……」
怪しむ小男をよそに、ロゼは上を見上げた。
エイルは配置について準備完了のようだ。
そしてアッシュに目配せして自分に合わせるように指示した。
ロゼはおもむろに小男の首根っこを掴んで持ち上げ、
「えっ」
そのまま崖側の空中へ放り投げた。
「ひぃあああああぁぁぁ……!!!」
戦闘開始だ。
ロゼに続きエイルも動き出し、弓兵を3体同時に仕留めた。
この高所にいる弓兵を倒しきればもう上からの攻撃を気にしなくていい。
奇襲を受けた敵は攻撃目標をアッシュからエイルに変えた。
アッシュは牙を剥き出しにして渾身の体当たりを仕掛け、
崖側に並んだ5人の盾兵を突き飛ばすことに成功した。
そしてそのままの勢いを維持して弓隊に接近して槍を振り回した。
残った盾兵の1人が暴れる獣人を取り押さえようと近づいたが、
後頭部にロゼの右ストレートを喰らって即死した。
初手で指揮官を失った山賊たちはどうすればいいのかわからなかった。
彼らは待機命令を出されたままであり、勝手に動いて罰せられることを恐れた。
人質を傷付けてはいけない。それが今回の襲撃における絶対的なルールだった。
「おっ、親分!どうすればいいですか!?」
「チッ……、そんなん俺様が知るか!!
頭使うのはアイツの仕事なんだよ!!
だが、アイツはもういねえんだ!!
テメェら自分で考えて動きやがれ!!」
首領から新たな命令を下された山賊たちは動き出した。




