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17/22

017模倣

 ――ミハを撫で始めてから数分後。

 ミハはタクミの腕の中で寝息を立て始める。

 タクミは眠っているミハを起こさないように静かに寝袋へと寝かせた。


『タクミ、腕繋げたぜ』


 クロガネの声を聞きタクミは右腕を曲げ伸ばしたり手の指を開閉したりして右腕の状態を確認する。

 動かすと多少の痺れを感じるが腕は問題なく稼働した。


『問題ねぇか?』

『うん、大丈夫。それじゃあ解体始めよっか』


 タクミは赤蜘蛛の死骸をうつ伏せにひっくり返し逆手に持った短剣で切り開いていく。

 


 ――解体が終了した。

 タクミの眼前には部位ごとに分別された品々が広がる。

 赤蜘蛛の体内は骨や筋ばかりで体長に比べて食せる部位はあまりない。

 だがその分いろいろな用途で使えそうな部位が数多くあった。


 食料になる物や用途があるものはリュックサックへ収納していき不要な内臓等は少し離れた場所へ投棄する。

 それから残った物品で恒例の工作が始まった。


 ――一時間後。

 タクミの前には完成した品が並ぶ。

 作成したのは赤蜘蛛の前脚を素材にした二振りの黒剣。その剣に刃と言える物はない。剣に架けた赤蜘蛛の糸で対象を断つ。さらに剣の半ばに関節があり、それを折り畳んだ短剣形態と伸ばした長剣形態を相互に変形できる。 


 タクミの手で作られた物はそれだけだ。だが新たに作られた物はそれだけではない。

 タクミの腹の中。

 内臓のひしめく空間に新たに作られたのは赤蜘蛛の臓器を模倣した臓器。

 その機能は搬入した素材を元に糸状の物質を生成するというものだ。

 現在は赤蜘蛛の体内に残された物質がタクミの体内へ貯蔵されており、赤蜘蛛の糸とほぼ同質の物を生成可能である。



 タクミは早速完成した黒糸剣を試そうと構える。

 刀身に厚さがなくかなり軽い。

 黒い泥が手の平を貫通し黒糸剣の関節へ絡みついた。

 黒糸剣の関節がキシっという音を発しながら稼働し、片刃形態から両刃形態へと変形する。

 タクミは上段から太い木の枝へ黒糸剣を振り下ろす。

 腕はなんの抵抗もなくその動作を終える。

 一瞬の間の後、太い枝ががさがさと騒音を立てながら地面へと落下した。


『凄い切れ味!』

『嗚呼、想像以上だ』


 何度か試し斬りして満足したタクミは散らかった荷物をまとめる。

 それからミハが入っている寝袋を葉の大きな植物が群生している場所へ隠し周囲の地面に大口獣の血液を少量散布した。

 タクミもミハの眠っている寝袋へと入る。

 ミハの体を抱き枕にタクミも眠りへと就いた。



 ――タクミは体の揺れ動く振動で目を覚ます。

 タクミの腕の中にいるミハが息を荒くしてタクミにしがみ付いている。


 寝袋の内部は数時間分のタクミの匂いが充満している。

 そんな空間にタクミ臭中毒を患っているミハが閉じ込められてしまった。

 長時間タクミの匂いに中てられたミハは頭は脳内麻薬に浸され悲惨なことになっている。

 そんなことを知る由もないタクミはまたミハが甘えているのだなと思うだけでミハの頭を撫でながら一緒に寝袋から這い出す。


 この森では何処に目を向けても虫が眼に入るが散布した青毒の効力で周囲に虫の姿はない。

 タクミはぼけーと虚空を見つめているミハを置いて軽い周囲の散策をする。

 食せそうな果実はそれなりに実っているがほとんどが虫食いの為、三十分ほど散策した成果は木の実数個で終わった。


 戻るとミハの眼に光が戻っていた。

 ミハを心配させないためにお互いに目の届く範囲にしか行っていない為戻ったら泣きじゃくっているなんてことにはなっていなかった。


「ミハおはよう」

「……おはようございます」


 ミハは寝袋の上に体操座りで体を丸め、非難する様な目をタクミに向けている。

 その様子にタクミは疑問符を浮かべるがミハが何も言ってこない為気に留めなかった。


 タクミは果実の一つを齧り残り三つをミハへ渡し食べるように促す。


「私の方が多いです。半分にしましょう」

「僕は虫も食べるから大丈夫だよ。それともミハも虫食べる?」


 そう言いながらタクミは芋虫を自分の口に入れる。

 その様子を見て顔を青くしたミハは慌てて果実を食べ始める。

 その後、ミハが果実を完食したのを確認したタクミは革袋から歪な黒い肉塊を取り出し拳大のサイズで二人分カットする。

 タクミは片方をミハへ手渡しその黒肉を噛みちぎる。

 それは赤蜘蛛の肉だ。

 水分があまりなくとても硬いので租借し飲み込むだけで一苦労である。

 ミハもタクミに習い食べようとするが黒肉のその硬さに顔をしかめる。


「歩きながら食べよう」


 完食までに時間が掛かると判断したタクミは荷物を背負う。

 ミハが準備を完了していることを確認したタクミは歩き出す。


 前回の行進と打って変わり道草をせずに進み続ける。

 この森の危険度と生活難易度が高いと判断し先を急いでいるのだ。


 暫く歩いていると二人の耳がブザーの様な羽音を捉える。

 その羽音の音源は変則的に動きながら徐々に二人へと近づいている。

 タクミはミハへリュックサックを預け隠れているように合図を送る。

 それから両手で骨剣を構え迫りくる何かをじっと待つ。

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