014寄生黒泥種
行動を終えたタクミは衝動がだんだんと静まり落ち着きを取り戻す。
タクミは眼下で力なくびくびくしてるミハを見た。
初めて感じた怒りという感情をコントロールできずミハに無理強いをさせてしまった自分自身にタクミは動揺を隠せない。
『クロガネ!どうしよう!ミハがびくびくしてる!』
『……ほっといて問題ねぇ』
クロガネはタクミが初めて見せる怒りの姿を静かに観察していた。
感情とは人が限界以上の力を引き出す手段だとクロガネは捉えている。
だが負の感情の対象がクロガネ自身になるのは都合が悪い。
故にタクミが感情的になる条件とその制御方をクロガネは模索する。
タクミはクロガネが大丈夫というなら大丈夫なのだろうと安心するが明らかに異常な反応をしているミハに少し罪悪感を覚える。
それからタクミはミハの様子をちらちらと伺いつつ中断していた裁縫を進める。
『ミハから出てきた寄生百足ってどんな奴なの?』
ミハを見ていたら湧き上がった疑問をクロガネへ問いかける。
『あー、奴は入った物の脳を食い尽くし神経に成り代わる。んで、食いもんと番を探して放浪するだけの物になるな。――ゾンビが近ぇか?』
『ミハから出てきてすぐ死んだけど……』
『奴に合成した大口獣の青毒を打ち込んだからな。虫には特に効くみてぇだ』
『え!?それってミハの体は大丈夫なの?』
『嗚呼、ミハに俺の体を千切って残した。核がねぇから意思はねぇが機能は同じだ。偶に繋げて更新すりゃぁタクミと免疫を共有できる』
それを聞いてタクミは感心する。
『クロガネって器用だね。ていうかクロガネに核あったんだ、知らなかった。』
『俺の種族は単身で生きるのを完全に放棄したからなぁ。入った生物が分隊を生み出す生態の時とかの為に体を千切って配れるように進化したんだろうな。んで、そうなると本体がねぇとやばくなるから核があるって訳だ』
タクミはクロガネの話を好奇の感情で聞き続ける。
『じゃあクロガネの種族の繁殖てどんなかんじなの?』
タクミはクロガネへ問いかける。
――しかしクロガネからの返答が返ってこない。
心配そうな声色でタクミは呼ぶ。
『クロガネ?』
『っ嗚呼わりぃ。その繁殖方法なんだが』
名前を呼ばれたクロガネは逡巡から我に返った様子だ。
そして頭を捻る様な力の無い口調でクロガネは言う。
『それがわからねぇんだ』
それを聞いてタクミは一瞬何か言おうとして考え込む。
『僕はインターネットで子供のつくり方を知ったけど野生生物はどうなってるのか想像もつかないな。その時になればわかるものなのかな?』
『嗚呼、俺もそう勘繰ってるぜ。相手が現れりゃ自然と解んじゃねぇかってな』
――手を動かしながら取り留めの無い会話をしているとミハが起き上がっていることにタクミは気づく。
ミハはただじっとタクミを見つめていた。
「ミハ!大丈夫? 体に変なとこない?」
タクミの言葉にミハは静かに頷く。
それを見てほっとするタクミ。
「何故その方向なのかとか詳しくは説明できないんだけど。人里がありそうな所を目指して旅してるんだ。ミハも一緒に行こう」
完成した毛皮のフードをミハへ渡しながらタクミは言う。
ミハは受け取ったフードを顔が隠れるほど深く被って答える。
「私に選択肢はないですから」
それは今までとは異なる距離感のある言葉だった。
だがそれを肯定と受け取ったタクミは微笑みせっせと支度を始める。
「いろいろ教えるけどこれが一番大切だからよく聞いて。僕の通った道しか通らないこと、合図を出したら通った道を全力で走って物陰に伏せること」
荷物を全て背負ったタクミがミハへ真剣に言う。
「わかりました」
ミハの真剣な返事を皮切りにタクミとミハは歩き出す。




