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(14)ドラコ危機

     ***


 ――――国教会支部



「いよいよですわ」



 目の前に整然と並んだ聖騎士たち、否、入れ替わりに入れ替わって今やほとんどが“聖女”の信奉者たちとなった聖騎士団を前に、マーティアは微笑んだ。


 増強した軍は、全部で一万に達した。

 むくつけき男たち皆が、崇拝と劣情の混ざった目でマーティアを見つめている。



 もともと治安維持のためにいたドラコ兵に加え、カバルス軍が入ってきたこと、さらに征東大将軍ベルセルカ・アースガルズの存在から、今日(こんにち)まではドラコで目立った動きをすることはできなかった。

 従って、もっぱら騎士と兵の増強に力を入れてきたのだ。


 もともと体は屈強な男たちをかき集めた。

 しかし、そのうえでマーティアは、肉体強化の魔法をひとりひとりにかけた。

 今や聖騎士団の男たちは、先日まで団長だったデメトリオの背丈1.3パッスス(約192㎝)を下回る者がいないほどだ。


 もちろん、その筋力も強化している。

 岩を素手で砕き、やすやすと鉄楯を曲げる膂力(りょりょく)

 自分の身の丈ほども跳べる、跳躍力。

 並みの剣では刺し貫けもしない、頭蓋を砕けもしない頑丈さ。



「すでに尖兵は動き出していますわ。

 あなた方が動き始めるのは本日の夜、0時。

 わたくしが受けた“神託”ではその頃、このドラコに、異端者たちの阿鼻叫喚の声が満ちていることでしょう。

 異端者たちが一掃されたそののち、このドラコを、わたくしたちが救うのです」



     ***



「……だ、そうにゃ」



 国教会支部から急ぎ戻ってきたナルキッソス(現在黒猫の姿)の報告を軍議室でうけて、ベルセルカは思案した。



「ありがとうございます、ナルキッソス。

 0時まで、あと8時間。

 しかも“大惨事”はそれまでに起きるということですね?」



 同じ部屋のなかには、メサイアとドレイク、イヅル、レマに、金髪碧眼の少年ペルセウス。

 それにドラコの治安維持兵の代表2名と、ドラコ軍の騎士としてただいま鍛練をうけている者たちの代表5名。

 それから冒険者たちの代表として、50歳近い女冒険者アスタルテが席についていた。


 ―――メサイアとドレイクが帰ってきた時の城の中の反応は嵐のようで、特にメサイアは感極まった乳母からの往復ビンタを甘んじて受けていた。

 騎士たちとも当然面識はあり、対面するなり騎士たちは皆顔を引き締めた。


 ここにドラコ城の人々は、失った主を再び取り戻そうとしている。


 その矢先、再び国教会聖騎士団が何かの企みを動かしはじめていた。



「騒乱を起こして、それを鎮圧する(てい)でドラコ兵やカバルス軍を襲うということでしょうか?」


「いや、そうじゃなさそうにゃ。

 その『阿鼻叫喚』自体が、ドラコ兵やカバルス軍までも襲うもののように思えたにゃ」


「国教会が、どうしてそんなことを……?

 とても、信じられぬ」



 敬虔(けいけん)な信仰を持つ騎士のひとりが、頭を抱えた。



「高潔たれ。盗むべからず。犯すべからず。殺すべからず。隣人を愛せよ。神のもとで人は平等。

 ……人のみちを私たちに教えてくださったのは、すべて、神であるというのに、なぜ、神は」



 その前提は、すぐにねじ曲げてしまえるものでもあったのだ。だからこそこの国では、すでにたくさんの不条理がまかりとおっている。


 ベルセルカは口を開いた。



「ドラコの皆様にお伺いします。

 あくまで可能性として考えたいのですが、この地において殺傷力の強いモンスターといえば、何ですか?」


「……モンスターを操り、人を襲わせるとお考えですか?

 力が大きいのはドラゴンやワイバーンでしょうが、彼らは襲われない限りは向こうから人間に危害を加えることはありません。また、簡単には操られないでしょう。

 やはり一番恐ろしいのは、山岳地帯にいる魔狼(ワーグ)たちでしょうか……」


「大丈夫、魔狼(ワーグ)は今回は敵には回りません」


「は?」


「他には?」


「そうですね、魔狼(ワーグ)が入ってこないならばあとは、マンティコアやバシリスク、ラミア、大蛇、人食い鳥、あとは古い墓場に巣くう不死者…………」


「しかし、その数はさほど多いわけではありませんし、そういったモンスターを手なづけられる者など、相当熟練の冒険者ぐらいなのでは……」


「なるほど、ありがとうございます。

 だとすると、やはり、この間の袋覆面のようなことをするのでしょうか……」


「あのぅ、ベルセルカ様」



 遠慮がちに、冒険者代表のアスタルテが、もちもちと肉付いた手をあげた。



「どうぞ、アスタルテ」


「城に迎えてもらっている冒険者仲間のおじいちゃんから聞いたんですけど、実は、冒険者たちのごく一部には恐ろしい技を使えるものがいるそうで、もしかしたら、それかも」



 そのような前置きに続けて、アスタルテが口にした可能性に、全員、次第に血の気が引いてきた。

 ……全員、ではなかった。

 ひとり、冷静な顔をしていた少年がいる。



「前例はあります。私の前世で、そのような手を使う冒険者と、闘いました」


「……とどめを刺してくれてありがとうございます、ペルセウス」



 ベルセルカの顔が少々ひきつったが、すぐに平静な真顔に戻った。



「では、全土に警戒を呼びかけ、町の人々と冒険者の外出禁止を。重々警戒するようにとうながしましょう。

 聖騎士団がすでに動き出しているならこちらの動きを気取られても延期はしてくれないでしょう。堂々と動きましょう。

 カバルス軍を町に出します。それからレマには特別任務を」



     ***

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