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(1)国王と姫騎士、冒険者の町を歩く




 ――――王佐公第6位ドラコ公爵が治めていた地、ドラコ。

 征魔大王国レグヌムの東南東の辺境に位置するこの地は、東は険しい切り立った山脈地帯に面しており、そこから先は、魔物たちが住むといわれる山々や森が延々続いていた。


 魔物と人が頻繁に遭遇するこの地では、昔から(ドラゴン)やワイバーン、その他希少モンスターの出没例もおおい。

 俗に『ダンジョン』と呼ばれる地下に広がる魔物の巣窟も、判明しているだけで50箇所以上ある。


 そのため、『冒険者』と呼ばれる、討伐依頼を受け、また希少モンスターやダンジョンでしか手に入らない高価な素材を狙い、生活の糧とする男女が、この地にはたくさん集まっていたのだ。



 そんな冒険者たちであふれるドラコのとある町を、若い男女の2人組が歩いている。


 一人は、手足の長いやせ型の長身に、漆黒の短髪、紫水晶(アメジスト)の瞳を持つ18歳の少年で、肩に毛並みの良い黒猫をのせている。

 もう一人は、白桃のような瑞々しい肌、輝くばかりにつややかで長い赤髪を後頭部で束ね、大きなエメラルドの瞳を輝かせる16歳の美少女。


 2人とも、簡易な防具をまとった格好にマントをまとっている。

 少年は腰に剣を2本差し。

 少女は剣1本と、奇妙な側刃を持つ槍を携えていた。


 言うまでもなく、国王レイナート・バシレウスと、彼に忠誠を誓う姫騎士ベルセルカ・アースガルズである。

 そして、国王の肩にいる残り一匹。



「わー!! 冒険者!!

 ホンモノの冒険者にゃ!!」



 黒猫ナルキッソスは、あちこちを見ては興奮したようにしゃべる。

 前世は異世界人であり、少し前まで使い魔として使われ、けっこうな魔法も使える幹部猫なのだ。

 ちなみに語尾は本人のこだわりである。



「ナル。前世の国でも、冒険者がいたのか?」


「残念ながら、いなかったですにゃ!

 ゲームとか小説とか漫画とか……ええと要は、絵物語とかお芝居でしか会ったことないんですにゃ!

 だから、めちゃめちゃうれしいにゃ!!!」


「え? えと……そんなにか?

 ほら、うち(カバルス軍)にも聖王級冒険者の生まれ変わりがいるだろ?」


「現役が見たかったんですにゃ!!

 にゃー! わー!

 あそこの人たちパーティー組んでるにゃ!!

 勇者とか剣士とか聖職者とか盗賊とかテイマーとかいるんだにゃ絶対!!

 わーい!!」


「ぱー……? え?

 聖職者と盗賊が何を組むんだ?」



 (あるじ)は若干混乱しているが、異世界出身のナルキッソスにとって、冒険者たちは、非常にあこがれの存在だったらしい。

 なんだかすごく、嬉しそうだ。


 一方ベルセルカは別のところに注目している。



「ファッションがすごく面白いですよね。

 傾奇者(かぶきもの)と言ったらいいのでしょうか」


「かぶきもの?」


「自由な発想でつくられてる格好というか。

 時代を先取りしてたりするのかもですね」



 冒険者たちは皆、服装が個性的だ。


 竜の(うろこ)を重ねたようなかたちの(よろい)

 戦場では使いにくそうだが、派手で目立つ大きなトゲのついた武器。

 悪魔を模したようなヘルム。

 どうやって作ったのか気になる大きな剣。

 体を守るというよりも誇示するように、肩につけてなびかせているマント。


 軍隊でないからこそ、武具も含めてファッションとして追求している感がすごい。

 実戦的かどうかなんて、ここでは野暮な話なのかも。

 いや、冒険者たちも実際に闘うのだからその要素も無視はできないけど。



「ベルセルカも、ずいぶん楽しそうだな」


「ええ、楽しいですよ!

 もしレイナート様が転生者として王族の資格を剥奪されていたら、最終的にこういう冒険者として活躍してたかも────とか、想像しています」


「なんだそりゃ」



 微妙な顔をしたレイナートに、ベルセルカは笑った。


 冒険者たちは、モンスターを退治したり危険な便利屋のような仕事をこなす。

 組織への登録と、当然腕っぷしは必要なのだけど、言ってみれば誰でも名乗れる自由さがある。


 元兵士。

 逃亡奴隷や逃亡娼婦。

 食い詰めた農民。

 結婚から逃げ出した娘。

 そして転生者。


 そういったワケアリな人間もそうでない人間も、一攫千金を夢見て選ぶ職業。

 命をかけ、体を張りながら、それでも何かに縛られることなく生きられる、自由な生き方。

 一人一人の思いが、気風が、自由な服装にも反映されているように思えた。



「それに、女の子の冒険者がこんなに多いなんて、予想外でした!」

「そうにゃ! 眼福にゃ!」

「……あ、ああ。そうだな………」



 割合は少ないながら、町中を、剣をもつ少女たち、女性たちが闊歩(かっぽ)しているのも、ベルセルカにとっては嬉しかった。



 女であることを明かし戦場に臨んでいるのは、この国ではカバルス軍と国王親衛隊の女兵士たちのみである。

(男装し性別を偽って従軍している女兵士はいにしえから意外と多いのだけど)


 女性たちの大多数は、教会の教えに従い『女として望ましい』生き方を余儀なくされる。

 ──貴族でもないのに化粧などするな。

 ──足首の下までスカートで隠せ。

 ──制限された職業と少ない賃金で食いつなげ。

 ──武装することなど許さない。

 ──常に、醜聞と強姦の恐怖におびえて生きろ。


 それが、どうだろう?

 街を行き交う冒険者の女性たちは、剣や武器を持ち、奇抜な(よろい)をまとい、足や胸や体の線を見せて軽やかに歩く。


 髪型も思い思いで、素っぴんの者、盛りに盛った化粧をする者、奇抜な化粧を描く者、むしろ男のように装う者、様々だ。


 誰にも、どういった方向からも『望ましさ』を強要されず、それぞれ胸を張ってはつらつと、男たちと対等に話をする。

 危険をこれまで冒して生き延びてきただろうし、それぞれの修練や戦闘経験のたまものなのだろうけれど、カバルス軍の女性兵士とは、また違った自立と自由を感じた。



「レイナートさま!

 あの女の子の鎧、かわいくないですか?

 夜会用のドレスみたいに胸元がこう開いてて。

 ドレスと鎧をまぜたみたいです!」


「……悪い、ベルセルカ。

 俺は正直この街、目のやり場に困る……」



 一方、言葉どおり、露出が多い女性の多さに、どこに目を向けていいかわからないように目を泳がせているのは国王(18歳男子)だった。



「えー? でもほら、オシャレですよ??

 短いスカートに膝上まであるショースを合わせるのとかも、すごくかわいいです」


「……()()が薄すぎるだろう……」


「きっと防御魔法がうまい子なんですよ!」


「そうじゃなくて!!」


「オレ、転生して初めて『異世界ファンタジー』っぽい女の子見たですにゃ!」


「あとナルは俺にわかる言葉で話してくれ」



 国王が猫にわがままを言ったその時。

 ザワリ、と町の者たちにざわめきが走る。




「────“聖騎士団”のみなさまが、いらっしゃったぞぉぉぉぉっ!!」




 誰かが叫んだ。

 くだらない会話に興じていたレイナートとベルセルカの顔は一瞬で警戒を浮かべた。


 互いに顔を見合わせる冒険者たち。

 不安げな者。

 国教会などなんぼのものかと吠える者。

「なんと、“聖騎士団”様にお会いできるとは!!」喜ぶ者までいた。


 ふたりは何を話すまでもなく、路地に身を隠す。



 いまはこの地に入ったことを国教会に知られるわけにはいかなかった。




 ――――国王レイナートとベルセルカ、それに転生猫ナルキッソスがこの地を訪れたのは、これまでに2回こなした『各領地の困ったことを解決する』地方行脚(ちほうあんぎゃ)とは少し性格が違った。


 ドラコという地のこの自由、それ以上に、多くの冒険者たちの命は、国教会の手によってまさに危機に瀕しているのだ。


 ことは、3日前にさかのぼる。



     ***

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