↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の配信で俺だけ映らない ~撮影係の俺が画角の外で全部倒していることに、視聴者の神様だけが気づき始めた~  作者: おはぎだんご
第三章 盲層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

第26話 エドが斬った

 ──これは俺たちが線の向こうにいる間に、線のこちらで起きていたことで、あとで神殿の写しで読んだ。読んだのは三日後で、読んで俺は少しの間、字が読めなくなった。


≫雷神ドゥル:黒い。剣姫の石が黒くなった

≫戦神ガルヴァ:越えたな

≫知恵の女神アウラ:四人とも。エドもたぶん

≫冥府の神ネル:四人。生きている。白銀の五人も


 黒い画面を七千二百柱が見ていた。

 何も映らずに神託欄だけが流れていて、流れても線の向こうには届かないと神々も知っているのに、それでも書いていた。


 そこへ声が来た。


 ──見えないと思うので、わたしが言います。


≫雷神ドゥル:!?

≫迷子の神:聞こえた! 剣姫の声だ!

≫知恵の女神アウラ:……声は通るのね。石が黒くても

≫井戸の神:剣姫。聞こえてる。聞こえてるぞ


 七千二百柱の神々が、書いても向こうには届かないと知っていて、黒い画面に向かって「聞こえている」と書いた。


 ──今、十六階の線を越えました。中は暗いけど普通の通路です。水が張ってます。エドさんが前にいます。わたしは剣が重くて一回転びました。……でも立ちました。立ってます。


≫戦神ガルヴァ:立て。立っていろ

≫豊穣の女神メルティア:……立ちましたね。偉いこと


 少ししてまた声が来た。


 ──エドさんが今、三匹倒しました。右と左と正面で。四つ数える間に。見えないと思うので言います。エドさんは速いです。


 神託欄が一度止まって、五年誰も書かなかった一行を、冥府の神が書いた。


≫冥府の神ネル:三匹死んだ。エドが斬った


 エドが斬った。冥府は斬り手を知っている。

 四匹死んだ。誰も斬っていない。初めて来た日から、この神は「誰も斬っていない」と書いてきた。名前を知らない者の名前は書けないので、書けなかったのだ。

 名前が出た。だから書いた。


≫知恵の女神アウラ:ネル。あなたはずっと知ってたのね

≫冥府の神ネル:知っていた。名前がなかった

≫迷子の神:ほら!!! 三柱のときから!!! 言った!!!

≫雷神ドゥル:エドが斬った。エドが斬った。黒い中で

≫戦神ガルヴァ:見えん。見えんのに一番いいところだ


 神眼が回って、七千二百が八千になった。見えない配信を声と数だけで見るために、黒い画面に神が集まっている。


 ◇


 ──線のこちらの話はここまでで、向こうではこうだった。


 水を蹴る音は二つだった。

 闇の奥から来たのは、岩蜥蜴ではなかった。鱗ではなく濡れた石のような黒い肌で、目がなく目のあるべき場所がただ平らになっていて、大きさは犬ほどだ。

 二匹が水の上を這うように真っ直ぐティナへ来た。

 俺の横を通り過ぎた。魔物には俺が見えるはずなのに、この二匹は俺を見なかった。目がないからではなく、俺がこの二匹にとって何でもないからだ。


「ティナさん。下がって」


 剣が重くても足は動くので、ティナは下がった。

 一匹目が跳んだ先に俺が入って、短剣を腹に入れると、血ではなく冷たい水が出た。二匹目は死んだ一匹目を越えて、俺を越えてまだティナへ向かった。首を落とした。

 斬ったのは二つだ。


「……今のは何?」


 セレスが杖の鉄を構えたまま言った。


「分かりません。目がない。俺を見なかった。ティナさんとあなたしか見ていなかった」

「加護持ちを?」

「加護は消えているはずです」

「消えていても器は残るのかしら」


 器というのは、加護を受ける人間の側の何かだ。線の向こうで加護が消えても、加護を受けていた体は残っていて、この二匹はそれを嗅いでいる。

 俺にはそれがなく、十五のときに石の前で分かったことが、ここでは逆に効いた。


「エドさんが二匹倒しました。黒くて目がない魔物です。わたしのほうに来ました。エドさんのほうには行きませんでした。……見えないと思うので言います。エドさんはここでは誰にも見られないんじゃなくて、誰にも狙われないみたいです」


 ティナが石に言ったのは、俺の説明より分かりやすかった。


 ◇


 通路の先の横穴に、松明ではない光があった。消えかけの火の燠を、誰かが守っている。

 俺が先に入ると、三人が濡れた床に座って壁に背を預けていた。腕の折れた男と、目を閉じて息だけしている男と、もう一人だ。

 赤茶ではない黒い短い髪の若い女で、石を、黒い石を腰にくくりつけたままだった。


「……剣姫?」


 ティナが俺の横をすり抜けた。


「ミラさん!」

「なんであんたが」

「来ました。……水筒を返しに」


 ティナは腰の水筒を外して差し出した。ミラが三柱のティナに貸して、ティナが返しそびれたまま「渇かず」の日に俺にくれて、俺が次の日に彼女の腰へ戻した水筒だ。

 ミラはそれを見て受け取ると、声は出さずに泣いた。泣いている間、ティナは黒い石に向かって言った。


「ミラさんがいました。生きてます。三人です。……一人はいませんでした」


 いなかったのは、ネルが書いた一人で、ミラの組の四人目だ。

 オルドは折れた腕の男のそばに屈むと、帳面を閉じて懐から包帯を出した。神殿の人間が包帯を持ち歩くことを、俺は知らなかったのだ。


「神殿は、本当はこういうことのためにあるはずでした」


 巻きながら、誰にともなく言った。

 ミラは水筒から口を離して、俺を見た。


「……あんたが、無口の撮影係?」

「ええ」

「無口じゃないじゃん。今しゃべった」

「必要なときは」


「白銀の翼は」


 俺が聞くと、ミラは奥を指した。


「もっと下。水の深いほう。……あいつら通り過ぎてった。あたしたちを見つけたのに助けないで下へ」


 ジークは神殿に選ばれた顔で線の向こうへ降りて、降りた先で三人を見つけても通り過ぎた。依頼は救助ではなく、調査だからだ。

 ティナは何かを噛み殺した顔をして、噛み殺してから石に言った。


「白銀の翼はもっと下です。わたしたちは行きます」

「ミラさんたちはここで。燠を絶やさないで。戻りに拾います」


 俺が言うと、ミラは水筒を抱えたままうなずいた。

 闇の奥で水の音がまた聞こえたが、今度は二つではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。